( 200809 ) 2024/08/12 01:06:31 0 00 宇宙ビジネスにおいて、日本の勝機はあるのでしょうか?(写真:shinnosuke0113/PIXTA)
近年、イーロン・マスク率いる「スペースX」による宇宙ビジネスや、日本でも民間企業による宇宙産業への参入が話題となっています。宇宙ビジネスにおいて、日本の勝機はあるのでしょうか? 日本は宇宙産業で世界をリードできるという堀江貴文氏の主張について、同氏の新著『ホリエモンのニッポン改造論』よりご紹介します。
■これからは「宇宙の民主化」が加速する
私はインターネットの民主化の過程を、つぶさに体験している。それは宇宙の民主化の洞察を深めることにもつながると思うので、ここでは、まずインターネットがいかに民主化してきたかについて話しておきたい。
私は、東京大学在学中の1996年、ホームページ制作などを手がける会社「オン・ザ・エッヂ」を起業した。ちょうど、Linux(オープンソースのコンピュータOS)が出てきた時期だった。
ちなみにLinuxの生みの親、リーナス・トーバルズは私と同じ世代だ。このLinuxのおかげで、Netscapeを作ったマーク・アンドリーセン、イーロン・マスク、Googleのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンなどの起業家が誕生した。
私が起業した動機は、「Linuxって、パソコンでできるじゃん」と思ったことにある。あるフィンランド人が、Linuxのマイクロカーネル(OSの中核部分の設計様式)を1人で作ったと知ったからだ。それで起業することにした。
後講釈になるが、これがインターネットの民主化が起きた瞬間だった。
つまり、LinuxというBSP(ボードサポートパッケージ)やオープンソースのOSのおかげで、誰でもパソコンでサーバーを作れるようになった。しかも、ライセンスフリーで、OSツールもタダで、である。パソコンを組み立てればサーバーを構築できる。
以前はサーバー1台につき100万円は下らなかったから、個人がWebサービスを立ち上げるのは難しかった。それがLinuxによって心臓部のソフトウェアがオープンソース化され、みんながタダで使えるようになったことで、従来あった障壁が取り払われた。これこそ民主化である。
このインターネットの民主化により、IT事業に参入する人が増えた。Linuxがなければ、GoogleもAmazonもなかっただろう。
私は、「民主化できない領域は産業としてスケールしない」と思っている。
宇宙も同じ。民主化しなければ一大産業にはなりえない。
では宇宙の民主化の要件とは何か。あと何があれば宇宙は民主化するのか。宇宙にとってのLinuxは何なのか。
それは、衛星を地上から宇宙に輸送する「ローンチ・ヴィークル」である。人工衛星を開発しても、宇宙に打ち上げることができなければ技術の実証も利用もできない。
現在、宇宙ビジネスのインフラとも言える輸送事業は変化しつつある。小型ロケットや相乗り打ち上げや再使用ロケットの登場で、少しずつ安価な選択肢が増えてきた。今後、打ち上げ頻度が10倍、100倍になれば、さらにコストは変化していくだろう。まさしく民主化の一歩手前の段階にあると言える。
スペースXがスターリンク衛星約5000基によるコンステレーション(衛星群)の構築を実現させたことは、その証の1つと言える。
従来の通信衛星コンステレーションによるサービスは、高いうえに、通信の遅延や圏外エリアがあった。しかしスターリンク衛星は、全世界でアクセス可能な高速インターネットを提供し、国内でもユーザーが出始めている。
これは、宇宙が初めて「事業」として成功した例と言える。
■日本が宇宙ビジネスで一歩抜きん出られる理由
戦後、技術立国で世界第2位の経済大国となった日本だが、その競争力が威力を発揮する分野が少なくなり始めて久しい。
近年の巨大トレンドである生成AIやWeb3の分野においても、アメリカや中国が莫大な投資をして力をつけているのを見ると、すっかり後れをとっていることは否めない。これから巻き返しをはかっても勝てる見込みは薄いだろうし、そもそも、日本が勝負すべきなのは、そこではないと私は考えている。
これから、日本がふたたび世界トップレベルに躍り出る希望のある分野は、宇宙なのだ。
宇宙開発分野なら、何かまったく新しいことにイチから挑戦するということではなく、もとからある日本の優位性をもって世界と戦えるのである。
