( 192521 )  2024/07/19 17:18:21  
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トランプ前大統領が11月の大統領選で勝利する可能性が高まっており、その場合、ウクライナ支援や台湾有事への対応が注目されています。

副大統領候補のJ.D. バンス上院議員が鍵を握っており、彼はウクライナ支援に反対し、中国に対する姿勢が強硬です。

ウクライナの戦争支援を減らし、中国に注力する方針が期待されています。

バンス氏は、米国と同盟国としてアジア諸国にも貢献を求める姿勢であり、日本にも影響が及ぶ可能性があります。

(要約)

( 192523 )  2024/07/19 17:18:21  
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世界を震撼させた暗殺未遂事件を経て、ドナルド・トランプ前米大統領が11月の大統領選で勝利する可能性が高まってきた。となると、米国のウクライナ支援や台湾有事への対応はどうなるのか。副大統領候補に指名されたJ.D.バンス上院議員が鍵を握っている。 

 

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7月5日配信コラムで指摘したように、トランプ大統領は、かねてウクライナ支援に消極的だった。6月28日に開かれたジョー・バイデン大統領との討論会で、トランプ氏は「ウクライナは戦争に勝っていない」と断言した。 

 

4月7日付のワシントン・ポストは、関係者の話を基に「ウクライナは占領されたクリミア半島と東部ドンバス地方の奪回をあきらめて、停戦すべきだ」というトランプ氏の戦争終結プランを報じている。トランプ氏は「私なら24時間以内に戦争を終わらせる」と公言していたが、この案が背景にあったのだ。 

 

一方、トランプ氏と気脈を通じているハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、欧州連合(EU)の議長国に就任した直後、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の習近平総書記(国家主席)と立て続けに会談した。オルバン氏も一貫して停戦を唱えている。 

 

興味深いのは、その後だ。 

 

オルバン氏は7月11日、トランプ氏をフロリダの別荘に訪ねて、会談した。その後、Xに「私たちは平和を作り出す方法を話し合った。今日の良いニュース。彼はそれを解決する!」とポストした。オルバン氏は「トランプ大統領復活」に先立って、早くも停戦の露払いに動いているのだ。 

 

バンス氏も一貫して、ウクライナ支援に反対してきた。4月12日付のニューヨーク・タイムズへの寄稿では、こう書いている。 

 

〈根本的に、我々はウクライナが求めている武器弾薬を製造する能力が不足している。たとえば、ウクライナは昨年、400万発の155ミリ砲弾を要求していた。だが、米国が製造できるのは、10分の1以下の年間36万発だ。ジョー・バイデン政権は2025年末までに120万発の目標を立てたが、それでも要求の30%にすぎない〉 

 

〈米国の欧州司令官は今週、ロシアがまもなくウクライナの10倍の大砲を備えると予想した。多くの見出しにはならなかったが、我々が全部の資金を投じても、ロシアの優位は少なくとも、ウクライナの5倍だ。ウクライナの勝利につながるとは、とても思えない〉 

 

〈人的資源はもっと悪い。ロシアはウクライナの約4倍の人口がある。ウクライナは50万人の兵力が必要だが、すでに兵役年齢の数十万人が国外に脱出してしまった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が掲げている「1991年の領土を奪回する」という目標は幻だ。米国とウクライナの指導部は、それを受け入れる必要がある〉 

 

〈ホワイトハウスがプーチン大統領と交渉しないのは馬鹿げている。バイデン政権は戦争に勝つ現実的なプランを持っていない。米国がこの真実に早く向き合えば、我々は混乱に早く終止符を打って、平和を達成できるのだ〉 

 

 

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6月13日付ニューヨーク・タイムズのインタビューでは、こう語っていた。 

 

〈21世紀のリアリズム(現実主義)には、3つの柱がある。第1は「この国は良い」とか「この国は悪い」といった道徳主義は、ほとんど役に立たない。我々は、米国の利益にとって良いか悪いかに照らして、他国を扱うべきだ〉 

 

〈第2次世界大戦のもっとも重要な教訓である「軍事力は経済力の下流にある」点も忘れがちだ。米国は1980年代と90年代のおかげで、いまでも軍事的超大国だ。だが、中国には我々よりも強力な産業がある。20年以内に、もっと強力な軍事大国になる〉 

 

〈第3に、今後20年から30年は重要な競争相手がいる東アジアに我々が集中できるように、同盟国には、もっと努力してもらわなければならない〉 

 

〈ウクライナの反転攻勢は破局に終わる、と思っていた。「いい国」と「悪い国」に分ける道徳主義に動機づけられ、戦略的思考が十分でなかったからだ。ロシアは十分に準備していた。米軍指導者と非公開の場で話せば、すぐ分かるが、彼らは「ウクライナが戦略的に打開できる」などとは思っていない〉 

 

〈ウクライナは戦闘を凍結すべきだ。そして、国の独立と中立性を保証する。長期的には米国が安全を保証する。この3つは達成可能だ〉 

 

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中国については、どんな意見をもっているのか。 

 

4月12日の米FOXとのインタビューでは、こう語っている。 

 

