( 194569 ) 2024/07/25 15:31:46 0 00 誰も書かなかった統一教会
安倍晋三元首相の銃撃事件から2年。統一教会に関する報道は減っており、事件は忘れ去られようとしているが、教団と与党政治家の癒着、被害者救済などの問題は、実はほとんど解決されていない。教団を40年にわたって取材し続け、今年5月に『誰も書かなかった統一教会』を上梓し、教団の驚くべき実態を明らかにした有田芳生氏が、ノンフィクション作家の藤井誠二氏を聞き手に刊行記念イベントで語った、警鐘のメッセージ。
有田芳生氏が教団の驚くべき実態やタブーを明らかにした新刊『誰も書かなかった統一教会』
藤井(2024年)3月12日、統一教会からのスラップ訴訟に関して、ようやく教団側の請求が棄却され、有田さんの勝訴で終わりました。損害賠償請求に該当しないという裁判所の判断でした。
私はその裁判の事務局のお手伝いをさせていただいていて、この1、2年、よく喫茶店で「どうしようか」と密談しましたね(笑)。それから呼びかけ人を集め、寄附も募り、インターネットでいろいろな呼びかけもし、ほぼ手弁当で超強力な弁護団もついてくれて。それでも経費はかかるので、そのお金を集めるために奔走した日々でした。有田さんは裁判が終わって率直にどう感じていますか。
有田 まずそのスラップ訴訟、「いやがらせ訴訟」をされるまでの話をしておきたいです。
2年前の7月8日に安倍晋三元首相銃撃事件があり、奈良市の近鉄・大和西大寺駅前で撃たれて亡くなりました。
実行犯の山上徹也は、お母さんが1991年に統一教会に入信。おじいさんが建設会社を経営されていて、いわば資産家家庭だったのですが、統一教会にお母さんが1億円を超える献金をしたことで家庭が崩壊し、大学に進学したかった彼も諦めざるを得なかった。
彼のお兄さんは生まれたときからリンパ腫で、抗がん剤治療の副作用で片目を失明して、手術してもよくならず、神戸大学医学部附属病院で治療を受けたかったけれど、お金がなく、2015年11月に自殺してしまいました。
お父さんも1984年に自殺していて、その後、山上はお兄さんと、4つ下の妹さんと、お母さんと一緒に暮らしていたけれども、お母さんは信仰にのめり込んでしまって……。
それで彼は悩んで、広島県呉市の海上自衛隊で働くようになってから生命保険に入り、受取人を当時まだ生きていたお兄さんにして、山上自身も2005年2月に自殺未遂をしているんです。そういう背景があった。
安倍元総理銃撃事件が2022年7月8日で、3日後の11日に統一教会の田中富広会長が記者会見し、山上のお母さんが信者だったと認めたので、一気にテレビでも新聞でも報道が広がっていった。
そして僕がテレビに出るようになって、8月に日本テレビの『スッキリ』という朝番組に2日連続で出たときに発言したことが「名誉毀損である」と同年10月に教団から訴えられました。
訴えられた翌日から今日に至るまで、僕はテレビ出演が一切なくなった。だから、教団は訴えることで目的を達成してしまった。その意味で「いやがらせ訴訟」は彼らにとって成功だったのです。
藤井 この手のスラップ訴訟はたくさんあって、たとえば僕の音楽ライターの友人もJASRACの問題点を雑誌でちょっと書いた程度でJASRACから訴えられ、2人なんですけど、莫大な金額を要求された。友人は長い時間の末、勝訴したのですが、裁判経費がものすごくかかり、精神が削られて疲労困憊してました。
今回は、有田さんを筆頭に、八代弁護士、紀藤弁護士、本村弁護士ら4人が統一教会から訴えられました。
有田 その日の日本テレビの『スッキリ』の特集は、東京都八王子市、選挙区で言うと東京24区から立候補している萩生田光一議員、安倍さんと非常に親しい彼が、統一教会とも非常に親しかったという事実が明らかになっていた。
でも萩生田さんはそれを曖昧にしていたんです。だから番組で僕は「そんな曖昧にしていていいんですか? 統一教会というのは霊感商法などもやっている反社会的な集団です。関係を断ち切らなきゃいけないんじゃないですか?」というふうに司会の加藤さんの横に立ってしゃべっていました。コメンテーターも4人ぐらいいて、萩生田さんと統一教会がテーマだった。
40分の特集の中で、僕のそのコメントはたった7秒です。裁判所は8秒だって言ってるけど。それについて「名誉毀損だ」と訴えられて、訴えられた翌日からテレビ出演がなくなったんです。
藤井 テレビも腰が引けてますよね。統一教会に訴えられたということ自体をニュースにするべきなのに、ここでも何らかの統一教会とずぶずぶの関係だった「政治の力」への忖度を考えてしまいます。
有田 今思い出したんですが、『スッキリ』より前、2022年7月18日にテレビ朝日の『羽鳥慎一 モーニングショー』に呼ばれて、統一教会の反社会性の問題についてしゃべっていて、オウム真理教事件のときに警察庁・警視庁の幹部から僕が直接聞いた話をしました。
