( 196762 )  2024/07/31 16:55:33  
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アウトドア業界は、キャンプブームが終わった後、次の成長戦略を模索しています。

一つの方向性として、防災キャンプ市場が注目されています。

防災キャンプは、災害時に備えてキャンプを通じて必要なスキルや知識を身につける活動であり、避難所や家の近くなど都市部で行われます。

アウトドアメーカーは、防災キャンプ向けの製品開発に取り組むことで新たなビジネスチャンスがあります。

例えば、車中泊避難グッズやトイレ対策グッズの開発が求められています。

また、防災キャンプを普及させていくことで、国や自治体の防災対策に貢献し、アウトドア業界にとっても成長の機会となるでしょう。

(要約)

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キャンプブームが去って、アウトドア業界はどうする? 

 

 次の「金脈」はどこにあるのか、と悩んでいる業界関係者も多いのではないか。 

 

 日本経済新聞の記事「キャンプブーム終焉 ワークマンは『男子』に回帰」(7月28日付)によれば、「#ワークマン女子」などに力を入れていたワークマンがキャンプ需要が落ち着いたことを受けて、「男性カジュアル衣料」に力を入れるように方針転換をするという。 

 

【画像】スノーピークはどうなる? アウトドア業界が生き残る道 

 

 また、アウトドアメーカー大手のスノーピークもキャンプブーム終焉(しゅうえん)が影響して、2023年12月期決算の純利益は99.9%減の100万円にとどまったことが大きな話題になった。今期は米国や中国などの海外出店を強化する予定で、この夏には米国初の直営キャンプ場をオープンした。 

 

 ただ、15年来のキャンプ愛好家の立場から言わせていただくと、今の「キャンプ需要の落ち込み」は自業自得というか、ハナから分かりきっていたことではないか、という気もしている。 

 

 基本的にキャンプ・アウトドア用品は、一般的な製造小売ビジネスの成功モデルである「大量生産・大量消費」がハマりにくい。「買い替え」をそれほどしないからだ。 

 

 筆者もコンテナを借りて収容しなくてはいけないほどキャンプ用品を所有しているが、そのほとんどが5年、10年と愛用しているものだ。手入れをすれば長持ちするし愛着もわくので、近年はほとんど新しいグッズを買っていない。 

 

 そんな「買い替えがあまり必要ない商品」が販路を拡大して、巨大商業施設のテナントやスポーツ用品店でナイキやアディダスと並んで売られるようになればどうなるか。 

 

 当初はブームもあってよく売れるだろう。しかし、ある程度消費者に行き届けば需要が落ち着いていくのは当然である。 

 

 では、キャンプ需要が落ち着いてしまった今、アウトドア業界はどうすればいいのか。何年か先、次のキャンプブームが訪れるまでじっと待つという手もあるが、今のうちに新しい分野に「種」を蒔(ま)いておくという「攻めの成長戦略」もある。 

 

 実はアウトドア業界には、本人たちも気付いていない、すさまじいポテンシャルのあるブルーオーシャンが広がっているのだ。 

 

 それは「防災キャンプ」である。 

 

 ご存じない方もいらっしゃるだろうが、防災キャンプとは、災害時に必要なスキルや知識を、キャンプを通じて身に付けようという体験活動である。 

 

 これはもともと東日本大震災後の2012年、文部科学省が防災教育プログラムの一環として予算をつけた「防災キャンプ推進事業」が始まりだ。学校の体育館などに泊まり込んだ子どもや保護者、地域住民が避難生活の疑似体験をするというもので、それが事業終了後も一部の自治体などで定着して続けられていた。 

 

 それが近年のキャンプブームの高まりや熊本地震、能登半島沖地震など巨大災害が相次いだことを受けて注目を集めており、キャンプグッズを活用するなど、よりカジュアルに進化をして全国に普及しつつあるのだ。 

 

 例えば7月29~30日、千葉県木更津市では廃校をリノベーションしたグランピング施設「ETOWA KISARAZU(エトワ木更津)」で防災キャンプのイベントが開催され、子どもからお年寄りまで災害時の避難を想定したキャンプを行った。 

 

 南海トラフ巨大地震に備える豊橋市伊古部町でも7月27~28日、高校生から25歳までの若者が集まり「アオハル防災キャンプ」というイベントを実施した。 

 

