( 193081 )  2024/07/21 01:36:57  
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保育施設での不適切な行為や長時間保育の普及について考察されている。

日本は長時間保育が普及しており、他の先進国ではそれほど一般的ではない。

長時間保育は保育士の負担を増やし、仕事と子育てのバランスを困難にするなどの弊害がある。

長時間労働の影響もあり、保育士の経験や資質の向上が難しくなっている現状が示唆されている(要約)。

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働く保護者にとって助けになるのが延長保育。しかし日本ほど長時間保育が普及している先進国はそう多くありません(写真:yuu / PIXTA) 

 

暴力や激しい叱責など、保育施設において子どもの心身を脅かす「不適切」な行為が発生しています。いま保育の現場はどうなっているのでしょうか。長年、保育問題に取り組んできた「保育園を考える親の会」アドバイザー・普光院亜紀さんの新著『不適切保育はなぜ起こるのか──子どもが育つ場はいま』から一部を抜粋し、その背景を3回シリーズでお届けしています。3回目の今回は「長時間保育」に着目しました。 

 

【画像を見る】認可保育園の延長保育の実施状況はどれぐらいか? 

 

1回目:“お利口な”子が多い保育施設に潜む「不適切保育」 

 

2回目:“不適切保育”から「子を守る」親にできること5つ 

 

■気がつけば「長時間保育大国」 

 

 認可保育園の保育時間が延びたことで、助かった親たちは多いはずだ。親たちは「会社員の実情に保育園がやっと追いついて普通になった」と感じているだろう。 

 

 しかし、ふと先進諸国の保育に目をやると、どうも日本ほど長時間保育が普及している国はないらしいということに気がつく。特に、都市部で実施率が9割を超える延長保育の普及状況は、海外の研究者などに驚かれることも多い。 

 

 海外の最近のデータや報告を調べると、北欧は特に保育時間が短く、17時、18時には閉園する例が多い。 

 

 スウェーデンでは7時から17時30分が平均的な開所時間で、ストックホルムには18時30分までの園もあるが、残業する習慣がないので長時間の利用はほとんどないという。ノルウェーでは17時閉園で15時30分にお迎えのピークがある地域の報告もある。 

 

 イングランドでは19時まで開所している施設もあるが、利用を1日10時間に制限している。フランスでは、パリの公立保育園の閉園が18時45分であるという報告の中で、一般の労働者に残業する習慣がないので十分に間に合っていると説明されている。 

 

 ニュージーランドの都市部では開所時間が7時から18時という私立保育所が多いが、16時30分までにほとんどの子どもが帰るという園の報告も見られる。 

 

 それぞれに労働事情や通勤事情が異なるので比較は難しいが、どの国も日本のように遅い時間までの延長保育を実施していないということは確かなようだ。 

 

■延長保育の弊害 

 

 図1は「100都市保育力充実度チェック」(保育園を考える親の会)の各年度数値をグラフ化したものだ。 

 

 

 延長保育制度には、1時間延長、2時間延長、4時間延長などの種類があり、各園が地域のニーズに合わせて実施しているが、このグラフは、100の市区に認可保育園の延長保育実施率と平均延長時間(分数)を回答してもらい、全体を平均した数値の推移を表している。 

 

 1990年代からの延長保育の普及促進策が効いていることがわかる。2023年度での実施率は94.3パーセント、平均分数は84.4分になった。 

 

 1時間延長が多数派ではあるが、2時間延長、4時間延長の園もあり、平均時間は1時間30分に近い。標準開所が18時30分までの園が1時間延長をすれば、19時30分までの保育になるので、やはり前述の国々に比べると開所時間が長い。 

 

 そして、このような長時間保育は、保育士のローテーションを間延びさせる。そのため、保育士自身の仕事と子育ての両立が難しくなり、妊娠を機に仕事をやめてしまう保育士は相当な割合に上っている。 

 

 それだけではない。いったんやめた保育士が再就職する場合も、ローテーション勤務がある正規雇用を避けて、パートでの勤務を希望する人が多くなっているという実態がある。 

 

 園長先生たちとのよもやま話で「正規雇用の職員は若い保育士ばかりで、パート職員がベテランばかりっていう逆転現象になっていて、いろいろ難しいことがある」という苦労話も聞いたことがある。 

 

 保育士が就労継続できない、あるいはしない理由はこれだけではないが、保育士が経験を積んで資質を向上させ、保育の質を上げていけるような労働条件になっていないとすれば、これは深刻な問題である。 

