( 199647 )  2024/08/08 16:54:31  
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日本株が急激な乱高下を経験中。

米国の景気後退懸念や日銀の利上げにより、「大暴落」が起こったと言われている。

経済ジャーナリストの須田氏によると、市場はデフレ脱却に期待し、株価が上昇していたが、日銀の利上げにより期待が落ち、個人消費マインドも下がった。

須田氏は、日銀総裁の植田氏が「利上げさせられた」可能性があると指摘している。

結果として、日本経済には大きな打撃があり、個人消費の期待が後退するなど様々な影響が懸念されている。

(要約)

( 199649 )  2024/08/08 16:54:31  
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日銀の植田和男・総裁は外堀を埋められて“利上げさせられた”のか(時事通信フォト) 

 

 日本株が激しい乱高下に見舞われている。7月11日に4万2224円(終値)の史上最高値をつけた日経平均株価は8月5日の歴史的な大暴落によって約3週間で1万円以上(約25%)も下落。翌6日に過去最大の上げ幅で急反発するなど、ジェットコースターのような激しい値動きが続いている。 

 

【写真】上空から見ると「円」のかたちに見える日本銀行 

 

 この「大暴落」の要因は、米国の雇用統計が悪化したのをはじめ米国の景気後退懸念が高まったことに加え、日銀が7月の金融政策決定会合で「利上げ」に踏み切ったことが大きい。あまりの市場の混乱を受けて、日銀の内田真一・副総裁は7日の講演で「市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と再利上げを急がない考えを示唆して事態の鎮静化を図っているような状況だ。株価乱高下の引き金について、経済ジャーナリストの須田慎一郎氏が解説する。 

 

「雇用統計の悪化などによる米国の景気後退懸念というのは“後付け”の理由にすぎず、日本株がここまで下がった引き金となったのは日銀の利上げに間違いない。米国のFRB(連邦準備制度理事会)が9月にも利下げするという観測が高まり、それによって日米金利差の縮小が見込まれることから円高に反転。輸出関連企業の業績悪化懸念から、まるでドミノ倒しのように日本株が過剰なまでに売り込まれた。 

 

 しかし、これはあまり指摘されていないが、株価が極めて不安定な状況をつくりだした背景には、もうひとつ大きなポイントがあります」(以下「」内は須田氏) 

 

 須田氏によれば、そもそも市場には「いよいよ日本が本格的にデフレ脱却するのではないか」という期待感の高まりがあったという。それに呼応するかのように、日経平均も右肩上がりになり、7月11日には史上最高値を記録している。 

 

「デフレ脱却は、単に消費者物価指数が上がっているからという理由ではなく、需要と供給のギャップを見る必要があります。長引くデフレで供給よりも需要が少ないのに、政府や日銀は需給はほぼフラットになりつつあるという見方をしています。とはいえ、それはコロナ禍や人手不足の影響で供給側がフル操業していないため、企業側の供給能力を低く見積もっているからにすぎません。本来あるはずの潜在的な供給能力で考えれば、まだまだ供給が需要を上回っている。いわば“手心”を加えた供給能力でいくら検証しても意味がない。 

 

 にもかかわらず、“本格的なデフレ脱却が見えてきた”と市場では受け止められ、企業業績が向上して賃上げが進み、GDPの約6割を占める個人消費が回復してプラス成長に転じるという好循環への期待が高まり、株価は上昇していった」 

 

 

 日経平均の史上最高値更新は、そんな“脆弱な要因”に支えられただけだったというのだ。 

 

「需給ギャップは金額ベースで10兆円弱あり、その需要不足を埋めてきた格好なのが10兆円近くまで高まってきた外国人観光客によるインバウンド消費です。円安を追い風にインバウンドは宿泊、飲食、交通業界などの拡大をもたらし、それが日本経済全体に及んでいく構図が期待されました。 

 

 しかし、そんな期待感を大きく剥落させたのが、ほかでもない日銀の利上げです。デフレ脱却によって企業の業績が向上し、賃上げによって個人消費も回復が望めるという千載一遇のチャンスを自ら遠のかせてしまったに等しい。日銀の利上げをきっかけとした株価の大暴落によって、個人消費は冷え込み、企業の設備投資も後退させてしまうような事態まで想定される。消費者のデフレマインドを解きほぐすどころか、むしろ凝り固めてしまった。このタイミングでの利上げは明らかに間違いで、早すぎたといえます」 

 

 市場のデフレ脱却への期待が株価を押し上げたが、その期待を一気に萎ませたのが日銀の利上げだったというのだ。日銀の植田和男・総裁はかねてより「賃金の上昇を伴う2%の物価安定目標」を掲げていたが、7月の利上げ前に発表された実質賃金(今年5月分)は26か月連続のマイナスで、賃上げが物価上昇に追いつかない状況が続いていた。それでも利上げに踏み切ったのはなぜか。 

 

「財務省や政治家を含め岸田政権が過度な円安解消のために日銀に利上げを迫るムードが高まり、日経新聞を中心に大手マスコミも利上げが当然のような“先打ち”をして外堀を固めていったことが大きい。7月の金融政策決定会合でも利上げは全会一致ではなく、反対に回った委員も2人いたが、日銀プロパーの考え方でいけば“利上げが勝ちで、利下げは負け”で、それらを抑えきれなかった面もある。そのように外堀が埋められるなか、植田総裁は“利上げさせられた”と見た方がよいでしょう」 

 

 

 その結果、為替は円高に振れ、輸出関連企業を中心に業績悪化懸念が高まり、日経平均は大暴落。ただし、問題はそれだけでは終わらない。 

 

「一番の問題は、日本国内の個人消費マインドの高まりが当面望めなくなったことです。都内の不動産価格がバブル超えするなど上昇が続くなか、住宅ローンの金利上昇が見込まれて不動産購入の意欲は薄れる。コロナ対策として配られた補助金なども貯蓄に回っただけで消費には回っていない。それがようやく消費に回るチャンスも先送りされてしまった格好です」 

 

 さらに、岸田政権は「貯蓄から投資へ」を掲げ、「資産所得倍増プラン」の一環として今年1月から新NISA(少額投資非課税制度)を始めた。日本証券業協会によると、主要証券会社10社の今年6月末のNISA口座数は1520万件。実に日本人の8人に1人がNISA口座を開くほど投資ブームは高まっているが、そこにも冷や水が浴びせられた格好だ。 

 

「岸田政権に踊らされて投資を始めた初心者には動揺が広がるばかり。その流れに冷や水を浴びせたのは日銀の利上げですが、そもそも誰が音頭を取ったのかという問題から目を背けてはいけない。 

 

 ただ、踊らせた方はもちろん、踊らされた側も考えるべきところはあるかもしれません。かつてバブルの頃には『日経平均が上がっているらしいから株を買いたい』とか『NTT株が儲かるみたいだから初めて買ってみた』といった、よくわからずにお金を投じた投資家が相次ぎ、バブル崩壊に飲み込まれていった。 

 

 いまも『米国の“S&P500”や“オルカン”が人気だから買ってみよう』とか、成長投資枠の個別株投資で一番人気はNTT株だったり、あの頃と似通った状況がある。“新NISAというバスに乗り遅れると損”みたいな考え方で安易に手を出しても、株価は上下動するのが当たり前で、そう簡単に儲かるわけではない。資産運用の基本は『長期・分散・積立』ですから、いま一度冷静になる必要があるでしょう」 

 

 日銀の利上げが日本経済に与えたインパクトはとてつもなく大きい。 

 

 

 
 

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