 この防災キャンプ、今は自治体がメインとなって催されているが、今後は企業の社内イベントや研修、町内会や少年野球チームの親睦会などにも広がっていく見通しだ。南海トラフ沖地震や首都直下型地震などが想定されている中で、国も防災・減災の取り組みを呼びかけている。地域防災の要となる職場や地域社会で「防災キャンプ」が普及していくのは「既定路線」と言ってもいいだろう。 

 

 

 このように成長確実な防災キャンプ市場は、アウトドア業界にとっても新たなビジネスチャンスになることは間違いない。 

 

 当たり前の話だが、アウトドアメーカーが出しているキャンプ用品やアウトドアギアは「大自然」の中での使用が前提となっている。しかし、これまで見たように防災キャンプは避難所である体育館や公園、住宅地などの「都市部」が舞台だ。 

 

 つまり、今キャンプブームで普及しているキャンプ用品ではオーバースペックなのだ。そこで求められるのが、体育館などの避難所、家の近くの公園、車中泊など、被災者目線に合わせた「防災キャンプ用品」の開発だ。 

 

 例えば、真冬に大地震が起きて体育館や学校に避難をした。いくらそこでスノーピークのたき火台や炭を持っていても、集団生活だと周囲に迷惑がかかるので使用できない。灯油ストーブは大きいので地震で逃げる際に持っていきにくい。 

 

 では、そこでアウトドアメーカーが、防災リュックに入るくらい小さなカセットガスストーブや「豆炭あんか」(成形炭を入れる湯たんぽのような暖房器具)を開発していたらどうか。寒い体育館で雑魚寝を余儀なくされる被災者としては、かなり助かるのではないか。 

 

 さらに、アウトドアメーカーの皆さんにぜひとも開発に力を入れていただきたいのが「路上泊」「車中泊」を意識した防災キャンプ用品である。 

 

 能登半島沖地震のとき、避難した人々を「体育館に1カ月雑魚寝」にしていた防災体制が指摘されたが、実は首都直下型地震や南海トラフ沖地震が発生した際には、体育館で雑魚寝すらもできず、「野宿」を余儀なくされる人々が大量に出ることが分かっている。 

 

 『NHK 首都圏ナビ』の報道によると、被災後に首都圏で仮住まいが不足する数は最大105万6000戸に上るという。これは専修大学の佐藤慶一教授が首都直下型地震の被害を全壊や半壊、焼失と設定した都の被害想定などから独自に算出したものだ。 

 

 

 では、家に住めなくなった人々はどこへいくのか。都内の人口に比べて、体育館や公民館といった避難所の数が圧倒的に少ないのはいうまでもない。 

 

 現在、建設が見込まれるプレハブなどは用地の関係で、4万戸にとどまるというから焼け石に水だ。しかも、能登半島沖地震を見ても分かるように入居まで何カ月もかかる。家が決まるまで緊急的に入居できる賃貸住宅も用意はあるが、それも49万3000戸と半分にも満たない。 

 

 これを踏まえると、首都直下型地震が起きた場合、自宅に住めなくなった112万2000人が「仮住まい困難者」として行き場がなくなるということだ。 

 

 では、この112万人はどうするのかというと、現実的には「野宿」しかない。倒壊する恐れのないようなビルや大型商業施設などを開放してもらってそこで雑魚寝をするか、雨露がしのげる場所でうずくまって救援が来るのを待つしかない。幼い子どもや、お年寄りにはかなり辛い。 

 

 しかも、タイミングが悪く冬の寒さや台風などが重なった場合、このような過酷な環境で避難生活をしている人たちは心身のダメージを受けて亡くなっていくこともある。能登半島沖地震でも問題になっている「災害関連死」が爆発的に増えていく恐れもあるのだ。 

 

 こういう最悪のシナリオがかなり現実味を帯びている今、国や自治体が進めなくてはいけないことは目に見えている。112万人が「路上泊」「車中泊」という野宿を余儀なくされるわけなので、そのような「野宿」で命と健康をつないでいくための「防災キャンプ用品」の開発である。 

 

 例えば、「車中泊避難グッズ」はこれから需要が増えていく。能登半島沖地震でも「『いつか天井が…』怖がる小学生も 震災2カ月、なお車中泊142人」(朝日新聞デジタル 3月9日)と報道されたように、さまざまな事情から車中泊避難を選択する被災者がいる。 

