( 189181 )  2024/07/09 16:28:39  
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2025年の年金改正に向けて政府内での議論が進んでいるが、国民年金の保険料支払期間を延長する案は見送られた。

しかし、保険料の負担増や給付の減少といった流れは止まらないと指摘されている。

政府は保険料を長く、多く取りたいという姿勢を持ち続けており、厚生年金の適用要件拡大なども検討されている。

さらに、高齢者の定義を変更する議論もあり、将来的には年金支給開始を70歳に引き上げる可能性も指摘されている。

保険料の負担が増える一方で、政府は働くことを奨励し、企業が65歳まで働ける環境を整える方針で動いている。

(要約)

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“保険料をなるべく長く、多く取りたい”という姿勢は変わらないか(写真/JMPA) 

 

 2025年に控える5年に一度の年金改正に向けて、政府内の議論が活発化している。7月3日、厚生労働省は国民年金(基礎年金)の保険料支払期間を現行の40年から45年に延長する案を見送ると決定した。ひとまずは、加入者が5年延長による保険料負担増を突きつけられる事態は避けられたものの、専門家からは年金をめぐる「負担増、給付減」の流れは止まらないとの指摘も出ている。 

 

【一目瞭然シミュレーション図解】高齢者の定義が「70歳以上」に変更されて受給開始が遅れれば、夫婦の年金が1000万円以上減ると一目でわかる 

 

 国民年金の保険料支払期間を5年延長した場合、保険料は月額約1.7万円のため、5年間で約100万円の負担増になる。厚労省の社会保障審議会年金部会で議論が進められていたが、今回の見送りについて橋本泰宏年金局長は年金部会のメンバーを前に、負担増への批判が大きいため〈「法律案にまとめて国会で成立させられるのか見通しを持てない」と話した。/「残念ながら批判を一掃できているとはいえない。力不足をおわびしたい」と(中略)年金部会のメンバーに陳謝した〉(日経新聞電子版、7月3日付)などと報じられた。 

 

 ただ、これまで保険料を支払う必要のなかったパート労働者らに保険料負担が生じる厚生年金の適用要件拡大などは、引き続き議論が進められていく。年金財政が逼迫するなか、政府が“保険料をなるべく長く、多く取りたい”という姿勢であることは間違いなさそうだ。 

 

 また、年金給付をめぐっても、気になる議論がある。それが「高齢者の定義見直し」だ。発信源となったのは岸田文雄・首相が議長を務める経済財政諮問会議だ。関係閣僚や企業経営者、学識者らで経済や財政の重要事項について基本方針を審議する場だが、5月23日の同会議では〈新たな令和モデル〉のひとつとして、十倉雅和・経団連会長ら民間の有識者議員から「高齢者の健康寿命が延びる中で、高齢者の定義を5歳延ばすことを検討するべき」と提言された。全国紙経済部記者が言う。 

 

「高齢者を定義付ける法律等はなく、WHO(世界保健機構)が65歳以上を高齢者としていることから、65歳で線引きされることが多い。年金受給開始の年齢も65歳だし、高年齢雇用安定法でも雇用の義務付けは65歳までになっている。高齢者に一律の定義がないのは、加齢に伴う身体や認知機能の変化に個人差があるためですが、政府側には高齢者の定義を都合よく変えたいという狙いがあるともされる」 

 

 経済財政諮問会議での「高齢者の定義を5歳延ばす」という提案を受けて、ネットでは「年金の支給開始を70歳にする布石では」とも騒がれた。そうした考え方に、現実味はあるのだろうか。 

 

 

 年金博士として知られる、社会保険労務士の北村庄吾氏(ブレイン社会保険労務士法人代表)は「政府が最終的に目指しているのは、現行の60歳定年・65歳年金支給開始から5歳延ばした65歳定年・70歳年金支給開始を準備していると考えられます」と話した。 

 

「来年に控える5年に一度の年金改正では、一定以上の給与がある高齢者の厚生年金(報酬比例部分)を減額する『在職老齢年金』の廃止を含めた見直しを検討している。働くと年金が減るのでは、“働くと損”という考え方になる。この制度があると、年金が減らない範囲で働くという考え方になってしまい、働く意欲がわかない。保険料に見合った給付を得るという原則にも反する。そうしたこともあり、見直しが議論されてきた。 

 

 ただ、背景に少子高齢化による労働力人口の急減という問題があるのはたしかです。高齢者にどんどん働いてもらわないといけない。65歳まではもちろんのこと、65歳以降も働いたほうが得だという制度変更を進めていくと考えられます。すでに、前回の年金改正で65歳以降も働くと1年ごとに厚生年金が上乗せされる在職定時改定が導入されています。 

 

 そうして65歳以降も働いたほうがいいという流れを政府が作っているのは、企業が65歳定年を前提とし、働ける人は70歳まで働こうとするような社会にしていきたいという意図でしょう。そして、これまで定年から5年遅れで年金支給が始まるというのがパターンだったので、65歳定年になれば年金支給開始は70歳になる。そうなれば70歳まで定年後再雇用があるかたちとなるでしょう。つまりは、『高齢者の定義を5歳延ばす』という提言と合致するわけです」 

 

 北村氏は、70歳支給開始への準備は着々と進んでいるという見方だ。そして次のように続けた。 

 

「いきなり年金支給開始を70歳まで引き上げることはないでしょう。67歳や68歳に引き上げたうえで、段階的に70歳にしていくというシナリオになるでしょうね。65歳で定年になった時に70歳まで働ける人はいいが、健康状態の個人差もあるし、いい仕事を見つけられるかも人によります。とはいえ、現時点でも働けるうちは働くという意識の人が多くなっており、そういう意味では政府の狙いはうまくいっているということでしょうね」 

 

 年金改悪の動きがあるなかで、一人ひとりが自衛策を考えなくてはならない。 

 

 

 
 

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