( 193938 ) 2024/07/23 16:31:58 0 00 北陸新幹線(画像:写真AC)
北陸新幹線大阪延伸の小浜・京都ルートで建設費が倍増する見通しとなった。米原ルートへの変更を求める声に弾みがつく一方、沿線の京都府は地元負担の増加を警戒している。京都市右京区の西大路五条交差点から国道162号に入り、市街地を抜けると、そこは山また山の連続。かなり起伏が多く、トンネルと急カーブが続く。別名は中世から若狭湾の海の幸を京都へ送り届けてきた鯖(さば)街道のひとつに当たる周山(しゅうざん)街道。京都市から京都府南丹市などを通って福井県小浜市へ通じる。
【画像】「え…! メッチャ美しい!」 これが京都の「周山街道」です(計7枚)
その近くを通る計画なのが、北陸新幹線の小浜・京都ルートだ。福井県敦賀市の敦賀駅から小浜市と京都市などを通り、大阪市の新大阪駅へ至る約140km。詳細なルートは決まっていないが、京都府内は全体の約8割がトンネルになる計画。与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)は2025年度中の着工を目指している。
右京区の梅ヶ畑地区では、周山街道が御室川に並行する形で走る。谷沿いに民家や商店が点在する文字通りの山間部。地区内の梅ヶ畑高雄町は紅葉の名所として知られる。買い物帰りの女性(65歳)は
「こんな山のなかにトンネルを掘って新幹線を通せば、ばく大な金がかかる。京都は府も市も財政が厳しいと聞くが、だいじょうぶやろか」
と話した。
地下に新ホームが検討されている京都駅(画像:高田泰)
小浜・京都ルートの概算建設費を国土交通省が精査したところ、2016年のルート決定時に示されていた2兆1000億円が
「約3兆9000億円」(86%増)
に膨れ上がる見通しであることがわかった。費用対効果は現行の算定方式だと1.1から0.5程度になり、15年としてきた工期も
「10年」
ほど延びる見込みだ。
費用対効果は1で投資と事業効果が見合い、1以上が整備新幹線着工の条件。0.5程度なら
「投資の半分しか回収できない」
ことになる。このため、国交省や与党PTは地域への経済効果などを盛り込んだ新しい算定方式を検討しているという。京都駅も地下に新ホームを設ける方向だ。
小浜・京都ルートは環境アセスメントの遅れなどから着工のめどが立たない。大阪延伸の早期実現を目指し、滋賀県米原市の米原駅で東海道新幹線に接続する米原ルートへの変更を求める声が高まるなか、国交省や与党PTはあくまで小浜・京都ルートを推進しようとしているように見えるが、建設費3兆9000億円の衝撃が各地に広がっている。
米原駅の位置(画像:OpenStreetMap)
勢いを増しそうなのは、
・米原ルート推進の声 ・京都府の反対運動
だ。米原ルートも国交省などの精査で建設費が従来の5900億円から約1兆円に増えるが、費用対効果の悪化は従来の2.2から1程度にとどめられそうである。現行の算定方式でも着工条件を満たす可能性がある。
石川県加賀市のタクシー運転手は
「敦賀延伸後も加賀温泉に観光客が増えていない。つながりの深い関西へ新幹線を早期延伸しないとどうにもならないのでないか。建設費がこんなに増えるのでは小浜・京都ルートは無理。米原ルートに期待するしかない」
と力を込めた。
京都府内の反対運動は2023年11月、京都市で13の市民団体がパレードを行うなど勢いに陰りが見えない。
「地下水への悪影響」
を心配する声は、酒造業者や銭湯、和菓子業者など多方面に広がっている。それだけ良質の水を扱う業者が多いからで、京都市では1963(昭和38)年の阪急京都線河原町地下延伸で周囲の井戸が枯れた記憶も反対の声を後押ししている。
南丹市美山町の田歌区(画像:OpenStreetMap)
神戸大大学院農学研究科准教授で、南丹市美山町の田歌区で北陸新幹線問題対策委員長を務める長野宇規さん(54歳)は、北海道新幹線の札幌延伸や大阪・関西万博など最近の大型公共工事実績から費用は3兆9000億円で収まらないと見ている。
今回の概算結果については
「公共工事としての要件を全く満たしていない。わずかな時間短縮に膨大な建設費と時間をかけるより、優先すべき社会課題が山積みしている。今までになかった経済効果を考慮するなら、最初に取り組むべきは工事が環境や住民生活に与える負の影響評価である」
と疑問の声を上げた。
大阪府の吉村洋文知事は囲み会見で
「今の段階では小浜・京都ルートが方針だが、詳細な金額や工期が出て、前提条件が違ってくるとなれば、関係者で協議しなければならない」
との認識を示した。
北陸新幹線の列車が並ぶ敦賀駅の新幹線ホーム(画像:高田泰)
整備新幹線は鉄道・運輸機構が建設した線路などの施設を保有し、JR各社に貸し付けている。費用はJR各社が支払う貸付料を除いた残りの3分の2を国、3分の1を沿線の都道府県が負担する。建設費の大幅増に心中穏やかでないのは、長い地下トンネルが続く京都府だ。
京都府の負担額が公式に示されたことはないが、福井県の試算では1600億円とされ、
「2000億円を超す」
との見方もあった。一部は地方交付税で措置されるため、実質負担額は半額程度ともいわれるが、決して軽い負担でない。しかも、建設費が倍増すれば、その分負担が膨らむ。
・建設資材価格の急騰 ・建設現場の人手不足
がやむ気配はない。京都府では、府議の一部や小浜・京都ルートに反対する市民団体から建設費の大幅増が指摘されていた。右京区の阪急西院駅前で話を聞いた市民からは
「やっぱり上がった。地元負担がむちゃくちゃな額になる」
との声も出た。
国交省から京都府に説明はない。担当の京都府交通政策課は
「内容が把握できていない」
と繰り返したが、言葉の端々に地元負担増への危機感が感じられた。西脇隆俊京都府知事は記者会見で「仮定の話に答えることは控えたい」としながらも、建設費について地元が受ける利益に見合う
「地元負担」
となるよう国に求める考えを示した。
斉藤鉄夫国土交通相は記者会見で
「事業費は詳細な駅位置やルートを踏まえて算出される。現段階で確定したものはない」
と説明したが、小浜・京都ルートを取り巻く環境は厳しさを増している。
高田泰(フリージャーナリスト)
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