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7月11、12の両日、円相場が急騰し、政府・日銀が円買い・ドル売り介入したとされるが、その背後には市場を驚かせるような仕掛けをしてきた神田真人氏がいた。

神田氏は日米金利差を材料にして介入し、円相場を操作していた。

しかし、退任が迫る神田氏を後任の三村氏が交代することになり、市場では円相場の動向が注目されている。

(要約)

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Photo by gettyimages 

 

「イタチの最後っ屁は本当だった」。7月11、12の両日、外国為替市場で円相場が急騰した様子に、ディーラーの間ではこんな驚きの声が広がった。政府・日銀が連日の円買い・ドル売り介入に動いたと見られるが、3年間務めてきた財務官を月末で退任する神田真人氏(1987年旧大蔵省)らしい市場の虚をつく仕掛けだった。 

 

【写真】円安、ヤバすぎ…いったい何が起きているのか? 

 

神田氏は日米金利差などを材料に円売りを再三仕掛けてくる投機筋に対して、昨秋と今春にも大規模な円買い・ドル売り介入で対抗しており「令和のミスター円」の異名を取ってきた。三村淳国際局長(1989年同)との交代が発表された6月末は、円相場が一時1ドル=160円を突破し、約37年半ぶりの円安水準を付けていた。 

 

物価高を助長する「悪い円安」が内閣支持率の底割れにつながることを警戒する岸田文雄政権内には、「投機筋に付け入る隙を与えないか」と神田氏の続投を望む声もあった。だが「幹部人事を停滞させれば、省内のモラール(士気)の低下を招きかねない」とする財務省は、組織の論理を優先して「ミスター円」の退官を決めた。 

 

ただし「次のターゲットは1ドル=170円台」(米ヘッジファンド関係者)との観測も出ていた中、財務省は一計を案じたのか、7月下旬に開かれるブラジルでのG20(主要20ヵ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議にかこつけ、財務官交代時期を事務次官ら主要幹部(7月5日付)とは別扱いに設定する細工を凝らした。 

 

「24時間365日臨戦態勢だ」「(国際会議に向かう)飛行機の中からでも介入は指示できる」 

 

神田氏はこう豪語し、2022年9・10月と、今年4・5月の2度の円安進行局面でそれぞれ約9・1兆円、約9・7兆円に達する史上最大規模の円買い・ドル売り介入を実施。一時的とはいえ、円の下落に歯止めをかけた実績がある。 

 

特に2度目の介入は、日銀の植田和男総裁による「円安容認まがい」の発言の尻拭いという面もあっただけに、政府・与党から「神田明神」などと重宝がられていた。ただ、その後も米連邦準備理事会(FRB)の利下げ時期が定まらず、円売りの根源にある日米金利差の縮小が見通せなかったため、介入効果はわずか2ヵ月で賞味期限切れとなり、円安がぶり返していた。 

 

前の2度の急激な円安局面と異なり、相場変動のスピードが遅い「じり安」の様相を呈していたこともあり、市場では「さすがの神田氏も、3度目の介入にはなかなか踏み切れないだろう」との見方もあった。過去の大規模介入で大義名分としてきた「短期間の急激な相場変動」とは言い難く、米通貨当局の理解を得るのが難しいと考えられたためだ。 

 

一方で、投機筋の間では「餞別代わりに米当局から了解を取り付け、再び大規模な介入を仕掛けてくるのではないか」との疑心暗鬼もくすぶっていた。ふたを開けてみると、介入手法はより大胆不敵になっていた。 

 

7月11日は米国の6月の消費者物価指数が市場予想を下回り、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月にも利下げを開始するとの観測が拡大。為替相場は円高・ドル安の方向に動いていた。神田氏はこの円高の流れを捉えて、円の押し上げも視野に「追い打ち」介入を仕掛けたと見られる。 

 

 

「相場師」を自任する財務官の面目躍如といったところで、足元の円相場は157円台に張り付いている。ただし、効果がどれほど続くかは結局、FRBの利下げ次第であることに変わりはない。 

 

懸念材料は、政府が神田氏の個人技に頼り過ぎてきたことにもあるかもしれない。後任となる三村氏は次官コースの文書課長も経験しており「神田氏に勝るとも劣らない秀才官僚」(中堅幹部)。フランスのエリート官僚を養成する国立行政学院(ENA)に留学し、大使館でも勤務したほか、金融庁時代には銀行の自己資本規制を巡り欧米当局と丁々発止でやりあった経験もある国際金融のエキスパートだ。 

 

ある事務次官OBは「三村氏がいなければ、神田財務官4年もあり得た」と解説する。実際、現アジア開発銀行(ADB)総裁の浅川雅嗣氏(1981年同)は財務相だった麻生太郎氏の「お気に入り」という特殊事情が影響したにせよ、4年間(2015~2019年)財務官を務めており、前例がないわけではなかった。 

 

財務省は「財務官が代わっても円安対応に抜かりはない」(官房筋)と強調する。だが、インテリ然とした三村氏に神田氏ほどのアクの強さがないことは不安材料だ。生き馬の目を抜く投機筋を牽制するには、マスコミに頻繁に登場し、時にははったりをかますパフォーマンスさえ繰り出す図太さも求められる。 

 

神田氏の今後の身の振り方も注目されている。7月末の退任後、当面は大学の客員教授や企業の顧問などの「止まり木ポスト」が宛がわれるとみられるが、2026年11月には、任期満了となる浅川氏の後任のADB総裁に送り込むのが財務省の既定シナリオだ。 

 

野心家の神田氏が、それで満足するかは分からない。財務官の先輩である黒田東彦氏(1967年同)に倣ってADB総裁から日銀総裁に転身することを目論んでいるとも取り沙汰されているからだ。 

 

円安対応に忙殺される中、国際収支を起点に日本経済の構造問題を議論する有識者懇談会をわざわざ主宰し、レポートをまとめたのも「日銀総裁ポストを目指す布石づくり」(経済産業省幹部)との見方もある。 

 

退任が決まっても話題が尽きないところが「名物財務官」の所以か。 

 

週刊現代(講談社・月曜・金曜発売) 

 

 

 
 

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