( 189691 )  2024/07/11 01:37:13  
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都市部で盛んな「中学受験」に子供を送り出す親たちの悩みを取り上げ、中学受験塾に通う保護者の悩みを紹介している。

親たちが子供の偏差値や志望校に対して悩み、中学受験に対する価値を考える姿勢について指摘しており、偏差値だけでなく子供の個性や受け皿になる学校の選定も重要であると伝えている。

中学受験にこだわる必要はなく、子供がやる気を持てる学校を選ぶことが大切であるとしている。

(要約)

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 「中学受験塾」には聞きづらい保護者の悩みに答える(イメージ) 

 

 首都圏など都市部で過熱する一方の「中学受験」。受験を志す子供は中学受験専門の塾に通うのが一般的だが、親にも子供をサポートする“伴走力”が求められる。「少しでもいい学校に」と望んで子供を叱咤激励するものの、成績は一向に上がらず、それどころか、子供がまったくやる気を見せないことに苛立ちを覚える保護者もいるのではないか。学力中位層(または低位層)の子供を持つ保護者の赤裸々な悩みを、フリーライターの清水典之氏が現役の塾講師にぶつけた。(全5回シリーズの第1回) 

 

 * * * 

「こんなはずではなかった……」。子供に中学受験させることを選んだ親たちのなかには、そう感じている人が多い。 

 

 首都圏模試センターの調べによると、首都圏1都3県で2024年の私立・国立中学受験者数は5万2400人で、受験率は過去最高の18.12%を記録したという。公立の中高一貫校の受験者も含めると、東京、神奈川、千葉、埼玉では小学6年生の4.7人に1人が中学受験をしたことになる。中学受験ブームの過熱とは、“競争の激化”を意味する。 

 

 中学受験をする子供は週に4日も5日も塾に通い、夏休みも夏期講習や合宿で朝から晩まで勉強漬けである。しかし、今や中学受験では中学受験専門塾に通うのが当たり前になり、みな同じように勉強しているのだから、偏差値は容易には上がらず、現状維持が精一杯。努力に対する成果が見えず、子も親も疲れ果て、「こんなはずではなかった」と悲鳴にも似た嘆きの言葉が漏れてくる。 

 

 ある親は、「ネットには中学受験に関する記事があふれているが、出てくる学校と言えば開成や桜陰、筑駒などのトップ校、塾と言えばSAPIX。中位・下位にいる我が子にはまるで“雲の上の世界”のようで、参考にならない」と不満を口にし、またある親は「偏差値や模試の結果で受かりそうな学校は、今まで聞いたことのなかった学校ばかり。これだけ塾にお金と時間を注ぎ込み、私立中高一貫校の高い学費を6年間払う価値があるのかどうか、判断ができない」と悩む。「当の子供には、まったくやる気がなく、隙あらばサボろうとするので、親子ゲンカが絶えない」といった声もよく聞く。 

 

 そんな、いわゆる“ボリュームゾーン”にいる親たちの悩みについて、高校受験向けの塾で講師を務める東田高志氏にアドバイスをしてもらった。中学受験の指導も経験したことがあるという東田氏は、Xのアカウント名「東京高校受験主義」で4.6万人のフォロワーをもち、この5月に『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』を上梓している。小学生とその親を導く現役の中学受験の塾講師ではなかなか言えないような率直な意見は、今後の意志決定の参考になるはずである。 

 

 

 今回の相談は、「小学校の成績は良かったのに塾では思うほど偏差値が高くなく、有名中学を狙うのが難しい」と悩む以下の父親からだ。 

 

《5年生から中学受験塾に子供を入れていますが、このところ偏差値はずっと50前後(日能研偏差値)を推移しています。学校での成績はそこそこ良かったので、御三家は無理でも、それなりに名前の知られた中学に入れるだろうと期待していたのですが、この成績で受かりそうな学校は、今まで聞いたことのない学校が多く、どこを選べば良いかわからない。 

 

 最終的には偏差値で選ばざるをえないが、中学受験って本当にお金も手間もかかって、ここまで苦労してその学校を目指す価値があるのだろうかという気持ちを消すことができない。だから、親も子もモチベーションが上がらない。仮に受かったとしても、公立の地元中学校と比べて、高い学費のかかる私立中学に進学することに、どんなメリットがあるのでしょうか》(45歳、会社員男性) 

 

 この質問に対し、東田氏は「中学受験の偏差値を、高校受験の偏差値と一緒にしてはいけない」という。 

 

「公立中の中学3年生のほぼ全員が受験する高校受験と違い、中学受験をするのは、小学校の中では真ん中よりも上の層で、学力レベルが高い子たちが集まっています。だからその中での偏差値50は、小学校の中では上位に位置します。その構図を理解していないと、『偏差値50の学校に進学するために、こんなにお金や時間をかけるのは……』という感覚に陥りがちですが、一般で知名度が低くても、偏差値50前後の中学校はまぎれもなく進学校です。 

 

 いわゆる御三家のようなブランド校に行けるのは、本当に上澄みの一握りなので、こだわりを持てば持つほど、現実の子供の成績とのギャップが浮き彫りになって、学校に価値を見いだせなくなります。その認識を改めず、ブランドに過剰にこだわる親というのは、子供に過大な負荷をかけかねず、中学受験に向いていないと言わざるをえません」(東田氏) 

 

 自身に中学受験の経験がない親は、高校や大学受験の感覚で「偏差値」を判断してしまうのかもしれない。 

 

 

「『偏差値下位の私立中学って、進学する意味がないですよね?』とよく聞かれるのですが、私はまったくそうは思いません。偏差値下位の学校の中には、あまり成績が優秀ではない子供に対して、非常に面倒見良く勉強を教えてくれる学校がありますし、発達障害をもつ子供の受け皿になっているような学校もあります。そうした学校ごとの価値を見出せるのなら、進学する意味はあると思います。 

 

 では、どうやって学校を選べばいいか。やはり塾に相談するのが一番いいと思います。お子さんの学力で手が届きそうな学校を教えてくれるので、その中から学校説明会や学園祭などに足を運んで見学すれば、『この学校、けっこういいね』『子供に合ってそうだな』という学校が見つかるのではないでしょうか。 

 

 何校見学しても、親も子もしっくりこないというのなら、中学受験というのは所詮はオプションですから、無理をする必要はありません。中学受験からは撤退して、地元の公立中学校に進学すればいいのではないでしょうか」(東田氏) 

 

 東田氏は、中学受験に価値を見いだせないのであれば、無理する必要はないという。志望校選びは、偏差値にこだわらず「子供が気に入るかどうか」で決めてもいいのではないだろうか。 

 

 次回は、子供に受験生としての自覚がなかなか生まれないことに、苛立ちを覚える保護者の悩みに東田氏が答える。 

 

(第2回に続く) 

 

【プロフィール】 

東田高志(ひがしだ・たかし)/Xで 4.6万 フォロワー(2024年7月現在)のいる教育系インフルエンサー。首都圏の受験情報を毎日配信している。実生活では、20 年以上のキャリアを持つ塾講師。学校と塾の変化を見続け、現場を知り尽くし、小・中学生を教えてきた。教え子のなかには、中学受験の撤退組、全滅組がおり、中学受験が合わなかったと感じる子どもをたくさん見てきた。2024年5月、保護者からの疑問に答える『「中学受験」をするか迷ったら最初に知ってほしいこと』(Gakken)を上梓。フィールドワークとして都内各地の公立中学校や都立高校を訪問し、区議会議員とのコラボイベントも開催している。 

 

取材・文/清水典之(フリーライター) 

 

 

 
 

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