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少子化によって引き起こされる問題は、経済的な不安定や子育てと仕事の両立の難しさ、賃金格差などであるが、少子化が必ずしも悪いことばかりではないとの声もある。

近代の経済発展により、少子化の要因が生まれたとされ、人口増加を抑制することが必要だとの考え方もある。

少子化は個人にとっては問題ではなく、政府や経済の観点から懸念されている側面もある。

少子化によって生活水準が維持されないことへの懸念や経済成長の必要性が背景にある。

過去の人口増加に基づいた経済政策が今後の社会課題と結びついている点も指摘されている。

(要約)

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少子化がもたらすのは悪いことばかりなのだろうか(イメージ) 

 

「経済的な不安定」「子育てと仕事の両立の難しさ」「賃金格差」──少子化にまつわる議論では、まるでこの国がいま、“お先真っ暗”で未来への不安を抱えているかのようなワードばかりが並び、現役世代にそこはかとなくプレッシャーを与えている。しかし、少子化によって人口減少する日本の未来は、本当に“最悪”といえるのだろうか。加速する少子化がもたらす“この国の新しいカタチ”を考えていきたい。【全4回の第1回】 

 

【グラフ】出生数は1971年に比べ2023年は半数以下 出生数と合計特殊出生率の推移 

 

 少子化と人口減少が加速している。6月5日に厚生労働省が公表した最新の「人口動態統計」によると、2023年の日本の合計特殊出生率は1.20。前年を下回るのは8年連続で、統計を取り始めて以降、2005年の1.26を下回って過去最低を記録した。合計特殊出生率とは、1人の女性が一生のうちに産む子供の数の指標で、日本の1.20は韓国の0.72よりは高いが、OECD加盟国の平均1.58(2021年)を大きく下回る。 

 

 また、2023年の1年間に生まれた日本人の子供の数は72万7277人で、こちらも過去最少を更新した。超高齢化が進む日本の2023年の総人口は約1億2436万人で前年より60万人近く減り、総人口は2011年以降、13年連続で減少しており、2050年には1億人を割り込むという試算もある。 

 

 林芳正官房長官は6月5日の記者会見で、「少子化の進行は危機的な状況」としてこう語った。 

 

「若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでのこれからの6年程度が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ。少子化対策は待ったなしの瀬戸際にある」 

 

 国の危機感や悲壮感が嫌というほど伝わってくるが、ちょっと待ってほしい。少子化や人口減少はそんなに悪いことなのか。いま各所から、異論を唱える声が上がっている。 

 

「少子化は必ずしも悪いことばかりではありません」 

 

 そう断言するのは、慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授の小幡績(おばたせき)さんだ。 

 

「むしろ、かつては少子化ではなく多子化こそが悪」とされたと分析する。 

 

「人口爆発が地球上の最大の問題とされた1970年代、人口増加を止められなかったアフリカ諸国は世界各国からひどく非難され、一人っ子政策を強引に進めた中国は“成功した”と評価されました。でもいまやアフリカはHIV感染症によって人口が減少しているし、中国の一人っ子政策は間違いだったと批判されています。 

 

 日本も、1971年からの第二次ベビーブームや1973年のオイルショックを受けて、1974年の『人口白書』で出生抑制への努力を打ち出したこともありましたが、現在は180度変わり、“人口を増やせ”という。つまり、人口に関する常識は、時代の状況の都合に合わせてコロコロ変わるんです」(小幡さん) 

 

 現在の少子化について、小幡さんは「経済発展がもたらしたものでもある」と続ける。 

 

「近代は衛生面の改善や医療の進歩で子供が死ななくなり、少数の出産で充分な数の子供が残せるようになりました。同時に賃金水準が上がって働く機会が増えたことから、出産育児に時間を使うよりも働く時間を増やして所得を増やそうという流れになった。そこで稼いだお金を“少数精鋭”の子供の教育に費やすことで少子化の傾向が定着しました。 

 

