( 189871 )  2024/07/11 17:12:00  
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偏差値50程度の中堅公立学校の校長である細川先生の話を通じて、このような学校が抱える悩みが明らかになりました。

この学校は一定の学力を持つ学校でありながら、教員不足や教員の辞任、服務事故に対する対応の難しさなど、さまざまな問題に直面しています。

また、外部の人材を活用しつつ、評価基準やコミュニケーション不足など、中堅校の実態が反映されない問題も浮かび上がっています。

(要約)

( 189873 )  2024/07/11 17:12:00  
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中堅の公立校が抱える苦悩とは(写真: Graphs / PIXTA) 

 

「教育困難」を考える本連載。今回お話を伺ったのは、ある公立高校で校長を務める細川先生(仮名)です。細川先生の高校は、偏差値50程度の普通科の学校で、決して「底辺」高校ではない、真ん中ぐらいの学力の学校です。しかし話を聞いていると、地域内で上でも下でもない位置づけの学校だからこそ、さまざまな悩みを抱えているようでした。今回は特別編として偏差値50程度の中堅校の現状について、自身も15年前に「教育困難」校を卒業した濱井正吾氏が伺いました。 

 

■熱意ある先生たちが3年で辞めてしまう 

 

 細川先生(仮名)は偏差値50程度の公立中堅校で校長を務めています。「学力が低く、荒れている」というようなわれわれが想像する教育困難校には当てはまりません。 

 

 一見すると「底辺校」「教育困難校」とはほど遠く、生徒も真面目な公立中堅校では、慢性的な教員不足によってさまざまな問題が起きているようです。 

 

 細川先生の学校は大規模校で、50名程度先生が働いています。しかし「学校改革に従事してくれる先生は5人にも満たない」と細川先生は吐露します。 

 

 数少ない熱意ある先生たちは、自分たちの学校現場をよりよくしようと、日々さまざまな意見を出すものの「現状を変えずに働きたい」と考える一定数の教師たちは快く思わず、通っている生徒たちの教育環境を整える改革は、なかなか進んでいません。 

 

 さらに補習や進路指導、部活動、教材研究や保護者対応など、積み重なっていく仕事を引き受けるのは、やはり熱意のある教師たち。あまりの負担の多さに耐え切れずに3年ほどで辞めてしまう先生も増えているようでした。 

 

 学校経営が難しい中で「体罰」「セクハラ」「情報漏洩」などの服務事故を起こす教員の対応をする必要が出てきており、細川先生はその一人です。 

 

 「服務事故を起こす人の指導・管理は、私たち(校長・副校長)が担います。そうした事故を起こしてしまった場合、服務事故を起こす人の指導・管理、再発防止のために研修を受け、当該教員に対して複数回の面談や指導をするようにしています。ただ完全に改善するのは困難です。 

 

 それに校長レベルでは自分の判断で簡単にクビにはできません。現状ではクビにすると裁判沙汰になるケースもあるため、問題を起こした先生を、学校側で継続して預かることになってしまっています」 

 

 

■問題行為を起こした先生の対応に苦慮 

 

 服務事故を起こした教員を学校に残すことは、「ほかの教員の負担が増える」ということを意味します。 

 

 「生徒のことを思うと教壇に立たせたり、指導をお願いすることはできません。でも、クビにすることもできないから、どのように扱えばよいのか日々頭を悩ませています。その先生の代わりに教壇に立って指導してくれる先生を探しますが、今度は新しい先生がが見つからない、見つかっても指導しなければならなく、負担感が増しています」 

 

 「うち以外のある(中堅)学校では、服務事故を起こした先生に出勤はしてもらうけれども、生徒に見えないところで別の部屋に入って、何らかの作業をしてもらうところもあるようです」と続ける細川先生。 

 

 どの中堅校でも対応に苦慮していますが、この状況が起きてしまっている要因は、公募のシステムにあるのでは、と細川先生は考えています。 

 

 「公募校では、各都道府県が重点的に施策を推進します。そのため、一定の上位層の学校や特色のある学校が公募校となるケースが多いです。そうなると、そのほかの学校では、それ以外の教員で人事配置をすることになるケースもあり、人材確保の際にすでに差が生じてしまいます。 

 

 人材育成を積極的にするようにと言われていますが、意識改革もそう簡単ではありません。ただ、その中でもやる気があって、頑張ろうとしてくれる教員もいるので、そういった方がわが校に入ってくれると心強く感じています」 

