( 198464 ) 2024/08/05 01:18:10 0 00 日英伊が共同開発する次期戦闘機のイメージCG(画像:防衛省)
2024年7月5日、前日に行われた英国の総選挙の結果を受け、労働党が政権の座に就いた。これまで長く続いていた保守党政権から労働党政権への政権交代が行われた。
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新政権では
「国防方針の見直し」
が提起され、2025年にその結果が出される見通しとなっている。そのなかで、英国のメディアやアナリストが指摘しているのが、日本やイタリアとの戦闘機共同開発プロジェクト(グローバル戦闘航空プログラム。略称GCAP)の見直し論だ。
なぜ、政権交代から間もないこの時期に共同開発プログラムの見直し論の報道がなされたのであろうか。ここでは英国を取り巻く財政と安全保障環境から読み解いていく。
英国・労働党のウェブサイト(画像:労働党)
2024年7月に発足したスターマー新政権では国防方針の見直しが提起されている。新政権はそれまでの保守党政権で行われていた国防方針を引き継がずに新たな方針を立てるとしている。
元々現行の計画は2021年に発表されたものであった。この方針では、
「陸軍を削減」
し、浮いた予算を海軍、空軍、そして新たな分野に投入するとしていた。しかし、この方針は、ロシアによるウクライナ侵攻前に立てられたものであり、計画見直しを主張する声が上がっていた。
新政権発足後、国防方針の見直しが提起されたのは、政権交代による前政権の方針見直しもあるが、国防方針を巡るこのような経緯も影響している。見直し後の国防方針の発表は2025年の予定である。現時点ではどのような計画が発表されるかはわからない。GCAPについても、どうなるかはわからないのが実情である。
では、なぜGCAP撤退が提起されたのだろうか。その理由としては、英国の厳しい財政事情が影響している。
英国陸軍のウェブサイト(画像:英国陸軍)
労働党新政権が打ち出した国防方針見直しは、これまでの国防方針への批判も含まれている。労働党は、総選挙以前から現行の国防方針を批判し続けてきた。現行の国防方針により、
「軍の空洞化を招いている」
というのが、労働党の主張だ。
労働党政権が発足する以前から、英国は国防の見直しを行っている。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、英国はウクライナに対する主要な支援国となっている。2024年4月24日に英国の庶民院で行ったシャップス国防大臣の報告によると、2022年から125億ポンドの支援を行っている。日本円に換算すると
「2.4兆円」
にも上っている。ちなみに英国の国防予算は2023会計年度で542億ポンドである。
2021年に打ち出された国防方針は英国軍の弱体化をもたらしていると、労働党は批判している。予算の不足により、調達プログラムに支障が出ている。
一方、英国の欧州連合(EU)離脱、コロナ禍は英国に経済不振をもたらした。保守党政権下のジョンソン政権は国防費を国内総生産(GDP)比2.5%、トラス政権は3.0%に増額すると表明した。
GDP比3.0%とは大体1000億ポンド(19兆6000億円)にも達する。英国も他の欧州諸国同様に予算拡大を行おうとしているが、国家財政にそのような余裕はない。結局、優先順位を決め、予算の再配分を行うしかなかったのである。
次期戦闘機のイメージ(画像:防衛省)
英国の財政事情を考えれば、これから開発が始まる新型戦闘機プログラムに資金を費やすよりも、
・ウクライナ支援 ・英国軍の戦力向上
を優先すべきという意見が出るのも無理がない。
とはいえ、英国がGCAPをどうするかは2025年の国防方針発表を待つしかない。撤退論も出ているが、スターマー新政権は
「アジア重視」
を掲げており、日英関係に深刻な影響を与えかねないプロジェクト撤退を本当に行うのかは疑問が残る。撤退をしなくても、開発費用に関して、日本にさらなる負担を迫る可能性はあろう。いずれにせよ、2025年の国防方針見直しの発表まではどうなるかはわからない。
労働党政権の発足によって、国防方針の見直しが打ち出された。これは英国の国防体制の効率化を図り、ロシアによるウクライナ侵攻への対応を厳しい財政事情のなかで行わなければならない英国の苦しい状況を反映しているといえよう。
しかし、これは英国だけの問題ではない。例えば、日本も2022年の安保三文書発表以降、防衛費の増額を行うとしている。
その一方で、日本の財政事情は相変わらず厳しいままである。日本もGCAPの参加国ではあるが、これは長期に及び、かつ莫大(ばくだい)な費用を有する一大プロジェクトである。中国の脅威を真正面から受けているということもあり、日本国民も防衛費増額方針には賛成が多いが、増税までして防衛費を増額する、つまり負担が増えるというと反対の声が大きくなる。
経済事情によっては、防衛費が選挙の争点となることも十分にあり得る。英国で起こっていることは日本でも起こり得るといえよう。
加藤博章(国際政治学者)
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