 

 そこで問題なのは、日本は軽自動車やコンパクトカーが多いので、狭い室内で寝起きをして健康を崩す人も少なくないということだ。解決策としてクルマと連結させるような「カーサイドテント」というものがあるのだが、これがなかなか使い勝手も悪いし、品ぞろえもない。これをアウトドアメーカーがもっと良いものを開発すれば、救われる人も多いし、防災備蓄品としての需要も見込めるのではないか。 

 

 そして、何よりもやってもらいたいのが「トイレ」対策だ。首都直下型地震や南海トラフのような巨大地震が起きた際、避難所のトレイもパンクするだろうし、先ほど申し上げたように野宿をする人も大量にあふれる。トイレ問題は深刻だ。 

 

 今の技術があれば、各自が「携帯用マイトイレ」を持って凝固剤などで処理できるようなキャンプグッズも開発可能だろう。 

 

 防災キャンプがブームになって、「災害時に自分の排泄物を処理できる」技術を持った人が少しでも増えれば、地震が発生すると国や自治体が頭を悩ますトイレ問題も少しは改善される。 

 

 

 JA共済連が2023年、全国に住む10~70代の男女960人を対象に「防災に関する意識と実態」の調査を実施した。 

 

 それによれば、防災対策を実施したことがあるかと聞くと、85.8%が「何らか行った」と回答している。しかし、内容を見ると「ハザードマップの確認」(39.6%)や「非常用飲料水の備蓄」(35.8%)ばかりで、「実践」に関しては「学校での避難訓練」(28.5%)、「職場での避難訓練」(22.9%)しかない。 

 

 これが日本の防災の弱点だ。マジメな国民性もあり「地震です」というアナウンスが流れたら、防災頭巾をかぶって避難所に集合をするところまではそれなりにしっかりやる。 

 

 しかし、本当に訓練をしなくてはいけないのはそこからだ。 

 

 東日本大震災や能登半島沖地震の「災害関連死」の多さを見ても分かるように、避難後、電気や水が復旧して仮設住宅に入れるまでの数カ月、長くて半年をどうサバイバルするかが実は一番大事だ。 

 

 しかし、日本人はそういうシビアな未来から目を避ける傾向がある。「起きたら起きたで、その時にみんなで力を合わせて乗り切ろう」という感じで、「絆」のような精神論にすがってしまうのだ。 

 

 もちろん、それは良い面もあるのだが、悪い面もある。これだけ地震が多い国なのに、いつまでたっても被災者が体育館でダンボールのついたての中で雑魚寝をさせられている原因もここにある。 

 

 これではいけないことに、多くの国民も危機感を抱いている。先ほどの調査でも「もう一歩進んだ防災対策をしたい」と回答した人は80.1%。「子どもに、防災について知ってもらいたい」と回答した人も79.1%に上っている。 

 

 そのニーズに合致するのが防災キャンプだが、まだ自治体や一部の市民が主導している状況で、それほど盛り上がっていない。しかし、ここにワークマンやスノーピークという有名企業が入ったらどうか。 

 

 もちろん、最初はビジネスとしてのメリットは少ない。CSR(企業の社会的責任)的な位置付けだろう。ただ、長い目で見ればアウトドア業界の次の成長エンジンを育てる「先行投資」になるはずだ。 

 

 「#防災キャンプ女子」とか「人生に野遊びと防災を」なんてキャンペーンを仕掛けて防災キャンプを社会現象にしていけば、「世論」と「票」を味方につけたい政治家も動く。議連ができる。利権が生まれて、「国策」として防災キャンプ市場の成長が後押しされるので、その恩恵はワークマンやスノーピークに還元されるのだ。 

 

 日本は「災害大国」と言いながらも、防災が未整備な状況だ。背景にはこの分野がまだ「産業」として確立されていないことが挙げられる。ミもフタもないことを言ってしまうと、カネの匂いがしないので、政治家やら高級官僚が「旨みがない」と判断して、普及に真剣にならないのだ。 

 

 キャンプブームも終わって次の成長戦略を探すアウトドア業界の皆さんはぜひ一致団結して「防災キャンプ」を国策に押し上げてみてはいかがだろうか。 

 

(窪田順生) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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