 

 人材難を防ぐ方法として、細川先生の学校では、繁忙期や職員に欠員が生じた際などに任用する非常勤公務員の「会計年度任用職員」に頼っています。しかし、その職員たちの評価や契約更新の作業にも、時間を割かなければいけません。 

 

 「うちの学校では、学校図書館司書や部活動指導員などを会計年度任用職員の方にお願いしており、現在は16人の方にお世話になっています。ですが、16人のすべての仕事を評価して、1年ずつ契約更新する作業には、とても時間を使います。その大変な仕事を、わが校では副校長先生がやってくださっているのですが、ただでさえ副校長先生は他の膨大な業務に追われています」 

 

 一方で、人手が足りない学校現場の中で、細川先生はこうした「外部からの人材に頼ること」に一縷の望みも、見出しているようです。 

 

 

 「学校外から来ていただくことで、確実に生徒が前向きになりましたし、われわれ教員にとっても、吸収させていただくことがとても多くなったと感じています。 

 

 大学教授の方に講演していただいたときは、1回の講義を受けただけで生徒たちの姿勢が大きく変化しているように感じました。今後は生徒や教員を含めて、内部にいる人たちに刺激を与える活動を進めていきたいですね。 

 

 ただ、講演で外部の人にお願いするためには、ある程度の先立つ物も必要になっていくので、金銭面ではわれわれ管理職の旅費を削ったり、人脈の部分では私が参加した同窓会で知人にお願いするなど、地道に活動していこうと思います」 

 

■中堅校の実情が反映されない評価基準 

 

 外部の人材を活用することに希望を感じる一方で、先述したように学校の評価、先生方の評価には膨大な作業が必要となります。それでも通っている生徒たちのために問題解決の努力を続ける細川先生ですが、自治体から指示される評価の基準には、中堅校の実情を反映できていないと感じています。 

 

 「自治体では進学先や中途退学者など同様の基準で各学校を評価していますが、同じ基準でそれぞれの高校を評価するのは違うのではないかとも思っています。 

 

 中途退学者率は、学校が悪いというよりは、その子の状況や学校とのミスマッチなども考慮しないといけないはずです。大学群に関しても高校によって生徒数などのボリュームゾーンが異なるため、評価軸がすべての学校で一緒というのはやはり違うのではないかと。 

 

 私立の学校だと特色を打ち出していけるのですが、公立だと難しいですよね。自治体が各学校の位置づけを明確に示してくれたらいいのと感じています」 

 

 そうした学校の位置づけは、「市町村」単位でも問題があると細川先生は考えます。細川先生の学校の地区は出生率の低下もあり、大幅に中学生が減少しました。しかし「同じ地区の公立高校の数に変化はありません。生徒が減るのに、学校の数は変わらないから地域で学生の奪い合いになってしまっています。募集が減った学校は『学校経営がうまくいってない』と言われるのです。本当に必要なのは生徒と学校の適切なマッチングだと思うのですが」と細川先生は吐露します。 

 

 

■生徒の親は誰とも話ができていない 

 

 こうした募集の変化、入学生徒数の変化には、社会全体の変化の影響もあるようでした。 

 

 「我が校で保護者対応をしていると『意思の疎通が難しい親御さん』も増えてきたと感じています。親御さんの苦情や相談を聞く機会も10年前より増えたのですが、話を聞いていると、親御さん自身が、誰ともお話できていないのではないかと。 

 

 世間で学校改革が進む中で、『効率化』の名のもとに、それまでやっていたクラス懇談会や保護者会をしなくなって、親御さん同士でつながらなくなったことが大きいかもしれません。何かトラブルがあって、クレームを入れた親御さんも、どういうことがあったのかを丁寧に聞いてみると、感情がおさまることも多いです。ストレスを発散する方法が、なくなってしまったためなのかなと思います」 

 

 教員不足、学生不足に加え、コミュニケーションの不足という問題も見られるようになった昨今の高等学校。情報が増え、便利になった現代において、議題に挙がりにくい「中堅校」の細川先生の切実な訴えからは、浮き彫りにされにくい問題が潜む中堅高校の「教育困難」な実情を垣間見ることができました。 

 

濱井 正吾 :教育系ライター 

 

 

 
 

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