( 192081 )  2024/07/18 15:20:44  
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東京都知事選は、多くの候補者が立候補し、選挙活動が物議をかもす中で行われた。

特に、選挙のスタイルや候補者の態度について議論が広がった。

石丸氏などの候補者に対する選挙キャンペーンの一部は、一面的で過剰な情報を提供することで、信者化現象を引き起こし、候補者の評価や印象を左右した。

石丸氏の場合、情報のアップダウンが大きく、信者化が進む中で逆風を受けており、今後どのように対処していくかが重要とされている。

(要約)

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 7月7日投開票された東京都知事選は過去最多56人が立候補し、ほぼ全裸の女性や動物、候補者以外の人物などのポスターが大量に掲示板に貼られるなど物議を醸した。政見放送でも女性候補がシャツを脱いで肌を露出したり、「ジョーカー」姿の男性が笑い続けたりする模様が流され、驚かれた人々も少なくないだろう。他にも自称「ジャーナリスト」や「YouTuber」による“突撃”、対立候補の選挙活動に集団でヤジ・中傷を続ける行為も相次いだ。 

 

【動画】「本気で勝つ気ありますか?」前安芸高田市長「石丸伸二」が語る熱すぎる野望…「東京弱体化計画」の具体的中身を語りつくす! 

 

 そんな中でもさまざまなサプライズはあった。人工知能(AI)エンジニア会社経営でSF作家の顔を持つ安野貴博氏は、政治未経験ながらも政策や選挙戦略が話題を呼び、4位田母神俊雄氏に次ぐ5位で14万票を獲得した。また2前安芸高田市長の石丸伸二氏を巡っても、3位という下馬評をひっくり返して2位で選挙戦を終えた。 

 

 しかし、石丸氏を巡っては選挙後の敗戦インタビューについてさまざまな議論が巻き起こっている。「パワハラ臭がプンプンする」「高圧的な態度はイライラする」「逆質問してマウントをとりあがる人」「まるで子供のよう」といった批判の声がSNSではあがっていた。国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏が解説するーー。 

 

 東京都知事選挙で2位となる約165万票を得た石丸伸二氏の求心力が急速に失われつつある。そのきっかけは、7月7日の敗戦記者会見で、アナウンサー、コメンテーター、タレントなどに対して慇懃無礼な態度を示したことだった。実際、石丸氏の態度は極めて軽率なものであったが、その反響が大きくなった理由は、彼の選挙スタイルそのものにあったと言えよう。 

 

 石丸氏の選挙キャンペーンは、政策中心のものではなく、切り取り動画中心で「人物としての新鮮さ」を売り出すものであった。そのため、キャンペーンとして彼の切り取られた「良い印象を与える人柄」のみがフォーカスされて過剰に演出されることになった。そして、大手メディアもその文脈に乗っかる形で、石丸氏を有力候補者として持ち上げていった。さらに、ネット動画&大手メディアの情報配信が期待値を高め、それに呼応した軽薄なインフルエンサー達が更に盛り上げ要素を投入した。だが、このような選挙キャンペーンは、石丸氏にとっては巨大な時限爆弾を創り出す作業でもあった。 

 

 

 これらの蓄積された一面的な情報は情報の需要者の心理に多様な影響を及ぼす。最も典型的な事例は、いわゆる「ギャップ萌え」と呼ばれるものだ。(厳密には異なるが、類似の現象としてゲインロス効果と言われることもある。)これは最初に印象が悪い人物が僅かな善行を行うことで実際以上に評価を受けることを指す。この逆も然り、有能キャラ、生徒会長キャラ、良い人キャラで売ってきた人物の蛮行は、過度にネガティブな印象を残すことになる。石丸氏の場合は、一面的な良い情報のみを有権者に刷り込んできたため、敗戦記者会見で示した傲岸不遜な態度は、多くの国民に強烈な負の印象を残すことになった。 

 

 だが、印象の急激なアップダウンは、本人がリカバリーを効果的に行っていくことで対処していくこともできる。しかし、誰もが情報発信の主体となる動画・SNS全盛時代では、本人のみの努力では効果的な対処を行っていくことは難しい。なぜなら、上述のような一面的なキャンペーンを実施することで、動画視聴者が「信者化」してしまっているからだ。 

 