 

 図2は、「令和4年度東京都保育士実態調査結果」にある調査結果で、現在就業中の保育士の雇用形態をグラフ化している。調査対象は、2017年4月から2022年3月までの東京都保育士登録者(書換え登録等を含む)である。 

 

 東京都は独自の保育士給与改善を行っており、都内自治体の職員配置は都外自治体よりも恵まれている傾向にあるが、それでも継続就労が困難な実態が見て取れる。 

 

 子育て期に正規職を退職してしまう傾向は、実は女性の就業者全体の傾向と一致しているのだが、専門職である保育士のキャリア形成、専門性の向上、保育の質の向上を考えると、この実態では心もとない。 

 

■働き方改革の出遅れ 

 

 ここまで見てきたように、保育園・保育制度は時代の流れに合わせて変化してきた。保育制度改革は、女性が出産後も働き続けることができる社会への変化を助けてきたことは確かだ。 

 

 

 しかし、変わらなければならないのは、保育園だけではなかったはずだ。女性の「内助の功」を前提とした男性の「滅私奉公的な働き方」が標準とされた昭和の時代の痕跡は、いまだ根深く社会に残っている。 

 

 もちろん、ワーク・ライフ・バランスや過労死防止が言われるようになり、日本人の働き方も少しずつ変わってきた。2022年のOECD統計ベースでの年間平均労働時間ランキングでは、日本は1607時間、長い方から44カ国中30位とまずまずの順位になっている。 

 

 ただし、厚生労働省の統計では、年間総実労働時間は減ってきているものの(図3)、パートタイム等の労働者を除いた一般労働者の年間総実労働時間の2021年の数値では1945時間にも上る(図4)。 

 

 つまり、年間平均労働時間の短縮はパート労働者の増加が大きく寄与しており、正社員の時短はそこまで進んでいないということになる。 

 

■長時間労働で仕事と子育ての両立は苦しく 

 

 保護者の働き方は、保育園の運営に直接影響を与えている。長時間労働慣習は、仕事と子育ての両立を苦しいものにする。 

 

 2020年に始まった新型コロナウイルスによるコロナ禍は、家庭の暮らしも大きく変化させた。私の周囲では、家族単位の行動が多かったためか、家族で過ごす時間を充実させようという親たちの意欲は高まったように見える。 

 

 中でも在宅勤務が広がったことは、働き方についての人々の意識を変化させた。もちろん、在宅勤務ができる職種とできない職種があるが、在宅勤務の普及はまちがいなく子育て支援として機能している。 

 

 「男女共同参画白書(令和5年版)」に、在宅勤務者とそれ以外の者の生活時間を比較した調査(2021年)の分析がある。それによれば、在宅勤務者はそれ以外の者より、1日の通勤時間が女性で平均54分短く、男性では69分短い。男性では仕事の時間も減少する傾向が見られた。 

 

 それらの短縮分と引き替えに何の時間が増えているかは性別や年齢によって大きく異なるが、35ー44歳の女性では子育ての時間が最も増えており(46分増)、自由時間も32分増えている。同年齢の男性では自由時間が43分増えており、子育ての時間も14分増えている。 

 

 この男女の差には相変わらずの性別役割分担が表れているが、総合して親が生活時間にゆとりをもてたり子育ての時間を確保できたりしたということだ。 

 

■在宅勤務が有効な子育て支援に 

 

 

 コロナ禍が収束するとともに在宅勤務をなくした企業もあるが、特に子育て期の社員についてはできるだけ在宅勤務を選べるようにすることで、効果的な子育て支援につながるはずだ。 

 

 これは、学童保育の不足に対しても有効な対策になる。そして、在宅勤務は保育も助ける。保護者は通勤時間がなくなった分、早くお迎えに行くことができる。 

 

 もちろん、医療職など交代制勤務が必須の職業のために、夜間保育などのニーズに保育園が応えることは今後も求められていくだろう。 

 

 しかし、昼間労働者の保育利用があと少し短くなり、父親も早く帰ってお迎えを分担するようになれば、全体の保育時間がコンパクトになり、ローテーションによる保育士の負担を減らすことができるのではないだろうか。 

 

 それは、保育の質の向上も助けるはずである。 

 

普光院 亜紀 :「保育園を考える親の会」アドバイザー 

 

 

 
 

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