( 199489 ) 2024/08/08 02:00:15 0 00 東京都中央区の日本銀行本店(川口良介撮影)
政府や日銀の要職の口先介入により、株式や為替市場が乱高下する動きが目立っている。7日には日銀の内田真一副総裁が講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げすることはない」と発言し、外国為替市場では円相場が一時1ドル=147円台後半まで3円ほど円安・ドル高に振れた。ただ、日銀は1週間前の金融政策決定会合で政策金利0~0・1%から0・25%程度に引き上げることを決めたばかり。その方針を覆すような発言なだけに、日銀の信頼低下に直結しかねないとの懸念が強まる。
【写真】日銀の内田真一副総裁
■発言に市場動かす意図か
内田氏は7日に北海道函館市で講演し、日経平均株価や円相場が激しく動いている間は政策金利を現在の0・25%程度から引き上げない考えを示したうえで、「金融緩和をしっかりと続ける必要がある」と強調した。
追加利上げを決めた7月31日の決定会合後の会見で、日銀の植田和男総裁がさらなる追加利上げを示唆する発言もしたことで、市場は日銀が引き締めに積極的な「タカ派」姿勢を強めたと認識していた。
だが、内田氏が一転して金融緩和に積極的な「ハト派」的な発言をしたことで、金利引き上げが予定通り行われないとみた投機筋の円を売る動きが加速した。
最近の東京市場の株価暴落が日銀の利上げが一因となった側面もあることから、内田氏はあえてハト派的な発言をすることで火消しを図ったとみる向きは強い。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、「『利上げをすることはない』などと断定口調で話したところに、市場を動かそうとする意図がみえる」と分析する。ただ、「そうした発言の仕方になると、政策方針が急に変わった印象を与える危険性がある」と指摘。「長い目で見ると、日銀の金融政策への信頼性を損ねる」と苦言を呈す。
■発言影響受けやすい環境
7月30~31日の日銀の政策決定会合を前には、岸田文雄首相の後継を狙う自民党の茂木敏充幹事長と河野太郎デジタル相という「ポスト岸田」候補の2人から、日銀に追加利上げを求める発言があった。その際も、日米で開いていた金利差が今後縮小するとの見通しから、円相場は対ドルで上昇している。
その後、日銀はこの政府要職2人の発言を受けるような格好で追加利上げを決めたため、市場の一部では独立性が求めらられる日銀への不信感が募っていた。そうした状況下で7日の内田氏の発言があり、さらに信頼性が揺らいだ格好だ。
その前日の6日には、東京株式市場で日経平均株価が乱高下していることを受けて、自民党の浜田靖一、立憲民主党の安住淳両国会対策委員長が会談。安住氏は会談後、記者団に日銀が政策金利を0・25%に引き上げたことが株式市場に影響を与えているとの見方を示していた。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは、政府要職の発言や動きが活発化していることから、「政府の日銀に対する影響力が強まっている」とみる。背景には9月の自民党総裁選に向けて、市場を安定化させたい政府の思惑も透けてみえる。
一方で、市川氏は「現在の市場環境はこうした口先介入に左右されやすい市場環境にあった」と説明する。「投機筋による円売りが積み上がっており、潜在的な買い戻し圧力がもともと高まっていた。そのため、政府や日銀の発言に対する市場の関心も高かった」という。さらに、「最近公表された一部の米経済指標が下振れし、景気減速への懸念が強まったタイミングも口先介入の影響力を強めた」と話す。(西村利也)
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