 信者化現象は「確証バイアス」によって引き起こされる。確証バイアスとは、一度何かを信じ込んでしまうと、それに合致した情報ばかりを収集してしまい、それに反する情報を遮断する行為を指す。そのようにすることで、多くの信者は自分の心の一貫性を保とうとするのだ。まして、このやり方を過度に選挙に応用すると、「予言の自己成就」が発生する。予言の自己成就は、信者がそれを信じるあまり、自分自身で実際に信じている現象を自己発生させることを指す。信者が一生懸命働きかけることで、東京都知事選挙2位となったことは、石丸氏の信者に多大なカタルシスをもたらすことになった。 

 

 先鋭化した信者はそれ以外の否定的な意見を述べる者に侮辱の言葉を吐きかけるようになる。SNS上で石丸信者と見られる人々が選挙後に手の平を返して石丸批判に転じたインフルエンサーなどに罵声を大量に浴びせる姿などが観察されている。しかし、信者がそのような攻撃的で愚かな行為を繰り返すことで、攻撃された人物やその姿を見ている人々からの悪印象が増幅されてしまう。 

 

 

  政治家自身には自らの悪印象をバラまく信者を止めることは難しい。有権者の過半数からの得票を目指す政治家にとって、信者の凶暴化は諸刃の剣である。心が弱い政治家は自分自身がその信者からの圧に飲み込まれてしまう人も少なくない。 

 

 まして、石丸氏の場合、本人の自己評価があまりに高いため、明らかに対応能力が不足しているバラエティに近い報道番組に出演する愚を犯している。バラエティ番組は、タレントが、知識動員、反射神経、印象操作などの高度な技能を披露する場だ。普通の人間が対応できる生易しい空間ではない。したがって、石丸氏が詭弁を弄して誤魔化そうとしても、他出演者から突っ込みが入り実力不足が露呈してしまう。無謀な挑戦によって晒された姿は選挙キャンペーンで形成されたカリスマ性を傷つけて益々評価を低下させている。それにも関わらず、信者は確証バイアスによってアクロバティック擁護を繰り返しているため、世間の評価を更に引き下げる結果となっている。 

 

 石丸氏の選挙プランナーであった藤川晋之輔氏はテレビインタビューの中で「政策ではなく人柄を伝えた」としたが、それは結局石丸氏に持続的なコアとなるブランディングを創り出すキャンペーンは作れなかった。「政治家として何をやりたいか」という政策的なメッセージは、あらゆるメディア対応の骨格となる要素だ。それが無ければ、メディアからの質問に対する返答メッセージが容易にブレてしまう。そのため、石丸氏の政治家としての中長期的なブランディングは困難を極めるだろう。石丸氏は都知事選挙用に使い潰された政治屋となってしまう可能性が高い。 

 

 石丸氏の事例は動画・SNSを使って石丸氏を模倣しようとする政治家達にとって重要な参考事例となるだろう。一過性の使い潰しになるか、それとも中長期的に評価されるブランディングを獲得できるか、事前に綿密な準備をしてからプロモーションを開始するべきだ。 

 

 石丸氏が現状の泥沼から抜け出すためには、石丸氏は「常識的な発言を繰り返す」ことが有効だ。一度ヒーローとして祭り上げられた後、非常識な中身の薄い人間としてのレッテルが貼られてしまった現在、再度常識人としての側面を見せて印象を回復するべきだ。それが本人のパーソナリティから見て最も難しい道かもしれないが、茨の道を経て中身がある政治家として再起することに期待したい。 

 

 

 政治家、首長に必要なものは、煽動的な文言ではなく、自分の言葉に責任を持つことだ。 

 

 住民や議員には何度でも同じことを伝えて納得させ、敵対する首長候補や議員たちを何度も退けて物事は初めて達成することができる。政治家自身がもう十分だと思っても、相手が分かっていなければ何もしていないのと同じなのだ。それだけ地方自治の仕事とは地道なものであり、ナルシシズム満載の演説をする場所ではない。 

 

 今回の石丸市長ほど露骨にふるさとを踏み台にして捨てる政治家を見たのは初めてだ「キラキラした世界に戻りたい、田舎で人生を終えるのは嫌だ」という個人の思いは理解できる。しかし、その地域の住民は、石丸市長が踏み台にした後も、その場所でずっと暮らすのだ。 

 

渡瀬 裕哉 

 

 

 
 

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