( 194970 )  2024/07/26 16:46:24  
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サイゼリヤは、値上げをしない理由や商品価格の安さについて、サイゼリヤ創業者である正垣泰彦会長が明かしている。

彼はビジネスを社会貢献と捉え、お客様や社員を優先する考え方を大切にしている。

サイゼリヤは採算の面から値下げを行い、売上を伸ばしたり工場を造ったりしてコストダウンを図っている。

また、宣伝をしない理由や粉チーズ提供の中止についても、お客様の喜びを重視していることが伝わってくる。

正垣会長はサイゼリヤが他のお店に比べてもそこまで美味しいわけではなく、より良いお店ができれば潰れても構わないと述べている。

(要約)

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正垣泰彦会長 - 永井浩撮影 

 

なぜサイゼリヤの商品は驚くほど安いのか。サイゼリヤ創業者で、『サイゼリヤの法則 なぜ「自分中心」をやめると、ビジネスも人生もうまくいくのか』(KADOKAWA)を出した正垣泰彦会長に、ライターのヨッピーさんが聞いた――。(前編/全2回) 

 

【写真6枚】額縁に入れて飾られているサイゼリヤの「社是」 

 

■なぜサイゼリヤは頑なに値上げをしないのか 

 

 【ヨッピー】著書の中でも触れられていますが、イチ消費者として気になる部分、「サイゼリヤは何故値上げをしないのか」についてお伺いしたいです。インフレ・円安の中でどこの企業も値上げしてますよね。なのにサイゼリヤが頑なに値上げをしないのはなぜでしょうか。 

 

 【正垣会長】それはね、すごく単純な話ですよ。値上げはお客様のためにならないからです。ビジネスとはつまり、社会貢献だと思っているんですね。「自分たちが儲けて、良い暮らしがしたいからビジネスをする」のではなく、「世の中に困っている人がいて、その人たちの役に立ちたいからビジネスをする」――そういう考え方をしています。優先順位のつけ方ですね。 

 

 【ヨッピー】本のタイトルのように、「自分中心の考え方をやめる」というところに繋がるんでしょうか。 

 

 【正垣会長】そうです。会社を作った時にもまず、「自分が良い暮らしをするにはどうしたらいいか」ではなく、「社員を幸せにするにはどうしたらいいか」ということを考えたんですよ。それには「会社を大きくすることだ」と。どんどん会社を大きくすれば給料も出せるし、社員は幸せになるでしょう。 

 

 今はおっしゃったようにインフレや円安で物価がどんどん上がっています。同時に給料も上がって皆さんの生活が楽になっていればいいのですが、数字から見ても皆さんの暮らしは苦しくなっている。こんな時に値上げはしません。 

 

■値上げをする前にやれることはいくらでもある 

 

 【ヨッピー】サイゼリヤのような大きな会社を経営していると、様々なステークホルダーがいると思うんですね。お客様に喜んでもらう、というのはもちろんそうなんですが、例えばちゃんと値上げをして利益を確保し、社員に還元するとか株主に還元するとか、それもひとつの社会貢献ではあると思うのですが。 

 

 【正垣会長】それも優先順位ですね。とにかくお客様が一番です。社員ももちろん大切ですが、サイゼリヤの離職率は高くないし、給料も同業他社より多く払っています。もちろん値下げしすぎてお金がなくなったら会社が潰れてしまいますが、まだお金はあるから従業員に給料を払うのと同時に、値上げもしないんです。究極、赤字でも会社は経営できますからね。それに、値上げをする前にまだまだやれる事はたくさんあります。 

 

 【ヨッピー】著作の中にも「コストダウンなどやれる事はまだまだある」と書いてありますね。 

 

 例えばサイゼリヤの看板メニューの「ミラノ風ドリア」ですが、あれはもともと480円で売っていた大人気商品であったものを、そこからさらに190円値下げして業界がびっくりしましたよね。どういうコストダウン・改善を積み重ねてあの価格を実現したんでしょうか。 

 

 【正垣会長】あれはね、先に値段を下げちゃったんですよ。当時から一番売れているメニューでしたから、それを190円も下げたらお客さんは喜んでくれるだろうと思って。 

 

■値下げで売れたお金で工場を造りコストダウン 

 

 【ヨッピー】採算も考えずに、ということですか⁉ 

 

 【正垣会長】そう。「あれを安くしたらお客様が喜ぶだろうな~!」って。一番売れているものを安くして利益が増えるならみんなやるでしょうけど、他がどこもやってないっていうことはやっぱりそうじゃないんでしょうね。 

 

 でも、お客様に喜んでもらえたら楽しいじゃないですか。実際すごく喜んでくれたし、すごく楽しかったですよ。ただし、利益は出ない(笑)。 

 

 でも結果的にものすごい数のお客様が来店して、ものすごい数が売れるようになりましたから、そのお金でオーストラリアに大きな工場を造って、大規模に作るようにしてなんとかコストダウンして採算が合うようにしてね。しかもさらに美味しくもなった。 

 

 

■宣伝しないと売れないような商品は出さない 

 

 【ヨッピー】じゃあコストダウンして安く作れるようになったから安くしたのではなく、安くして採算が合わなくなったからコストダウンした、という。順番が逆なんですね……。 

 

 【正垣会長】そうなんです。それが優先順位なんですね。お客様が喜んでくれるのが一番。他はそれから。 

 

 【ヨッピー】ミラノ風ドリアを呼び水にして、お客さんがこれくらい増えるだろうから全体としてはこれくらい売り上げが取れて採算が合うな、といった計算もしてないんですか? 

