( 194276 ) 2024/07/24 16:31:26 1 00 日清食品の新ブランド「完全メシ」が好調であり、2022年に登場してから2年で累計2500万食の売り上げを記録し、2023年度には50億円に達した。 |
( 194278 ) 2024/07/24 16:31:26 0 00 撮影:三ツ村崇志
日清食品の「完全メシ」が好調だ。
カレーメシや日清ラ王、日清焼そばU.F.O.といった既存ブランドから発展させた商品群のほか、スープやスムージー、冷凍食品と多様なラインナップを展開する同ブランド。2022年5月に日清食品の新規事業として登場してから2年で、シリーズ累計2500万食を突破し(2024年5月10日時点)、売り上げは初年度に30億円、2023年度には50億円と合計80億円に達した。
【全画像をみる】ラ王にU.F.O.も…2年で累計80億円売り上げた日清食品・完全メシが「単なる新ブランドではない」理由
日清食品HDの主力である国内の即席めん事業の売り上げが2023年度の実績で2757億円だったことを考えると、まだ規模は小さいもののその存在感は無視できなくなりつつある。
「完全メシ」は、厚生労働省が定めた「日本人の食事摂取基準」で設定されている33種類の栄養素がバランスよく含まれた、最適化栄養食として認証されたシリーズだ。
即席めんが主力の日清食品は、なぜ今、完全メシに力を入れるのか。プロジェクト発足から携わる日清食品の藤野誠常務に話を聞くと、単なる新ブランドにとどまらず、日清食品の今後を占う大プロジェクトであることが見えてきた。
日清食品は、創業者の安藤百福氏が、1958年に即席めんを開発したところから始まった会社だ。戦後の食糧不足を背景に製塩から身を興すストーリーは、2018年に放送されたNHKの朝ドラ「まんぷく」のモデルにもなっている。
「その時代、時代の、食の課題に取り組んできたのが、日清食品という会社です。
では今の時代の課題とは何かというと、オーバーカロリーや偏食などです。この食の課題に対応したいというのが大前提でした」(藤野さん)
加えて、「即席めん事業一本足」の状況から新しい事業の軸を見つけ出すことは日清食品としての長年の課題だった。
本来、栄養バランスは食べる側が気をつければいいものだが、個人レベルでコントロールするのはそう簡単ではない。であれば、「(栄養素を)丸ごと提供するところにニーズがあるんじゃないか」(藤野さん)。こうして誕生したのが、完全メシだった。
「完全メシ」というシンプルでわかりやすいブランド名は、2023年の日本ネーミング大賞で、「ルーキー賞」を受賞した。立ち上げからわずか2年で、認知度はすでに50%超。売り上げは冒頭の通り、年間50億円に達した。数字としては「計画通り」だった。
完全メシのブランドチームの人数も、2024年5月末時点で営業・開発含めて総勢約150名にまで成長した。
ロケットスタートを切れた理由の一つは「カレーメシ」や「ラ王」といった既存ブランドの活用だという。
「既存ブランドというリソースを活用したことで、スーパーやコンビニエンスストアなど、流通でも受け入れていただきやすかったのだと思います。地域の人々の健康に貢献したい流通とは思いが一致するところもあって、ゼロから立ち上げるよりも早く展開することができたのです」(藤野さん)
プロモーションにも「既存ブランドの方法論を踏襲した」と藤野さんは言う。
ネットで健康意識の高い人をターゲティングし、広告を出す方法もあったが、最終目標は「マス」に届けることだ。既存ブランドで培われた日清食品グループの信頼をもとに、コンビニやスーパー、量販店などの店舗に導入してもらう商談を進めた上で、最初からCMなどのマス広告を展開。既存ブランドが新商品などを販売するときと同じ手法で、初速を高めた。
既存ブランドの活用には、もう一つ狙いもあった。「ジャンク×完全メシから生まれる驚きとギャップ」だ。
「健康的なものは美味しくないという、イメージを払拭したかった。当社ではおいしくない商品など論外。おいしさは変わらないのに栄養バランスが整っている。それを当たり前にしていきたかった」(藤野さん)
既存ブランドが持つおいしさへの信頼感は、新規事業としてスタートする上で大きな武器となった。
また、
「我々の目的は、『完全メシ』を売ることではありません。最終的な目標は、提供する食品すべてが、栄養バランスが整っていて、しかもおいしいという状態にすること。カップヌードルなどのブランドも、当り前に最適化栄養食にしていきたい。全部の食品がそうなれば、『完全メシ』というブランド自体、必要なくなるかもしれません」(藤野さん)
とも言う。
全食品の「完全メシ」化を目指す背景には、加工食品の健康度を評価する「HSR:Health Star Ratings」といった動きが影響している。現状ではまだ世界的に標準規格化されてはいないが、オーストラリアなど一部の国では導入が進む。
「加工食品全体が、生活者の健康に資するものでなければならないという世界線が来る。そうなったときに対応ができるように、『完全メシ』シリーズで得たリソースを、既存の商品にも還元していきたい」(藤野さん)
のだという。
おいしくない商品は論外。
とはいえ、「原材料の醤油ひとつをとっても、メーカーによって栄養素とその配分は異なります。味や具材を少し変えるだけでも、バランスが大きく変わってしまいます」(藤野さん)と言うように、栄養バランスに気を遣った上でおいしい商品を生み出すのは、そう簡単なことではない。開発にも長い時間とコストがかかる。ただ、完全メシのバリエーションはこの2年で45品目(24年7月段階)にまで広がっている。新商品も続々と登場している。スピード開発できる秘密はどこにあるのか。
藤野さんは「完全メシ」の強みは、「これまでの研究開発で培ってきた技術とノウハウ」だと胸を張る。
日清食品は、自前で栄養素を分析できる技術とこれまでの商品開発で培った膨大なデータベースを基に「最適化栄養食のためのシステム」を開発。これにより、分析・開発にかける費用・時間両面のコストが大幅に圧縮されている。
この仕組みにより、通常の商品だと1年弱。リニューアル商品では、半年から9カ月程度と、この分野の新商品開発としては短期間での商品開発を実現しているという。
このノウハウは、他の食品メーカーとのコラボ商品の開発にも生かされている。日清食品では、これまでに完全メシとして、木村屋總本店の「あんぱん」、山崎製パンの「ランチパック」、湖池屋の「カラムーチョ」といった商品を共同開発してきた。
日清食品がデータベースなどをもとに最適化栄養食を作るために必要なノウハウを提供。協業先のメーカーからは、日清食品にはないパンの製造ノウハウなどを提供してもらうことで、これまで手掛けたことのない商品群への展開を実現した。
「我々がパンをいちからやろうとすると、すごく時間がかかる。我々のリソースと提携先のリソースを組み合わせることで、スピード感を持った開発が可能になります」(藤野さん)
太田百合子
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