( 190161 )  2024/07/12 16:26:52  
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北陸新幹線の大阪延伸ルートを巡る論争の中で、小浜・京都ルートを支持する地方自治体が出現し、米原ルートに反対する動きがある。

石川県議会で行われた決議では、米原ルートを再考するよう提案され、賛成32、反対6で可決された。

しかし、馳浩知事は引き続き小浜・京都ルートを推進する考えを示し、議会の意思を尊重する姿勢を示した。

一方、山陰新幹線の誘致を願う山陰や北近畿地方の自治体からも小浜・京都ルートへの支持が広がりつつあり、山陰新幹線建設を提唱する地域もあり、京都府北部ルート誘致同盟会や山陰縦貫市町村会議が積極的に動いている。

山陰新幹線の建設には課題が多く、今後の展開が注目されている。

(要約)

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北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 北陸新幹線の大阪延伸が小浜・京都ルートか、米原ルートかで論戦が続くなか、小浜・京都ルートに援軍が現れた。山陰新幹線の誘致を願う山陰や北近畿地方の地方自治体だ。 

 

【画像】マジ!? これが60年前の「米原駅」です(計17枚) 

 

「本案を可決することに賛成の諸君の起立を求めます」 

 

6月下旬の石川県議会本会議、議場に善田善彦(よしひこ)議長の声が響き渡る。採決されたのは、北陸新幹線の大阪延伸ルートを滋賀県米原市のJR米原駅で東海道新幹線に接続する米原ルートへの再考を求める決議案だ。 

 

 決議案は最大会派の自民党が提案した。長田哲也氏(自民)は賛成討論で小浜・京都ルートの先行きが不透明なことに加え、「米原ルートなら工事区間短縮で建設費削減が見込める」と訴える。これに対し、反対討論の岡野定隆志氏(未来石川)は 

 

「不確かな根拠を基に米原ルートを要求するのは地域エゴのそしりを免れない」 

 

と反論した。採決の結果は 

 

・賛成:32 

・反対:6 

 

 馳浩知事は決議案可決後、これまで通り小浜・京都ルートを推進する考えを示したが、自民党県議の間からは大差での可決に 

 

「県議会の意思が示された」 

 

と胸を張る声が相次いだ。 

 

北陸新幹線(画像:写真AC) 

 

 福井県敦賀市の敦賀駅まで開業している北陸新幹線の大阪延伸は2016年、福井県小浜市経由で京都府へ入り、京都市の京都駅を通って大阪市の新大阪駅へ向かう小浜・京都ルートと決まった。しかし、 

 

「京都府内で反対の声」 

 

が強く、着工のめどが立っていない。このため、一日も早い開通のため、米原ルートへの見直しを求める声が各地で出ている。 

 

 小松市など南加賀6市町が米原ルートで足並みをそろえたほか、石川県の経済界や富山県議会、京都府議会の一部議員からも見直しを求める声が上がり、日本維新の会と教育無償化を実現する会の国会議員団は国土交通省へ米原ルートへの変更を求める提言書を出した。 

 

 与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームは石川県議会の決議案可決の2日前に開いた検討委員会で、2024年度中に小浜・京都の詳細ルートや駅の位置を決め、2025年度中の着工を目指す考えを示した。国交省や沿線府県、JR西日本も小浜・京都ルート推進に変わりないが、米原ルートを推す声が次第に高まっているように見える。 

 

 そんななか、小浜・京都ルートを推す援軍が現れた。山陰や北近畿の自治体で、小浜・京都ルートを山陰新幹線との共用区間として整備し、小浜市から山陰新幹線を北近畿、山陰へ延伸しようと考えている。北近畿の自治体担当者は 

 

「米原ルートでは山陰新幹線を接続できない。論外」 

 

と切り捨てた。 

 

 

政財界が山陰新幹線誘致に力を入れている鳥取市の中心商店街(画像:高田泰) 

 

 山陰新幹線は大阪市から日本海側へ出て山口県下関市を結ぶ。1973(昭和48)年に整備新幹線の基本計画に組み込まれたが、整備計画に昇格できないまま塩漬けされてきた。経由地は 

 

・鳥取県鳥取市 

・島根県松江市 

 

付近が明記されている。地元では、 

 

・山陰新幹線建設促進期成同盟会(京都、兵庫、鳥取、島根、山口5府県と関係団体で構成する) 

・山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議(京都、大阪、福井、兵庫、鳥取、島根、山口7府県の52市町村が参加する) 

・山陰新幹線京都府北部ルート誘致・鉄道高速化整備促進同盟会(京都府北部7市町が加わる) 

 

などが誘致を続けている。このうち、小浜市から日本海側を西進するルートで山陰新幹線建設を提唱するのは、山陰縦貫市町村会議と京都府北部ルート誘致同盟会の加入自治体だ。各自治体の担当者はあくまで個人的見解と断りながら、 

 

「日本海側に新たな国土軸を形成できる」(鳥取市都市企画課) 

「小浜からの山陰新幹線に期待する」(京都府舞鶴市企画政策課) 

 

などと訴えている。 

 

 山陰には整備新幹線が次々に開業するなか、“取り残されている”という焦りがある。北近畿は北陸新幹線の大阪延伸ルート決定の際、舞鶴市を経由する舞鶴ルートが採択されなかった苦い経験をした。このため、小浜・京都ルートでの北陸新幹線延伸を山陰新幹線実現に向けた好機と位置づけている。 

 

鳥取市の玄関口になっているJR鳥取駅(画像:高田泰) 

 

 だが、実現への道は険しい。 

 

 島根県と鳥取県の合計人口は2020年で約122万人だが、国立社会保障・人口問題研究所の予測では、2050年に約90万人に減る。京都府や兵庫県、山口県の日本海側も過疎地域が大半で、大幅な人口減少が見込まれている。 

 

 山陰本線には、国交省の有識者会議が存廃議論の対象とした輸送密度(1km当たりの1日平均輸送人員)1000人未満の区間が点在する。採算性から見れば、 

 

「JR西日本の同意」 

 

を得るのは簡単でない。整備新幹線の建設費はJR各社への貸付料を除いた残りの3分の1が都道府県負担となる。並行在来線になると見られる山陰本線を残すとすれば、各府県が第三セクターで運営しなければならない。 

 

 コスト削減のため、路線を単線で建設する方法も自治体側で検討されているが、山陰縦貫市町村会議の試算では大阪市から鳥取市まで単線で整備しても約6900億円かかる。人口が激減する地域に財政的余力があるのだろうか。 

 

 松江市のJR松江駅前にある松江勤労者総合福祉センターには、山陰新幹線整備を求める横断幕が掲げられている。しかし、横断幕を眺める人はほとんどいない。松江市伊勢宮町の飲食店主は 

 

「本当にできるのかしら。在来線維持に困る時代なのに」 

 

と話す。小浜・京都ルートを山陰新幹線整備のきっかけにしようと期待する山陰や北近畿の自治体の思いとは裏腹に、市民から冷めた見方も聞こえてくる。山陰新幹線の行方は依然、深い霧の向こう側にある。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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