そう言える理由は主に次の3点だ。
・伝統的な技術力がある 奈良の大仏は、奈良時代の752年4月に開眼供養が執り行われている。建造期間は9年だ。青銅で鋳造されたものに金メッキが施されているが、あれだけの大きさの大仏像が、あれほどの薄さで作られている例はほかに見当たらない。
製鉄技術についても、「たたら製鉄」は日本独自の製法である。鉄から鋼鉄を作り、特殊鋼を作り、工具を作り、部品を作り……つまり、鉄がなくては何も始まらない。その鉄を作る高炉は工業製品のサプライチェーンの基礎と言える。
この話が宇宙産業と何の関係があるのかと思ったかもしれないが、ロケットは、紛うかたなき「工業製品」だ。つまり、優れた製鉄技術がなければ、宇宙開発に不可欠なロケットも作れない。そこに、日本の伝統的な技術力の新たな活路があるというわけだ。
しかも、規制緩和が進んでいるとはいえ、衛星やロケットの開発分野は、そのまま武器製造技術につながりうるため、技術の輸出入は依然としてハードルが高い。したがって「部品の国内調達・国内組立て」が基本である。
その点でも、高い技術力と製造業で鳴らしてきた日本には大きなアドバンテージがある。
■島国であることの利点
・地の利がある 日本は島国であり、周囲に障壁がない。そのうえ、日本の東方・北方・南方には広大な海が広がっている。
周囲に障壁がないことはロケット打ち上げの必要条件だ。
また、衛星を積んだロケットを地球上の軌道に乗せるには、東向き、南向き、あるいは北向きに打ち上げる。打ち上げ後、ロケットが段階的に使用済みの部品を落下させながら飛んでも支障がない場所が必要だ。
ロケットを打ち上げた方向に、自国の市街地や他国の領土があったら危険すぎる。現に、陸続きで四方に他国の領土があるヨーロッパ諸国は、南米のフランス領ギアナにロケットを運んで打ち上げ実験をしている。それだけ余計に莫大なコストがかかっているわけだ。
つまり、「島国(周囲に障壁がない)」「東・南・北方は海」という日本の地理的条件にも、実は宇宙ビジネスにおける日本の優位性があるのだ。
私がファウンダーとなっているインターステラテクノロジズ(IST)も、こうした日本の地の利を生かし、北海道の南東地域の一角にある広尾郡大樹町に本社とロケット射場を構えている。
・規制が緩い 独自の人工衛星を活用したい一般企業は、宇宙開発企業に打ち上げを依頼している。現在のところ、その打ち上げビジネスは、スペースXをはじめとしたアメリカ企業が主に請け負っている状態だ。
しかし、そこでネックとなっているのが、アメリカ製のロケットにかけられているITAR(国際武器取引規則)だ。国家の安全保障に鑑み、武器や武器開発技術が敵対国に流出しないようにする規制法である。
そのため、アメリカの宇宙開発企業に協力してもらえない国々がある。協力してもらえるとしても膨大な書類作成が課されており、かなり面倒な手続きが必要となる。
一方、日本には、そうした規制がない。つまり、アメリカの宇宙開発企業の協力をあおぎたいけれどもITARのせいで叶わない国々からの依頼に、日本ならば応えることができるのだ。今後、こうした国を中心として、日本製ロケットの需要は高まっていくと考えられるのである。
■日本のものづくりは自動車からロケットへシフトする
また、人工衛星や人を宇宙に送る「宇宙輸送」の依頼も、今後、日本に舞い込むことになると考えられる。その背景はロシア‐ウクライナ戦争だ。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まるまでは、ロシアが宇宙輸送の2割を担っていた。ところが、ウクライナ侵攻後、対ロシア経済制裁が敷かれたことにより、各国はロシアに依頼できなくなった。
対ロシア経済制裁はまだしばらく続くだろう。となると、かつてロシアが占めていた2割のシェアが日本に回ってくる公算大というわけだ。現に日本の宇宙開発企業には、欧米を主とする衛星運用企業からの問い合わせが相次いでいるという。
世間では、自動車産業の衰退とともに、日本の製造業も終わっていくかに思われているかもしれない。それは違う。高い技術力を誇る日本のものづくりは続く。自動車からロケットへと「何を製造するのか」がシフトするだけなのだ。
堀江 貴文 :実業家
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