( 200337 )  2024/08/10 16:13:16  
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2025年の大阪・関西万博に向けて、大阪府が府内の子供たちを招待する事業で、専用列車が運行される予定であるが、教員や保護者からは懸念の声が上がっている。

万博会場の建設が進んでいるが、海外パビリオンの工事が遅れており、開催までの残り時間が8か月ほどあり、万博の盛り上がりが不十分な状況が続いている。

一方、大阪メトロ中央線の混雑が予想されることから、専用列車や優先列車の運行案が示されている。

招待事業は子供たちが最先端技術に触れる機会を提供し、目的は夢や希望を感じさせることであるが、安全性や輸送計画などに対する不安の声が大きくなっており、関係者から改善を求める声が上がっている。

(要約)

( 200339 )  2024/08/10 16:13:16  
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大阪府の子ども招待事業で使用される大阪メトロ中央線(画像:高田泰) 

 

 2025年の大阪・関西万博に大阪府が府内の小中高生らを招待する事業で、専用列車が運行される構想が示された。だが、現場の教員や保護者らの不安が解消されたわけではない。 

 

【画像】マジ!? これが60年前の「新大阪駅」です(計10枚) 

 

 大阪市淀川区の人工島・夢洲(ゆめしま)を対岸の舞洲から双眼鏡で眺めると、万博会場に立つ多数の工事用クレーンと世界最大級の木造建築物「大屋根リング」が目に飛び込んでくる。大屋根リングはあと少しで1周約2kmがつながるところまで工事が進んだものの、海外パビリオンの予定地は工事に入っていない場所が少なくない。 

 

 大阪・関西万博は2025年4月の開幕まであと約8か月。2万人のボランティア公募に約5万6000人が応募する明るいニュースがあった一方で、 

 

・工事の遅れ 

・開催費の増加 

 

など暗い話題が続く。府民の盛り上がりもそれほど高まっていないように見える。 

 

 そんななか、大阪府が力を入れるのが府内の小中高生らを対象とする招待事業だ。しかし、2025年1月末に会場がある夢洲に延伸する大阪メトロ中央線の混雑が予想されるうえ、 

 

「観光バス不足」 

 

が深刻さを増すことから、学校現場などから不安の声が出ていた。 

 

森ノ宮駅の位置(画像:OpenStreetMap) 

 

 その解決案が、大阪府市と日本国際博覧会協会(万博協会)などが大阪市住之江区で開いた「日帰り教育旅行の輸送に関する検討会」で示された。大阪メトロが中央線に 

 

・専用列車 

・優先列車 

 

を運行するというものだ。 

 

 専用列車、優先列車とも大阪市中央区の森ノ宮駅にある普段、使用されていない下りホームを専用に利用、朝のラッシュが収まる午前9時半から10時40分ごろまでを出発時間にする。会場に隣接する場所に新設される夢洲駅へ下り線から向かえないため、いったん夢洲と逆方向になる東大阪市の長田駅へ進んだあと折り返す。 

 

 専用列車は森ノ宮駅から夢洲駅まで停車しない。所要時間は約50分。運行期間は開幕から夏休みまでを想定している。優先列車は一般の乗客に利用しないよう呼びかけたうえで、長田駅から夢洲駅まで各駅に停車する。駅までの移動は大阪メトロが学校から森ノ宮駅までバスで送迎する案が提示された。 

 

 大阪府教育庁は子ども招待事業でピーク時に1日 

 

「約1.4万人」 

 

の小中高生らが会場を訪れると見ているが、1日最大約1万人の輸送が可能になるという。大阪メトロは 

 

「9月をめどに輸送計画をまとめたい」 

 

と説明した。 

 

 

夢洲の位置(画像:OpenStreetMap) 

 

 招待事業は次代を担う子どもたちが最先端技術に触れ、夢や希望を感じてもらうことを目的に企画された。対象は府内在住で、満4~5歳の幼児、府内の小中高校に通う児童生徒、高校などに在学しない満15~17歳のいずれか。うち、府内の小中高校などに対しては、 

 

「校外学習」 

 

として府教育庁から案内している。 

 

 原則5年ごとに開かれる登録博覧会が大阪府で開催されるのは1970(昭和45)年の大阪万博以来。この間、インターネットの普及でありとあらゆる情報を手に入れられる時代に変わったが、万博というまたとない機会に子どもたちを無料招待するのは、おかしな事業ではない。 

 

 しかし、万博ムードが高まらずに入場券の前売りが低調ななか、会場内の建設現場で3月、メタンガスによる 

 

「爆発事故」 

 

が発生し、別の工区でもメタンガスが検出されたことが明らかになった。 

 

 さらに、府が5月末までの回答を求めて府内の小中高校などを対象に実施した来場意向調査に「希望しない」「不参加」の選択肢がなかった。このため、SNS上で 

 

「安全を置き去りにして動員?」 

「入場者目標達成のための踏み絵か」 

 

などと批判の声が上がった。交野市の山本景市長は 

 

・学校側の負担増 

・意向調査の不備 

 

を指摘し、 

 

「学校単位で行かなくてよい」 

 

との見解を表明した。豊中市の保護者13人は「万博校外学習を心配する親子の会」を組織して学校単位での招待事業に反対する署名運動を始めている。 

 

 全日本教職員組合は招待事業の中止を求める檀原毅也書記長名の声明を発表した。大阪府都市教育長協議会などは安全・安心の確保に不安があるとして改善を求める緊急要望書を府教育委員会の水野達朗教育長に提出している。 

 

大阪メトロ中央線の森ノ宮駅へ到着した列車(画像:高田泰) 

 

 大阪市のある小学校校長は校外学習の際、引率教員が持つ不安として、 

 

・学校から現地までの行き帰り 

・現地の状況確認 

 

を挙げた。行き帰りについては 

 

「専用列車の運行や森ノ宮駅までのバス送迎が実現すれば、不安がある程度緩和される」 

 

と一定の評価をしている。 

 

 だが、現地の状況確認は会場が開幕まで工事で立ち入れず、下見できない。校長は 

 

「通常なら事前に下見して食事や休憩場所、トイレの位置や広さなどを確認するが、万博協会が提供する会場の動画が下見の代わりになるとは思えない。教員の不安が解消できるようもっと知恵を絞ってほしい」 

 

と注文を付けた。 

 

 中央線は6両編成。定員は約800人だが、座席は 

 

「約200席」 

 

しかない。小学校低学年の利用が重なった場合、つり革に手が届かない児童が 

 

「50分も立ちっぱなし」 

 

になることが考えられる。豊中市の保護者は 

 

「対案を検討してもらえたのはありがたいが、報道されている内容を見る限りでは詰めが甘く、納得のいくものではない。特に50分の地下鉄移動は座席やトイレ、ホームの安全性など心配な部分がある」 

 

と不安を訴えた。 

 

 大阪・関西万博は悪いニュースばかりが続いたため、解決策を模索する大阪府市や万博協会の動きが後手に回ったように映る。開幕までまだ時間がある。スムーズな開催のためには、こうした不安の声に耳を傾け、ひとつひとつ解決していくしかない。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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