「オウムの次は統一教会を摘発するんだ」という話があったんです。でも結局それは立ち消えになった。10年ほどたって、警視庁の幹部2人と池袋で酒を飲んでいたとき「あれは何で摘発できなかったんですか」と尋ねたら、「政治の力だよ」と言われた。
僕は直接聞いた話なので、それを番組でしゃべったんですが、玉川さんも羽鳥さんも「う~ん」と難しい顔になって……。その発言をした翌日も統一教会特集をやるから、僕は出演依頼を受けてたんです。でもそれがなくなった。
テレビ朝日の社長さんや役員から圧力がかかったのではないでしょうか。いわば「政治の力」だと思っています。テレビのコメンテーターは14年やっていましたが、以前は、こんなていたらくじゃなかったですよ。
藤井 やはり、そうでしたか。
有田 僕は統一教会の信者にも訴えられたし、オウム真理教の信者にも訴えられた。橋下徹さんにも訴えられたし、いろんな人に訴えられていますが、全部勝訴しています。伊藤詩織さんに対してとんでもない事件を起こした山口敬之さん(元TBSワシントン支局長)にも訴えられて、勝っています。
そういういろんなことがあっても、ずっとコメンテーターとしてテレビに出ていた。統一教会についても、40年も取材しているから、お伝えしたいことがいっぱいある。だけど次の日から一切出演がなくなった。こんなことは、昔はなかったです。
藤井 僕も本当に不思議でしたね。安倍さんが撃たれてすぐ山上に対する報道がワーッと始まっていて、当然、メディアも一体になって統一教会の責任を追及する流れになると僕も思っていました。
この空白の30年を埋めるような。だから有田さんが連日テレビに出るようになると誰しも思ったはずなのに、こういうふうになったのは一体何なのか? テレビと政治の関係の中でこの期に及んで、まだ統一教会は暗に力を持っているのかと。
有田 思い出して、腹が立ってきた。テレビ朝日で、「政治の力で統一教会の摘発がなくなった」って言ったけど、その証拠も今回の本に書いてあるんです。捜査資料を引用して。
藤井 『誰も書かなかった統一教会』に内部資料がふんだんに引用してある。これを見ると統一教会がいったい何をしていたのかがわかり驚愕しますし、政治家にカネをバラまいて、その政治家がテレビに圧力をかける、あるいはテレビの上層部が忖度する。そんな構図はさも当たり前になっていたと考えるべきだということが、今回の本で再確認できました。
有田 腹が立ってきたというのは、テレビ朝日でそういう発言をして、その後、日本テレビに呼ばれてたんですが、日テレでプロデューサーが僕のところに来て、「有田さん、“政治の力”は言わないでください」と。
それで僕が「それは番組プロデューサーの判断なんですか」と聞くと、「違う」と。「上のほうが……」って言うんです。つまり日テレの上層部です。もう、そういう体制になっちゃった。昔はそんなことなかったのに。
有田 今、統一教会の報道はほとんどなくなりました。
藤井 解散命令請求の話とかをたまに報道するくらいですね。
有田 2年前の7月8日に安倍さんが銃撃を受けて、みんなびっくりしたわけですよね。僕もびっくりしたし、皆さんもびっくりした。
その後、僕は去年の4月に、山口4区という安倍さんがずっと当選していた選挙区で、安倍さんの後継議席を争う衆議院補欠選挙に出たんです。そのときに、下関の20代の人たちに話を聞いたんです。
「(安倍さんの事件の前から)統一教会って知ってた?」と聞くと、誰も知らないんです。創価学会とか幸福の科学のことは知っている、でも統一教会って初めて聞いた、と。そういうギャップができている。
これまで僕も7冊ぐらい統一教会の本を出しているけども、他にも本はたくさん出ているんです。いろんな弁護士さんが書いたものとか。だけど、今回の『誰も書かなかった統一教会』という本では、これまでの本で全く触れられなかったことを書いておきたい、ということで。
僕は韓国にある統一教会の本部にも入ったし、他の本には書いてないことをいくつも書いています。ひとことで言って、タブーを書いているんです。
なぜ「誰も書かなかった統一教会」かというと、この2年間、自民党の政治家と統一教会の関係や、宗教2世の悩み、そして高額献金という話は新聞でもテレビでもよく報じられてきた。しかし僕の目から見ると、それは統一教会のごくごく一部にしかすぎないという思いがあるんです。
藤井 有田さんが立候補すると決意をお聞きしたとき、1983年に新潟3区から小説家の野坂昭如さんが立候補したことを思いました。1976年に田中角栄氏がロッキード事件で逮捕された。
僕はその時点では10代の小僧でしたが、圧倒的な「田中信者」の真っ只中で「反角」の象徴としてかっこよかった。有田さんもそういう統一教会と安倍一族の関係を知らない世代の人たちに実態を知らしめるという意味で、すごくインパクトがあったと思います。
