( 190801 ) 2024/07/14 16:53:23 1 00 ニュースによると、アメリカの半導体大手エヌビディアが世界首位の時価総額になった。 |
( 190803 ) 2024/07/14 16:53:23 0 00 Photo by Getty Images
これまで「GAFA+M」によって占められていた世界の時価総額トップ企業群に、エヌビディアが加わった。これらの活動を支えるのは、高度の知識だ。トップ企業群のうち2社だけで、時価総額が東証プライム全社とほぼ同じになる。
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6月18日、アメリカ半導体大手エヌビディアの時価総額が、一時、世界首位となった。
これまで「GAFA+M」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)と呼んでいた世界トップ企業群のメンバーに、変化が生じていることを示すものだ。
エヌビディアが行なっているのは、半導体・GPUの設計だ。この半導体は、もともとは画像処理のためのもので、3Dゲームをなめらかに動かすためのものだった。ところが、この半導体が、生成AIの学習や動作を飛躍的に高めることが分かった。そして、ここ数年の生成AIの利用の広がりによって、急速に需要が増加したのだ。
エヌビディアの株価は、上昇基調にはあったものの、2022年まではあまり大きな変化を示さなかった。2023年になってから上昇が始まり、2024年に顕著に上昇した。2024年の始めには49.1ドルだったものが、6月24日では126.4ドルになった。その結果、最初に述べたように、時価総額が世界のトップになったのだ。
6月末の時価総額では3.1兆ドルであり、マイクロソフト、アップルにつぐ第3位だが、これらの企業の時価総額はほぼ同額なので、エヌビディアが再びトップになる可能性もある。
エヌビディア、マイクロソフト、アップルの時価総額はそれぞれ3兆ドル強なので、1ドル=160円で換算すれば、ほぼ480兆円になる。
他方で、日本の東証プライム上場企業の時価総額合計は、1002兆円だ(2024年7月10日現在)。
だから、上記3社の一社の時価総額だけで、プライム上場企業全体の時価総額のほぼ半分になる。2社なら、プライム上場企業とほぼ同じになってしまう。
ついこの間まで、「GAFA+Mのうちの3社で、プライム全体と同じ」と思っていたのだが、気がついて見たら「2社だけで、プライム全体と同じ」になってしまった。
企業価値の大きさが、日本とアメリカで全く異次元のものになってしまった。アメリカの産業活動が日本と本質的に異なること分かる。
では、何が違うのか? 日本の企業活動を支えているのは、人々の共同作業だ。そこでは、勤勉さが基礎になっている。それに対して、アメリカの時価総額トップ企業の価値を支えるのは、「知力」だ。勤勉さや協調が重要でないというのではないが、経済的な価値からいえば、知力が比較にならないほどの価値を持つようになったのだ。
アメリカの転職情報サイトlevels.fyiに、エヌビディア従業員の職種別、階級別の詳しい年俸のデータが日本円に換算して示してある。
1年番低いのは「マーケティング」の800万円だ。「ソフトウェアエンジニア」では、最も低い階級が年収2708万円、最も高い階級が8310万円になる。
年収が最も高い職種は「ソフトウェアエンジニアリング・マネージャー」で、その中で最も低い階級が4936万円、最も高い階級では1億2000万円になる(2024年6月末現在)。
シリコンバレーでは、このレベルの年収は「飛びぬけて高給」というわけではないのだが、日本の給与に比べれば、溜息しか出てこない。
エヌビディアは、従来の産業区分でいえば製造業なのだが、半導体の設計を行っているだけで、製造はしない、だから、工場がない。実際に製造するのは、台湾の受託製造会社であるTSMCだ。こうした製造業を「ファブレス」(工場なし )という。
アップルがその代表だったのだが、エヌビディアも同様だ。アメリカの産業構造の新しい形がここに見られる。
マイクロソフトやグーグルは、ファブレスとは言わないが、事業活動はファブレスと同じものだ。
こうした経済活動は、従来の産業分類では、分類しにくい。「製造業なのか、そうでないか?」を議論するよりも、新しいタイプの産業が登場していると考える方がよい。
こうした企業は、日本にはほとんどない。すべてを企業内で行なうという日本的な発想には合わないのだ。
日本の半導体は、いまや政府の補助金によって支えられている。
その典型がラピダスだ。現在、日本国内で製造できる半導体は40nm台にとどまっているが、ラピダスは、2020年代後半に2nmの次世代半導体の量産を計画している(nmは、半導体回路の路線幅。これが細いほど性能が高い)。
2027年度の量産開始までに技術を確立し、千歳市に建設中の工場で製品化する。工場建設には5兆円を投じる計画で、まずは、研究開発費も含めて2兆円の資金が必要だとしている。2023年度補正予算では、ラピダスへの支援が積み増しされた。2024年度予算では、最大5900億円を支援する。ラピダスへの支援額の累計は最大9200億円となる(日本経済新聞、2024年4月2日「経産省、ラピダスの半導体『後工程』に535億円補助 5900億円の支援決定」、日本経済新聞、2024年4月3日「ラピダス、AI半導体注力」)。
民間企業の出資はごく少額なので、ほとんど政府だけに支えられていると言って良い。
日本の半導体産業が補助金で支えられているのに対して、アメリカの先端産業は高等教育によって支えられている。
極端に言えば、日本の企業活動は、仮に大学がなくなってしまったとしても継続できるだろう。「新しい技術に対応し導入する必要があるから、そうは行かない」という意見があるかもしれないが、日本では、新しい技術は、大学で教えているというよりは、企業が実務を通じてOJTで教えている。これが日本の伝統だったし、これからも基本的には変わりそうにない。
しかし、アメリカの半導体産業は、高等教育の役割なしには考えられないものだ。
エヌビディアの共同設立者で、社長兼CEOであるジェンスン・フアンは、台湾で生まれ。1992年にスタンフォード大学で電気工学の修士号を取得した。
その設計に基づいて製品を製造しているTSMCの創業者モリス・チャンは、スタンフォード大学の電気工学のPh.D.(博士号)。
グーグルの創始者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、スタンフォード大学のコンピューターサイエンスのPh.D.だ。
つまり、日本の企業活動は、初等・中等教育までの知識で成り立っているのに対して、アメリカの企業活動は、大学院教育に基づいて成り立っているといってもよい。
この違いが、すでに述べた時価総額や給与水準における日本とアメリカの大きな違いをもたらしている。
野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)
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