( 196367 )  2024/07/30 16:12:30  
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MIXIは、以前はSNSのmixiで成功を収めたが、スマホの普及に遅れが生じ、モンスターストライク(モンスト)の成功によって復活した。

しかし、モンストが徐々に勢いを失い、売上高や収益も半分にまで縮小している。

新たな戦略として、インドを含む新興国市場に展開することを目指している。

また、MIXIはモンスト以外の収益柱を育てるためにスポーツ事業やベッティング分野に進出しているが、まだ十分な成功を収めていない。

MIXIはイノベーションの不在を認識し、AIを次のイノベーションの鍵と位置づけている。

(要約)

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かつてSNS「mixi」で一世を風靡したMIXI。いま再び、一本足打法からの脱却にもがいている(撮影:今井康一) 

 

 「『モンスト』一本足からの脱却に、想定より時間がかかっている」 

 

 スマートフォンゲーム『モンスターストライク』を運営するMIXIの木村弘毅社長は、会社の現状をそう明かす。 

 

【図表で見る】MIXIの業績推移。モンストの大ヒット一巡後は停滞が続く 

 

 かつてSNS「mixi」で一世を風靡したMIXI。スマホの普及への対応の遅れにより、フェイスブックやLINEなどにユーザーを奪われ、mixiの広告収入に依存していた業績は一時、ジリ貧状態に落ち込んだ。 

 

 起死回生をもたらしたのが、モンストの大ヒットだ。 

 

 2013年に正式リリースされてから急成長を遂げ、累計利用者数は6200万人を突破。10年以上経った今も、「鬼滅の刃」「推しの子」といった他社の有力IPとのコラボイベントなどの施策によってユーザーを呼び込み、国内のスマホゲームの売上高ランキングでは毎年上位に位置している。 

 

■モンスト関連収益はピークの約半分に 

 

 ただ、そのモンストも一時期ほどの勢いはない。 

 

 セグメントの区分方法の変更などにより単純比較はできないが、モンストを柱とするスマホゲーム関連事業は2016年3月期に売上高1953億円、セグメント利益997億円を稼ぎ出していたものの、2024年3月期には売上高988億円、セグメント利益385億円と、約半分にまで縮小している。 

 

 2022年からは、モンストのIPをフル活用して収益機会を拡大すべく、スピンオフゲーム『モンストシリーズ』を6本リリースした。しかし結果として不発に終わり、今年5月までにすべてのサービスを終了した。「開発費をかけずに大量にゲームを投下しようという戦略だったが、国内で面を広げることができなかった」(木村社長)。 

 

そこで5月に新たな戦略として掲げたのが、インドをはじめとした新興国での展開だ(インド進出の詳細を語った木村社長のインタビューはこちら)。 

 

 現在、モンストのユーザーのほとんどは国内だ。海外展開も試みたが、2020年までに北米や中国などから撤退し、現在は台湾、香港、マカオのみと苦戦している。 

 

 木村社長は市場規模の大きい北米や中国からの撤退について、「北米ではPCで遊ぶ文化が出来上がっていた。中国ではテンセントのプラットフォームを活用してインストールを促したが、身近な友人を誘って一緒に遊ぶ環境を作れなかった」と反省する。 

 

 インドではスマホの普及とともにスマホゲーム市場が拡大し始めているが、日本のように完成度の高いゲームは多くない。その中でモンストを流行させ、国内と同じように友人と一緒にスマホゲームで遊ぶ文化を醸成できるかどうかが重要になる。長期的には、インドを皮切りにアフリカや南米など新興国での拡大も狙う。 

 

 

■モンストに並ぶ柱はいまだ不在 

 

 一方、積年の課題である「モンスト一本足」からの脱却も急務だ。 

 

 モンストを中心としたスマホゲーム関連事業(デジタルエンターテインメント事業)は現在、全社売上高の7割を占める。SNSのmixiの”オワコン化”の教訓から事業多角化を目指してきたが、モンストに並ぶ柱はいまだ生まれていない。 

 

 2015年にはチケット転売サイト「チケットキャンプ」の運営会社を115億円で買収したものの、商標法違反の疑いによる警察の捜査や高額転売への批判を受けて、2018年に閉鎖した。 

 

 現在、次の柱として育てているのはスポーツ事業だ。傘下にはプロバスケチーム「千葉ジェッツ」やプロサッカークラブ「FC東京」を持つ。 

 

 ベッティング分野では、2019年に競輪車券のインターネット投票サービスのチャリ・ロト、競馬総合情報メディアを運営するネットドリーマーズを相次いで買収。2020年から運営を開始した競輪予想や投票ができるライブ動画アプリ「TIPSTAR」は、2024年3月期に通期で黒字化を達成した。 

 

 今後の成長のカギは、巨大なベッティング市場が形成されている海外での展開だ。前期には、オーストラリアで子会社の現地法人が日系企業で初めてベッティングのライセンスを取得し、サービスをリリースした。しばらくは投資が先行する見込みで、厳しい競争環境の中でシェアを獲得できるかがポイントだ。 

 

 もう1つ、収益柱へと期待を寄せるのが、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」。2015年にサービスを開始し、利用者は2000万人以上にのぼる。そのうち約4割が、北米を中心とした海外だ。 

 

 課題は商材の拡充による収益力強化だ。「みてね」は、写真や動画のアップロードは原則無料で、写真の一括ダウンロードなどができる月額課金制のプレミアムプランや、写真プリント、GPSによる見守りサービスなどで稼ぐビジネスモデルだ。「みてね」を中心とするライフスタイル事業は、海外での広告宣伝費負担もあり、赤字が続いている。 

 

 写真プリントは海外でもニーズが高い一方、現地での印刷や配送の体制は簡単に拡大できるものではない。今後は利益率も高く海外での展開も容易なデジタル系の商品ラインナップを拡充したうえで、課金率・購入率も高めていく必要がある。 

 

 

■ヒットを生み出せない根因 

 

 そもそもMIXIが長らくヒットするサービスを生み出せていない背景には、イノベーションの不在がある。 

 

 SNSのmixiもモンストも、PCやガラケー、スマホなどデバイスの変化の波に乗ることで急成長を遂げた。この10年間で画期的な新たなデバイスの登場がない中で、「(成長を見込む事業に対して)人的リソースや資金の選択と集中をやりきることができていなかった」(木村社長)。 

 

 木村社長は次のイノベーションの起爆剤としてAIを挙げる。「オンデバイスAIによってハードウェアの買い替え需要が起こる機運が高まってきている。私たちにとってもターニングポイントになるのではないかと期待しており、AIを活用して(サービス)開発するよう大号令をかけている」。 

 

 MIXIの株価は2017年に記録した過去最高値(7300円)と比べると、半分以下の水準にあるものの、5月の中期方針発表後に急伸し、4年ぶりの高値をつけた。 

 

 今度こそ「一本足」の収益構造から脱却し、持続的な成長を描けるか。市場からの期待は高まっている。 

 

田中 理瑛 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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