( 190043 ) 2024/07/12 02:16:40 0 00 佐々木朗希
首位を走るソフトバンクを追いかける2位ロッテ。その戦いぶりは「試合巧者」という言葉が当てはまる。スーパースターはいないが、ベンチのメンバーを含めた全員野球で白星を重ねていく。ただ、その輪の中に佐々木朗希がいない。6月13日に「右上肢のコンディショニング不良」で登録抹消されて以来、1カ月が経とうとしている。
【写真】メジャー関係者が明かす「佐々木朗希より欲しい」投手がこちら
在京球団の元トレーナーは佐々木の状態についてこう語る。
「体をチェックしているわけではないので詳細は分かりませんが、球団のトレーナーが選手の出場にゴーサインを出せるわけではありません。レントゲンで患部の状態を見て異常がなくても、本人が違和感を覚えて不安を払しょくできないようだったら登板できない。昔は首脳陣が『痛い、かゆいとか言わずに投げろ』と強制的に投げさせましたが、時代が違いますからね。見切り発車で投げてコンディションが悪化する危険性もあります。復帰時期は自分の状態を一番理解している佐々木の決断次第だと思います」
160キロを超える直球に、140キロのフォーク、スライダーを操る投球は異次元の領域だが、肉体が出力に耐えられない状況になっている可能性がある。度重なる故障により、プロ4年間で規定投球回数に到達したシーズンが一度もなく、勝ち星も22年の9勝が最多で二ケタ勝利はない。
ただ、ロッテは「令和の怪物」を大事に育ててきた。新人の1年目に1、2軍登板なしで体作りに専念し、2年目以降も登板間隔、球数に細心の注意を払っている。
「入団当時より体が分厚くなったことは間違いない。ただ、まだまだ線が細いですね。佐々木投手の全盛期は3、4年後だと思います。肉体強化は一朝一夕で作り上げられるものではありません。トレーニングだけでなく、1軍の先発ローテーションで投げ続けることでしか本物のスタミナはつきません。とにかく焦らないことですね。メジャー挑戦? 僕は反対です。今の状態で行っても数年で体が壊れてしまいます」(前出のトレーナー)
■キャンプイン前にメジャー挑戦を公言
佐々木に対する風当たりが強くなっているのは、先発ローテーションで稼働していないという現実ではない。昨オフ、キャンプイン直前に契約更改した際、初めてメジャー挑戦の意向を公言したことが大きく影響している。
現在22歳。MLBには「25歳ルール」があるため、現状はマイナー契約しか結べない。仮にロッテがポスティングシステムのメジャー挑戦を認めても、譲渡金を低く抑えられてしまう。シーズンを通じて球団に恩返しをしたと言える成績を残していない状況でメジャー挑戦を熱望したことによって、佐々木に対して逆風が強まる状況になってしまった。
ロッテOBは首をかしげる。
「入団当時からずっと育成に携わっている吉井理人監督と関係が良好ですし、チームメートにもなじんでいる。マスコミの前では好青年ですが、他の選手をいじったりする面白い一面もある。ロッテでのプレーは心地よいですし、このメンバーで優勝したいという思いは誰よりも強いはず。クレバーな投手なので自分が足りない部分も分かっている。じっくり力をつけて日本を代表するような投手になってからメジャー挑戦でも遅くないと考えていたはずです。だから、昨オフの動きは驚きました。メジャーでプレーしたい気持ちはロッテ入団前からあったと思いますが、なんでそんな急ぐんだろうと。誰かが裏で糸を引いているのかと勘ぐってしまいます」
危惧されるのは、佐々木の今後の動向が読めないことだ。今季は9試合登板で5勝2敗、防御率1.96。出力を抑えた投球で長いイニングを投げ、先発ローテーションで回ることを重視した投球だったが、故障で離脱しているうちにシーズンは残り70試合を切った。現在の投球回数が59回2/3であることを考えると、規定投球回数(143回)到達は厳しい。
他球団を見渡すと、ポスティングシステムでのメジャー挑戦を希望している高橋光成、平良海馬(いずれも西武)は、エースにふさわしい結果を残すことが球団サイドのポスティングシステムを容認する条件となっている。これは当然だろう。所属している球団で誰もが納得する成績を残してこそ、メジャーにステップアップできる。
佐々木が今オフにポスティングシステムでの移籍を望んだ場合に、ロッテ側はどのような対応をするか。
「当然認めないでしょう。来年以降はエースとして活躍してもらわなければ困る投手ですから。気になるのは佐々木の動きです。どうしてもメジャーに挑戦したいと、ロッテとの契約に合意しない場合はどうするか。日本球界とのケンカ別れは最も避けたい事態です」(民放テレビ関係者)
■現行ルールでは野茂英雄と同じ道は無理
メジャーで活躍した日本人選手のパイオニア・野茂英雄はプロ5年目の1994年オフに近鉄と交渉が決裂し、「任意引退選手」に。日本の他球団に移籍できないが、米国とは契約協定を当時結んでいなかったため、ドジャースとマイナー契約を結んだ。驚きの行動に批判の声が多かったが、「トルネード投法」で旋風を巻き起こす。ノーヒットノーランを2度達成するなどメジャーで123勝、日米通算では201勝をマーク。2014年に日本の野球殿堂入りも果たした。
当時野茂を取材したスポーツ紙記者は振り返る。
「近鉄と決別する道を歩みましたが、球団フロントの対応にも問題があった。選手を大事に扱わないので、彼が悪者になるのを覚悟で声を上げたんです。葛藤はあったと思います。入団当時から球団が大好きでしたし、チームメートと充実した時間を過ごしていましたから。同じメジャー挑戦でも佐々木を同格には扱えません。野茂は新人から4年連続最多勝、最多奪三振のタイトルを獲得して日本球界を代表するエースだった。投球回数も200イニングを4年連続クリアしていましたしね。そもそも、現行のルールだと任意引退選手は、メジャーの他球団に移籍できなくなった。野茂と同じ道を選ぶのは無理です。残る選択肢は自由契約ですが、ロッテが同意するとは思えない。何のメリットもないですから」
佐々木も今の状況は本意ではないだろう。日本のマウンド上で、もう一度輝く姿を見たい。
(今川秀悟)
今川秀悟
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