( 194301 ) 2024/07/24 16:59:45 1 00 「日本版DBS」法成立歓迎記者会見が行われ、6月19日に「こども性暴力防止法」が成立した。
日本では12歳以下の子どもに対する性犯罪が年間1000件ほど報告されており、これは氷山の一角でしかないと言われている。 |
( 194303 ) 2024/07/24 16:59:45 0 00 「日本版DBS」法成立歓迎記者会見の様子(写真:フローレンス提供)
子どもを性被害から守る「日本版DBS」の創設を含む「こども性暴力防止法」が、6月19日に成立した。今後、2年半以内に施行される予定だ。
【図表を見る】12歳以下の子どもに対する性犯罪のデータ
子どもの性被害は、学校や幼稚園の先生やベビーシッター、部活動やスポーツクラブのコーチなどの身近な大人から受けることが多く、日本版DBSはこうした「子どもに接する仕事に就く人」からの性被害を防ぐことを目的とする。
どんな法律なのか。その具体的な中身と、施行されることで、どこまで子どもへの性被害が防げるのかを見ていきたい。
■今まで性加害歴を知るすべがなかった
「法律が成立したことを、まずは本当に大きな一歩として歓迎する」
法案成立後、厚生労働省の記者クラブ会見室で喜びの声を上げたのは、認定NPO法人フローレンスの代表理事、赤坂緑さん。フローレンスは子育て領域の課題解決に取り組み、長い間、日本版DBS成立のために動いていた組織の1つだ。
「日本版DBS」法は、正式には「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」といい、「子どもに接する仕事に就く人による性犯罪に、子どもが巻き込まれないための法律」となる。
具体的には、4つの措置(①教員などへ研修、②児童などへの面談、③性暴力の発生が疑われる場合の調査や被害児童の保護・支援、④特定性犯罪前科の有無の確認)からなるもので、このうちの④がいわゆる日本版DBSにあたる。イギリスの犯罪歴照会制度(Disclosure and Barring Service)を参考に作られた。
赤坂さんによると、日本にはこれまで、事業者が子どもに接する仕事に就く人の性加害歴を知るすべがなく、性被害から子どもたちを守る仕組みがなかった。
振り返ると、2020年に起こったベビーシッターによる小児わいせつ事件(5~11歳の男児計20人に4年4カ月にわたって、わいせつ行為を行っていたもの)などをきっかけに、こうした問題が取り沙汰され、いくつかの対策は講じられてはきた。
例えば、2021年には議員立法で「わいせつ教員対策法」が成立。わいせつ行為が発覚した教員の教員免許取り消しが可能になったし、2022年には児童福祉法改正により、保育士の登録取り消しが認められた。
しかし、こうした規制強化をすりぬけて、わいせつ教員や保育士が、学校や保育園以外の現場、例えば学童保育や学習塾、スイミングスクールなどで「横滑り」して働くことを防ぐことはできなかった。
先の記者会見に同席した学習塾「花まる学習会」代表の高濱正伸さんは自身の経験を踏まえ、「過去に子どもの前で下半身を露出した講師がいた。本人が認めたので辞めてもらったが、後日、地方を変えて学校の先生をやり続けていると聞いた。そんなことが許されていいのか」と、憤りをあらわにした。
■子どもへの性犯罪データは氷山の一角
ところで、どれくらい日本では子どもへの性犯罪が起こっているのだろうか。警察庁のデータによると、12歳以下の子どもに対する性犯罪は、年間1000件ほどとされる。
さらに別の調査によると、令和4年度に公立の幼稚園、小中学校で性犯罪・性暴力などにより懲戒処分などを受けた教職員の数は、242人。調査が違うので単純に割合を示すことはできないが、子どもへの性犯罪の何割かは、保育や教育現場で起こっていることは確かだ。
※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください
しかも、「これは氷山の一角でしかない」と赤坂さんは言う。
「なぜなら、子どものなかには自分が性被害に遭ったことを、すぐに認識できない子もたくさんいます。また、被害に遭ったことを親が警察に相談するのはハードルが高く、実際、多くのケースはそこまで至らないという事実もあります」
今回、成立した日本版DBSでは、どのようなしくみで性犯罪の犯歴をチェックするのか見ていきたい。
