( 192496 )  2024/07/19 16:53:21  
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中国製EVは日本市場で売れ行きが芳しくないが、日本では補助金制度を通じて販売を後押ししている。

しかし、日本市場ではEVが普及する環境が整っておらず、充電インフラや価格面での課題が残っている。

日本のユーザーは日本車に慣れ親しんでおり、中国製EVには信頼性や品質の不安がある。

中国製EVの性能や価格に惹かれる層も存在するが、安全性や信頼性が課題となっている。

日本市場で成功するためには、高品質な製品を提供し、アフターサービスの充実が重要だとされている。

(要約)

( 192498 )  2024/07/19 16:53:21  
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中国製EVは日本で売れなくてもいい? 

 

 中国製EVが新たな脅威となっている。欧米では、自国の自動車産業を衰退させかねない存在として関税などの対抗措置を取り始めている。しかし、ドイツの自動車業界だけは、中国に大きく進出しており、現地生産のEVを欧州へ輸出している関係もあって、関税の引き上げには反対している。 

 

【画像】「BYDとテスラ」を比較、違いをじっくり見る(12枚) 

 

 中国がEVをダンピングしているのには、大きく分けて2つの理由がある。1つ目はEVが国内で飽和状態になり、在庫過多の状態を解消させた上でさらに生産台数を引き上げたいから。 

 

 2つ目は外貨を獲得したいから。国内の経済が厳しい状況に陥っている中で、その対策としてできることが貿易である。中国共産党は補助金を出してでも、自国のEVを海外で安く売りさばき、過剰在庫を解消させ、外貨を稼ぎたいのだ。 

 

 ネットの情報では、中国共産党は資金難になり、公務員の月給を10万円に引き下げたり、給料を割り戻させたりしているという話まで聞く。政府はこのような情報は全て否定するからどこまでが本当の話か分からないが、こうした話はいくつも出ており、全てがでたらめな情報ではなさそうだ。 

 

 高層マンションを建設させて不動産投資を盛り上げ、経済を活性化させる政策もうまくいっていないようである。このように中国の国内経済はバブル崩壊といっていい状態で、いまのところ外貨を獲得できるのはEV関連が有力である。リチウムなどEVの材料は、精製時に環境負荷が小さくないことから、先進国では扱いにくいという事情もある。 

 

 そして日本では、EV全てに補助金を支給して普及させようとしているため、中国製EVも補助金の対象となっている。それでも2024年度からは、車両や住宅の環境(V2Hなど、再生可能エネルギーの積極的な利用)だけでなく、ディーラーやインポーター(輸入業者)のEV環境への貢献度によって補助金の支給額に差を設け、日本の自動車メーカーやテスラ以外は、補助金を削減することになった。 

 

 つまり日本は、いまだに中国製EVの購入を国が後押ししている状況だ。にもかかわらず、日本市場での売れ行きは芳しくない。 

 

 そもそも日本ではEVが売れる環境が整っていない、ということが前提にあるのも確かだ。ようやく増加に転じたものの充電環境は乏しく、集合住宅では自宅で充電できる体制がほとんど整っていない。 

 

 急速充電器も高速道路や道の駅などの大きな駐車施設には充実しつつあるが、幅広いユーザーの日常的な使い方を考えると、まだまだ不便なシーンは多い。充実しているのは都市部の、それも一部の地域だけだ。 

 

 そして電池コストの影響により、まだまだ車両価格は高い。だから補助金事業が存続している。つまり本来のEV需要は限定的であり、補助金なしでは商品として成り立たないEVがほとんどだということだ。 

 

 そんな中で中国製EVを買うのは、目先のガソリン代負担や補助金を含めた支払額の安さだけで選ぶ人が多いのかもしれない。新しいもの好きや品質、性能を追求するようなEVユーザーは、テスラやドイツブランドのEVを購入するだろう。もっともドイツブランドでもバッテリーは中国や韓国製を搭載しているものや、中にはクルマの生産そのものを中国で行っている車種もある。 

 

 

 ポルシェのEVですら、輸送船の船上で火災事故を起こし、海運会社から輸送を断られる事態になっており、EVの安全性には警鐘が鳴らされている。 

 

 北欧ではEVの販売に規制をかけようとする動きもある。極寒地ではバッテリーの活性が下がり、渋滞や立ち往生などの際には、生命が危ぶまれる可能性があるからだ。 

 