 

 【正垣会長】してません。もちろん、「お客様は喜んでくれるだろう」と思ってますよ。そしてお客様に喜んでもらえればお客様は増えるんですよ。お客様が増えればやれる事は増えるし、採算もどうにか合わせられる。 

 

 結局「お客様が喜んでくれるかどうか」なんですよ。値段や商品をごまかして一時的に売れたとしても、お客様が本当に喜んでいなければ来なくなっちゃうじゃないですか。サイゼリヤが宣伝をしないのも同じ理由です。 

 

 宣伝すると、確かに一時的には売れるんですけど、でもすぐに来なくなっちゃう。その時に気付いたんですよ。「宣伝って、売れないから宣伝するんだ」って。ちゃんと美味しいものを、安く提供してお客様が喜んでいたら宣伝なんて必要ないですもん(※)。宣伝にお金をかけるくらいなら、他にもっとお客様が喜んでくれることに使いたい。 

 

 ※サイゼリヤはCMなど広告宣伝に頼らない経営をしている 

 

■テーブルから粉チーズが撤去された理由 

 

 【ヨッピー】ちょっと意地悪な質問なんですけど、サイゼリヤが粉チーズの無償提供を中止にした時、粉チーズも原価が高くなってますから「さすがにサイゼリヤも採算合わなかったか~」みたいに言われてましたが、実はあれも採算の問題じゃないということでしょうか? 

 

 【正垣会長】採算の問題ではありません。あれには別の理由があるんです。 

 

 粉チーズを無償で提供していると、「元を取るぞ!」じゃないですけど、例えばヨッピーさんが食事している時に、隣で容器がカラになるくらいに粉チーズをかける人を見かけたらどう思いますか? 

 

 【ヨッピー】まあちょっと、「なんだかな~」って思いますね。 

 

 【正垣会長】だから提供をやめました。他のお客様も気持ち良く食事ができなくなるんですよ。採算の問題ではありません。 

 

 【ヨッピー】なるほど。すごく現場を見ているんですね。 

 

 【正垣会長】はい、毎日行きます。そこで「なんて高いんだ……」とか「なんてまずいんだ……」と思いながら食べています。 

 

 

■毎日サイゼリヤで食事をする理由 

 

 【ヨッピー】サイゼリヤが高いわけなくないですか⁉ 

 

 【正垣会長】いえ、「まだ高い」「まだまずい」という気持ちは持っていなければダメなんですよ。私が「これは、安くて美味しい!」って満足しちゃったらもうやることが無くなっちゃうじゃないですか。だから、「もっと安くできないか」とか「もっと美味しくできないか」ということをずっと考えながら食べるんです。 

 

 【ヨッピー】サイゼリヤ以外のお店に食べに行ったりはしないんですか? 

 

 【正垣会長】昔はね、たまには中華も食べたいし、和食も食べたいし、って色んなお店に行きましたけど、今はもうサイゼリヤにしか行かないな。 

 

 もちろん、ひとり何万円もとるようなお店にも行きましたよ。でも食べ物に対する考え方がまるで違いますよね。そういったお店はどちらかといえば食事というより芸術に近いじゃないですか。それに対してお客さんがお金を払う。 

 

 でも、仕事柄全部わかっちゃうんですよ。これなら原価はこれぐらいだし、あれを使えばもっと安く美味しく作れるな、とか。そうなると段々ばからしくなってサイゼリヤ以外に行かなくなっちゃいました(笑)。 

 

■サイゼリヤが潰れるなら本望 

 

 【ヨッピー】サイゼリヤを初めて美味しいと思ったのは、入院中に食べた時だったそうですね。 

 

 【正垣会長】そうそう。本にも書いたエピソードですけどね。入院している時に病院食が口に合わなくてね。どうしても食欲が湧かなかったんですが、先生に「食べないと元気になりませんよ」って怒られてね。見かねた妻がサイゼリヤに行って、当時はテイクアウトもしてなかったからこっそり料理を容器に詰めて持ってきてくれたんですよ。 

 

 さっき言った通り、私はいつも「まずい」「高い」って文句を言いながらサイゼリヤで食事をするんですが、その時はすごく美味しくて「これ、どこの料理⁉」って聞いたら、妻が「サイゼリヤですよ。最後の晩餐のつもりで持ってきました」って。 

 

 その時は嬉しかったですね。「こんなに美味しいなら、これをもっと美味しくするのが私の使命だ!」って。それで喜ぶ人が増えればこんなに良いことはないですね。もし、サイゼリヤより美味しくて、安いお店ができてそのせいでサイゼリヤが潰れたらそれも本望だと思ってますよ。つまりそれって、今よりたくさんの人が喜んでる、ってことですから。 

 

 (後編へ続く) 

 

 

 

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正垣 泰彦(しょうがき・やすひこ) 

サイゼリヤ会長 

サイゼリヤ創業者。1946年兵庫県生まれ。67年東京理科大学在学中にレストラン「サイゼリヤ」開業。68年の大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。その後、低価格メニュー提供で飛躍的に店舗数を拡大。2000年東証一部上場。2009年4月、社長を退任して代表取締役会長就任。 

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ヨッピー(よっぴー) 

ライター 

1980年生まれ。大阪市出身で、現在は東京都在住。体を張ったネタ記事からニュース記事まで幅広いジャンルの記事を執筆。銭湯が好きすぎて週に8回銭湯に行く。 

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サイゼリヤ会長 正垣 泰彦、ライター ヨッピー 

 

 

 
 

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