まず、事業者(保育園や学校、学童保育、学習塾など)は、これから仕事に就く者に性犯罪の前科があるかどうかを確認するため、こども家庭庁に申請する。併せて就業予定者も、自身の戸籍の情報などをこども家庭庁に提出する。
それを受けて、こども家庭庁は犯歴の有無を法務省に照会する。犯歴がなければ、そのまま通知があり、就業予定者は仕事に就くことができる。
一方、犯歴が確認された場合は、まずその情報は就業予定者に通知され、誤った情報であれば異議申し立てによって訂正請求ができるようになっている。また、内定を辞退すれば、申請は却下される。
就業予定者が異議申し立てをしない場合は、「犯歴あり」として犯罪事実確認書が事業者に交付される。事業者は就業予定者の採用を拒否することができる(下の図)。
現在のところ、申請義務がある事業者は学校、保育園、幼稚園、児童養護施設など。学童保育や学習塾、スポーツクラブなどは認定を受けることで、申請義務が生じる。
また、この法案ではこれからこうした仕事に従事する予定の人だけでなく、現在、従事している現職者に対しても実施することとなっている。
■再犯予防や、性加害の心当たりある人を遠ざける
この日本版DBSは、子どもを性犯罪から守るだけでなく、「性犯罪を繰り返す加害者の更生の支援」「再犯の予防」という意味でも重要視されていると、赤坂さんは言う。
「専門家からもお話を伺いましたが、小児に対する性犯罪の1つの側面として、依存性が指摘されています。アルコール依存症の人がアルコールのある環境に近づかない、ギャンブル依存症の人がギャンブルの現場に近づかないのと同じように、できるだけ子どもと接しないことが、性加害者の更生につながるとおっしゃっていました」
もう1つ加えるなら、日本版DBSが始まることで「性加害の心当たりがある人は、こうした仕事から自ら遠のく」という予防的な側面もあると期待されている。
一方で、2つの大きな課題がある。
1つが、「照会の対象となる犯歴の範囲」だ。
現時点で対象となるのは、刑法や条例に違反する行為(不同意わいせつ、痴漢、盗撮なども含む)で、有罪判決を受けた“前科者”に限られる。嫌疑不十分や示談などで不起訴処分となった場合は、対象とならない。
赤坂さんは「実際に、性犯罪はあったものの示談で終えるケースも少なくない。こういう人たちが、小児性犯罪のデータベースに載らないのは問題だと思う」と話す。
記者会見で、長年、子どもの性被害事件の取材をしてきた東京大学多様性包摂共創センター准教授の中野円佳さんは、過去に取材した例を挙げた。
入浴中、子どもが親に「昔、シッターさんがこんなことしてきたんだ」と話し出したという。1年以上経っているなかで証拠がないものの、親は警察に相談に行く。だが、「事情聴取をするとお子さんに負担がかかるけれど、どうしますか」と言われ、結局、このケースでは起訴を取り下げたという。
「前科をつけるのは、かなりハードルが高い」と中野さんは話す。
■学校以外の施設が犯罪の温床になる可能性も
2つ目が、認定の問題だ。
先に挙げた学校などの以外の施設(学童保育や学習塾など)は、認定を取らないと犯歴の確認申請をこども家庭庁にすることができない。そもそも、個人で営む家庭教師や塾(習字など)、キャンプのボランティアなどは、現時点で認定取得の対象から外れている。
そうなると前述した加害者の再就職の「横滑り」は解決されないどころか、温床になってしまう可能性もある。
「それを防ぐためにも、 “認定を取っていないところには、子どもを預けられない”という状況にしていく。事実上の義務化になっていくことが重要」と赤坂さんは指摘する。
ちなみに、本家のイギリスDBSでは、基本的に子どもと接するボランティアも含め、一定時間以上関わる人すべてが照会の対象となっているという。
そして何より、今回成立した日本版DBSは「子どもに接する仕事に就く人」に対する性犯罪予防の取り組みであり、対象者が限定的だ。実際問題として、保育・教育現場以外でも、子どもへの性犯罪が起こっている。
「これらを防ぐには、子どもへの教育も必要になってきます。“水着で隠れる場所はむやみに触らせちゃいけない”みたいなことを、きちんと教えていくことも大事です。現時点で日本版DBSは100点満点ではないです。でも、まずはスタートさせ、実態に即した運用となるよう見直しを繰り返し、真に子どもを守る制度としていくことが大事だと思っています」(赤坂さん)
鈴木 理香子 :フリーライター
|
![]() |