 これを逆流させることは難しく、日本の経済が発展して所得水準が上がって人々が豊かになった以上、少子化を止めることは至難の業です」 

 

 

 経済学者で、『次なる100年:歴史の危機から学ぶこと』の著者である水野和夫さんは、地球儀を俯瞰して人口減少を考える。 

 

「20世紀に世界中で人口爆発が話題になり、国連は、地球の人口は100億人に向かって増えていくと試算しました。一方で地球の資源には限りがあり、ある研究によれば、世界中の人間が先進国並みの暮らしを送ろうとすれば、人口25億人が限度だそうです。いまの人口80億人はこの限界をとっくに超えています。 

 

 ならば、先進国の生活水準を中所得並みに落としたらどうなるか。この場合、地球で暮らせる人口は74億人ほどと試算されますが、先進国の人は生活レベルを落とすことを当然嫌がるでしょう」(水野さん・以下同) 

 

 全人類が先進国並みの豊かな暮らしをしようと欲しても、有限な地球の資源では到底賄いきれない。にもかかわらず、いまなお途上国を中心に人口は増え続けており、このままでは資源が追いつかず、地球全体で見れば先進国の人々は生活水準を下げざるを得ないだろう。そうした現実に薄々気づいているからこそ、先進国の人たちは少子化を“選択”しているという見方もある。 

 

「豊かな暮らしをする先進国の人は、“このまま行けばみんなが貧しくなる”と気づいています。だからこそ、“子の世代にも親の世代と同じような暮らしをしてほしい”と、本能的に生まれる子供の数を減らしているのではないか。 

 

 出生率の低下は日本だけでなく、先進国に共通する特徴です。そこには“これまでと同じ人口ではとうてい生活水準を維持できない”との心理が働いていると考えられます」 

 

 少子化が自然の摂理かつ人々の合理的な選択であるならば、果たして各国の状況はどうか。『人口減少社会のデザイン』の著者で、京都大学人と社会の未来研究院教授の広井良典さんが話す。 

 

「ヨーロッパに目を向けると、イギリスとフランスとイタリアの人口は約6000万~7000万人で概ね同水準です。 

 

 イギリスの面積は日本の3分の2で、イタリアは日本よりやや小さく、フランスは日本の約1.5倍。ドイツは日本と面積が同じくらいで、人口は8000万人強です。対する日本の人口は1億2000万人強。ヨーロッパ主要国と比較して、日本は現在の人口水準を絶対的に維持する必要があるとは思えません」 

 

 

 水野さんも、「少子化は“個人にとっては”悪くない」と語る。 

 

「日本の人口が1億2000万人を維持しないといけない理由は、個人にとってはほとんどありません。8000万人や7000万人になってようやく欧州並みの人口なので、国民が個人単位で人口減少を気にする必要はない。 

 

 深刻な事態だと懸念しているのは政府であり、理由は経済にあります。人口が増加し単純に働く人が多いほど、国の生産力が上がってGDP(国内総生産)が増えます。いまの日本には1297兆円もの国債や借入金などのいわゆる借金もあって、生産力を増やさないと返せない。つまり、国は国民の幸せや将来を思って少子化を問題視しているのではなく、借金を返してGDPを増やすための働き手を求めているのです」(水野さん・以下同) 

 

 振り返れば戦後の日本は、「人口増」に基づいて経済発展を続けてきた。 

 

「日本は戦争に負けてから、国の強い意向のもと、先進国に“追いつけ、追い越せ”の国策を進めてきました。サラリーマンの夫が24時間働き、専業主婦の妻が家事や育児を一手に担う標準家庭モデルを推奨して高度経済成長を果たしましたが、その成れの果てに経済成長が止まって人口が減少すると、慌てた国は急ごしらえの女性の社会進出支援や少子化対策を打ち出した。 

 

 でもそれらは国民が幸せになるためではなく、国が成長を続けるためのシナリオにすぎません」 

 

(第2回に続く) 

 

※女性セブン2024年8月1日号 

 

 

 
 

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