 中国ではBYDのディーラーで火災がたびたび起きている。先日も4拠点が火災に遭い、出火原因はEVであると発表されている。 

 

 そんな報道を見聞きすれば、トヨタ品質などに慣れ切っている日本人ユーザーの多くは、怖くて乗れないと感じるかもしれない。 

 

 しかしBYDは販売台数が伸び悩むことなど、想定内と考えている可能性もある。「公式の情報」では受注は順調に増えており、日本市場から撤退する計画はないと断言しているからだ。 

 

 今後、BYDの活躍次第では、ファーウェイやシャオミなど電子電気メーカーのEVも日本上陸を狙ってくるだろう。だが、スマホ事業で分かる通り、日本市場で受け入れられて収益を上げるのは難しいかもしれない。 

 

 それでも日本に進出する理由は、販売による売り上げや利益以外のところにメリットがあるからだ。 

 

 新興国、特に日本車のシェアが高いタイなどの国に対しては、日本市場でも受け入れられているという触れ込みが使えるのは大きなメリットだろう。それによりブランドイメージや製品への信頼性などの印象は大きく向上する。 

 

 筆者はBYDのEVに試乗したことがあるが、ATTO3はEPS(電動パワーステアリング)は「まだまだ」と感じたものの、ブレーキやアクセルの制御はよく練り込まれており、ボディや足回りの剛性感も十分に高い。走りの性能面では申し分ない印象だった。 

 

 ただしインテリアに使われている樹脂部品は質感や剛性感がいまひとつで、劣化により快適性にも影響が出そうだと感じた。 

 

 クルマの品質は3~4年も使用していれば、信頼性や部品の耐久性がどれほどのものか、自ずと見えてくる。 

 

 日本のユーザーは長く日本車ばかり乗ってきて、車検の時にディーラーに出すだけでメンテナンスの必要はないと思い込んでいる人も多い。そのため購入後5年くらいはほとんどメンテナンスフリーで、大きな出費を伴うことなく乗り続けられる感覚がある。 

 

 この日本ならではの目の肥えた(?)ユーザー感覚に対応できなければ、日本市場では伸び悩むことは必至だろう。 

 

 新車には製品保証が付けられているが、家電製品同様、日本と中国では保証に対する考え方がまったくと言っていいほど違う。日本は壊れないことを保証するのに対し、中国は壊れたら補償するという姿勢だ。 

 

 家電であれば新品に交換すれば済むのかもしれないが、クルマの場合、生命を左右しかねないだけに安易な気持ちで購入することは難しい。故障で立ち往生したり、修理代金が高額になったりすれば、途端にそのブランドには嫌気が差すものだ。 

 

 日本の自動車メーカーが生産するEVで、発火事故はほとんど聞いたことがない。それはバッテリーの生産工程からこれ以上ないほど品質を高め、製品を送り出しているからだ。 

 

 

 同じように韓国のヒョンデ(現代自動車)も日本に再上陸を果たしているが、登録台数で見ればBYD以上に苦戦している。ディーラーを置かずオンラインのみで販売していることが、斬新さのアピールにはつながっておらず、販売コストは抑えられるものの消費者との接点を得ることが難しいというジレンマに陥っているようだ。 

 

 筆者が試乗したコナは、クオリティーが高いEVという印象を得たが、あえてこのクルマを選ぶという選択肢が浮かばない限りは、成功するのは難しいと思われる。 

 

 日本市場で通用するということは、日本車同等の評価を得たことにつながり、それを手柄に新興国でアピールできる。日本市場に並ぶクルマたちのクオリティーの高さ、アフターサービスの充実ぶりを平均水準として利用し、自社製品のイメージを高めようとするのだ。 

 

 日本の自動車市場は、自動車メーカーが鍛錬する場にもなりつつあるのだ。そこで通用すれば世界の市場で通用するといったように、新興国のメーカーも挑戦してくることが今後は増えるかもしれない。 

 

 BYDが日本市場で鍛えられることを望んでいるとは思わないが、ここで簡単に撤退するようでは、世界戦略も失敗に終わり、中国国内へ外貨を注ぎ込んで経済を立て直すことにはつながらないだろう。長期戦で考えるまでもなく、販売戦略に限らず本当の意味で、良いクルマ作りが求められるのは当然のことだ。 

 

(高根英幸) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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