( 198609 ) 2024/08/05 16:33:59 0 00 学校推薦型選抜を2016年から導入した東京大学(写真:イメージマート)
大学進学を控える秋篠宮家の悠仁さまは、トンボを題材とした学術論文を発表するなど課外活動も注目を集めている。その実績を活かして東京大学の推薦入試(学校推薦型選抜)を受験するというシナリオも有力視されている。では、実際の東大の推薦入試はどのような生徒が受験し、合格しているのか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートするシリーズ「悠仁さまと東大推薦入試」。【全4回の第3回。第1回から読む】
【画像】悠仁さまが共同執筆した「トンボ論文」。冒頭には英文での要約も
* * * 悠仁さまの進学先の大学がどこになるかという点が注目されている。悠仁さまがトンボ研究の第一人者たちと論文を書いたことから、「この論文を探究学習の実績として利用し、東大に学校推薦型選抜で入るのでは」という憶測がされ、「一流の研究者との共著の論文を実績として提出するのは『特権』ではないのだろうか」という批判も起きている。
2024年6月12日配信の「デイリー新潮」では、「金持ちの子弟が高名な専門家を雇い共著論文を執筆してもらえば合格できてしまう」という意見を紹介している。前回と前々回記事では、その批判は的外れでないか、と書いた。論文を共同で書いた場合、論文全体のクオリティではなくその論文の中で悠仁さまが担当した部分が評価される、また、悠仁さまは自由に山や森に繰りだして調査ができないお立場であり、それは昆虫の研究者として大きなハンデを背負っているという2つの点を指摘した。
その悠仁さまが実際に東大の学校推薦型選抜(推薦入試)を受験するかはさておき、今回は東大の推薦入試の現状について言及しよう。
全体的に推薦入試は一般選抜より簡単だと誤解されがちだが、そうではないケースが増えている。特に東大の推薦入試は実にハードルが高くなっている。
大手塾の小論文対策講座の責任者がいう。
「東大の推薦入試が始まった頃は、選抜の方法も試行中だったので、一般選抜では絶対に合格できないような学力の低い生徒や“微妙”な生徒が合格することがありました。しかし、今はそういったことはあまりないですね」
クイズ番組『東大王』(TBS系)で活躍していた鈴木光さんも筑波大学附属高校から東大法学部へ推薦で進学をしているが、彼女は大学在学中に司法試験の予備試験に合格をしている。司法試験を受けるためには、ロースクール修了が条件だが、予備試験に合格できればそれが免除される。その予備試験は合格率4%の非常に難しい試験だ。日本で最難関の試験だともいわれる。その予備試験に合格するのだから、鈴木光さんの学力の高さは折り紙付きで、一般選抜でも東大に合格するだけの力は十分あっただろう。
鈴木光さんのように「一般選抜でも東大に合格できる生徒」が受験するのが、東大の推薦入試の大半になっている。
大手予備校を取材しても「東大の推薦を受験する生徒は一般選抜対策の勉強もしっかりしている」と話す。一般選抜の対策のために東大クラスに通っている生徒たちの一部が推薦も受験しているのだ。
全国のすべての高校から各4人(男子のみ女子のみの場合は3人まで)まで推薦入試を受験できるが、実際の合格者の出身高校一覧を見ると、開成、灘、渋谷教育学園渋谷などの私立難関校や私立難関校や県立秋田、県立福島、都立日比谷などのトップ公立高校がずらりと並ぶ。
なぜそうなるかというと、基礎学力が必要だからだ。まず、大学入試共通テストで8割を得点することが求められる。
中堅校などを取材していると、「探究学習や活動実績だけなら東大の推薦に受かりそうな生徒がいても共通テストで8割がクリアできないから受験を諦める」という話をしばしば聞く。
また、ある難関校で世界レベルの論文を書き、賞もとった生徒がいたが、学力的には「深海魚(高偏差値校で成績が低迷している生徒)」だったので東大の推薦は検討もしなかったという話も聞いた。
そして、出願の条件も厳しい。学校長の推薦が必要で、共学の高校の場合、4人までいうことだから、校内での成績が良くないといけないし、キャラクター的にも教師たちの覚えめでたき品行方正な優等生である必要があろう。
また、東大の各学部が示す「推薦要件」もなかなかのハードルの高さだ。たとえば、悠仁さまが進学を希望されるかもしれない理学部は「特に優れた成績や研究成果など」か、「科学オリンピックなどの各種コンテスト、科学雑誌などへの論文発表、ソフトウェア開発経験など」の実績を有することが推薦をされる要件となっている。ソフトウェア開発は「商品レベル」ともあり、高校生に求めるにはかなりのハードな条件といえよう。
「評定平均値いくつ以上」という出願条件はないが、実際にはかなり高い評定平均値が必要になるといわれている。「評定が4.5以上ないと東大の推薦は受からない」という話もあると私立校の関係者はいう。
つまり、難関高校の中でも成績優秀かつ、探究学習や活動実績が立派な優等生という、ある意味“パーフェクト高校生”でないと東大の推薦は出願すらできないのが現状だ。
実際に、毎年、何十人も東大に進学する難関校で成績が常にトップクラスで、東大に一般選抜で進学した学生はこう話す。
「周囲に『評定平均値も高いし、活動実績もあるんだから推薦を受けたら?』といわれて、調べたけれど、準備の手間に時間がかかるし、どこまでやったら合格するか分からないということもあって、学校に相談もしませんでした。一般選抜は模試を受けたら合格するか否かが分かるからずっと楽だと思いました」
今回は東大の学校型推薦選抜がいかに難関かについて言及した。基礎学力があって、探究学習の実績がしっかりとあっても、学内の競争に勝てないと出願すらかなわない。
その東大の推薦入試は今、受験の世界でどういう立ち位置にあるかについて次回、言及しよう。
(第4回につづく。第1回から読む)
【プロフィール】 杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。
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