〈もしも、台湾が中国の手に落ちれば、我が国に大停滞を引き起こすだろう。この島が半導体産業で大きな役割を担っているからだ。そうならないように、我々は中国を抑止しなければならない。台湾は米国の情報技術産業をコントロールしている。我々は、すべての半導体チップを彼らに製造させているのだ〉 

 

副大統領候補への指名を受諾した直後のFOXとのインタビューでは「中国は我が国にとって最大の脅威だ。だが、我々は完全に目を逸らされている」とも語った。 

 

バイデン政権の対中認識は「米国の戦略的競争相手」「差し迫った挑戦」だ。それを「最大の脅威」と断言したところに、バンス氏の面目躍如たる感がある。共和党きっての対中タカ派と言っていい。米国は勝てる見込みがないウクライナの戦争を支援するのを止めて「真の脅威である中国への対応に全力を上げるべきだ」と主張している。 

 

バンス氏は、どんな人物なのか。 

 

米国中西部のオハイオ州ミドルタウン出身の39歳。幼いときに、両親が離婚し、主に祖母に育てられた。母親は薬物中毒で結婚と離婚を繰り返し、家庭が荒れていた。高校卒業後、海兵隊に入り、イラクへ従軍経験もある。除隊後、オハイオ州立大学、さらにイェール大学ロースクールに進学した。 

 

卒業後、ベンチャーキャピタル会社に入り、社長を務めた。自叙伝『ヒルビリー・エレジー』がベストセラーになり、一躍有名になる。2022年にトランプ氏の支援を受けて、上院議員に当選した。苦しい生活から立ち上がり、社会的成功を収めた。まさに、絵に書いたようなアメリカンドリームの体現者である。 

 

そんなバンス氏を副大統領候補に指名したトランプ氏も、外交政策では同じ意見とみて間違いない。「トランプ・バンス」チームがホワイトハウスに入れば、新政権はウクライナから手を引いて、中国の台湾侵攻抑止に全力を上げるだろう。 

 

さて、そうだとすると、日本にも重大な影響を与える。 

 

 

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先に紹介したニューヨーク・タイムズとのインタビューで、バンス氏が努力を求めた「同盟国」とは、アジアで言えば、日本、韓国、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドである。ウクライナ戦争は北大西洋条約機構(NATO)に任せて、アジアでは、とりわけ日本に大きな貢献を求めるのは必至である。 

 

岸田文雄政権はバイデン政権と歩調をそろえて、ウクライナに総額120億ドル(約1兆9000億円)以上に上る支援をしてきた。しかも、ゼレンスキー大統領と岸田首相が6月14日に交わした文書では、日本が「今後10年間、支援を続ける」ことを約束している。 

 

そうだとすると、支援総額はいくらになるのか。岸田政権は支援を決めるたびに個別に発表するだけで、最新の支援総額やその詳細を明らかにしていない。それだけでも問題だが、今後、米国がウクライナ支援から手を引くなら、なぜ日本が巨額支援を続けなければならないのか、国民に説明が必要だ。 

 

米国は台湾防衛に本腰を入れようとしている。そうだとすれば、日本も同じ対応を迫られるだろう。つまり、日本はウクライナの泥沼に足をとられつつ、同時に台湾防衛、さらに日本防衛にも力を入れなければならないハメに陥りかねない。 

 

まさか「米国が抜けるなら、日本も抜けます」などとは、言えないだろう。そんなことを言ったら、日本は世界に向けて「米国の言いなりになって、後ろを歩く完全な子分」と自ら認めたも同然になる。だが、こうなったのも、岸田政権が米国の意向に沿って、ウクライナ支援に踏み込んだ結果なのだ。 

 

日本にとって、ウクライナと台湾のどちらが死活的な国益に直結しているか。答えは、自明である。もちろん台湾だ。原油タンカーが台湾沖を通るシーレーンになっているからだ。にもかかわらず、岸田政権は「ロシアは国際ルールを守れ」の1点張りで、ウクライナ支援に突っ込んできた。 

 

だが、トランプ政権が誕生すれば、米国はバンス氏が指摘したように「ルールを守らない悪い国」や「守る良い国」といった道徳主義ではなく、「ロシアとの戦争拡大をどう食い止めるか」を最優先にして動くだろう。戦争拡大リスクは米国の国益にそぐわないからだ。 

 

そのとき、日本がいつまでも道徳主義を振りかざしていれば、リアリズムで動くトランプ政権にいいように利用されるだけだ。ポスト岸田を目指す有力者たちは「何が間違ったのか」「どこで間違ったのか」、いまから徹底的に考え直す必要がある。 

 

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7月14日に配信したYouTube番組「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」は、私の1人語りで「緊急ライブ トランプ銃撃の衝撃」と題して、トランプ暗殺未遂事件について解説しました。 

 

同じく15日には「トランプ暗殺未遂を招いたのは誰か」と題した続報を 

 

16日には「なぜトランプはバンスを副大統領候補に選んだのか」 

 

17日には「トランプとバンスの外交政策」 

 

18日には「トランプ・バンス政権誕生で日本は大丈夫か」と題して、それぞれ解説しました。 

 

計5回シリーズです。いずれも、ぜひご覧ください。 

 

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長谷川 幸洋(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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