それにしても『誰も書かなかった統一教会』では統一教会の「軍事力」の実態が克明に描かれていて、驚きました。この教団はいったい日本で何をしようとしていたのだろうかと。
有田 散弾銃輸入の話があります。1968年に、韓国の統一教会系企業の「統一産業」が製造した空気散弾銃が2500丁も輸入されていたんです。これは空気銃といっても、小型拳銃より殺傷力が高いものです。
日本の信者たちが、この輸入された散弾銃に関して、1968年の10月、11月、12月の3か月にわたって、全国で最寄りの警察署に所持許可申請を出したんです。「散弾銃を持ちたい」と。
藤井 一斉にですよね。同じタイミングで。
有田 一斉に。それで警察は「統一教会の信者たちは何をしようとしているんだ?」と思って注目した。さらに、韓国の統一産業と日本の統一教会系の商社「幸世物産」が、その空気散弾銃を、さらに1万5000丁も輸入しようとした。
それで衆議院でも問題になり、1971年3月に共産党の林百郎議員が、衆議院の地方行政委員会で質問しました。「統一教会が1万5000丁の散弾銃を輸入しようとしていたが、どういうことですか」と。
それに対して、当時の警察庁長官・後藤田正晴さんが答弁に立って「幸世物産と国際勝共連合はきわめて密接な関係がある」と言って問題点も指摘し、法律を改正したので、1万5000丁の輸入はできなくなった。
こういう国会での追及は何度もあったんです。そういうことが社会問題になった時期がある。しかしこの2年間、それをどこも報道していません。
この散弾銃輸入事件より少し前の1964年に早稲田大学に原理研究会(正式名称・全国大学連合原理研究会、略称CARP)という統一教会の関連組織ができた。「ボランティア活動を通じて地域貢献をする」などと言って、実際は統一教会に勧誘するための組織。
このメンバーが韓国の統一教会本部に行き、統一産業にも行って、ライフルを持って写真に写っていて、これはネットにも載ってます。それで、日本に戻ってきて、山の中で射撃訓練をやっていた。訓練の手伝いをしたのは、自衛隊にいた統一教会信者。そういう歴史があるんです。
法改正で空気散弾銃は輸入できなくなったけれども、実はその後に別の空気銃を輸入するんです。それは鳥獣保護法などの法律に適合していたため、日本に入ってきた。
統一教会系の銃砲店は、北海道札幌から九州鹿児島まで、僕が確認しただけで24か所ある。今も東京の立川や名古屋市内にもある。そこで今も銃を売っているんです。
藤井 今もですか……。1987年に起きた朝日新聞阪神支局の襲撃事件が起きた時、警察は犯人候補を800何名か挙げて、統一教会員もそのリストにかなりの数が挙がっていたんですよね?
有田 ええ。1987年5月3日、憲法記念日、夜8時15分過ぎに、兵庫県の西宮市にあった朝日新聞の阪神支局が、目出し帽をかぶり銃を持った男に襲われて、小尻知博記者(29歳)が亡くなった。犬飼兵衛記者は右手の指3本を吹っ飛ばされた。
藤井 この事件の3日後に朝日新聞東京本社に届いた脅迫状と使用済みの散弾容器のことなども、有田さんはこの本に詳しく書いてますね。そのあたりの検証は迫力があります。
有田 はい。捜査資料の中には、さっき言ったように、全国各地にある銃砲店の一覧表、それから、この本に一部出した「統一協会重点対象一覧表」に信者の名前がずらっとある。
それを読んでいると、「統一協会の軍事部隊」とか、「勝共の非公然軍事部隊」とかがある。あるだけじゃなくて、山の中で訓練している人たちまでもリストアップされている。
だから、今報道されているように、単に「自民党とつながっている」とか「献金」「宗教2世」とか、それぞれ大事な問題だけど、それだけでなく「統一教会というのはこういうものだ」というのを知ってほしいんです。
藤井 誰しもオウム真理教にとても似ていると思うはずです。彼らは人々を殺傷して国家転覆を企んでいた。信者たちはその道具だったわけです。
最初はちいさな新興宗教だったものがでたらめな教義で人々からまさに「人生」を搾取していった。オウムと統一教会の類似点は専門家にもっと研究をしてほしいと思っていますが、何かを敵に見たてて、統一教会なら「サタン」になりますが、単なる教義や信仰から陰謀論的な大きなフィクションに、ある意味で無垢な人々を巻き込んでいく。そういった双子のような類似点を感じます。
カルトは世界中にありますが、こういった事例がなぜ日本で広がりやすいのか。統一教会の全貌というか、「統一教会の本当の姿」が証拠、ファクトを持って書かれている本なので、そこから私たちが生きる「陰謀論社会」とでもいうべきものにまで考えを巡らせてほしいと思います。皆さん、ぜひ読んでほしいと思います。
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