( 201785 )  2024/08/15 00:45:31  
00

川口アナウンサーがSNSで男性の体臭に関する発言をし、その結果として所属事務所から契約解除となった。

発言は男性蔑視だとして非難を浴びた。

最近では男性蔑視との指摘による炎上が増えており、アナウンサーの職能についても考えさせられている。

ジェンダーをめぐる表現の変化や言葉を扱う仕事への視線について考察されている。

(要約)

( 201787 )  2024/08/15 00:45:31  
00

以前よりXでジェンダーギャップについて、たびたび触れていた川口アナ(画像:本人の公式Xより) 

 

 フリーアナウンサーの女性が、SNSにおいて「男性の体臭」について発言したところ、非難を浴び、所属事務所を契約解除となった。 

 

【画像7枚】「男性を蔑視?」と批判された川口アナの投稿と、炎上後の謝罪文 

 

 筆者はネットメディア編集者として、これまで多くの炎上を見てきたが、ネットユーザーから「男女が逆だったら炎上必至だ」といった指摘があるように、ここ最近で「男性蔑視」との指摘による発火が増えてきたと感じる。加えて、世間から求められる「アナウンサーの職能」についても考えさせられる。 

 

 そこで今回は、経緯を振り返りつつ、ジェンダーをめぐる表現の変化や、「言葉」を扱う仕事への視線について考えてみよう。 

 

■ 臭う男性に苦言呈し、事務所の契約が解除に 

 

 話題になっているのは、フリーアナウンサーの川口ゆりさんによる投稿だ。川口さんは2024年8月8日、Xで「ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」と投稿し、シャワーを浴びたり、汗拭きシートや制汗剤を使用したりするよう呼びかけた。 

 

【画像7枚】「夏場の男性の匂いや…」は男性を蔑視?  川口アナの実際の投稿と、炎上後の謝罪文 

 

 このXポストは後に削除されたが、「男性の匂い」と性別を限定していたことで、「男性蔑視ではないか」との指摘が相次ぎ、炎上状態となった。 

 

 事態を重く見た所属事務所の「VOICE(ヴォイス)」は8月11日、前日の10日をもって、川口さんとの契約を解消したと発表。「異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為が認められたことから、当社はアナウンス事務所として、所属契約の維持は困難と判断し、やむなく契約解除通知をするに至りました」と説明した。 

 

 同日には、ビジネス研修事業を行う「青山プロダクション」も、提携講師であった川口さんとの所属契約解消を発表している。「ハラスメント防止研修講師として複数回依頼いたしましたが本人による異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為が認められ、契約の維持は困難と判断」したとのことだった。 

 

 契約解除を受け、川口さんも「言葉を扱う仕事をしている者として未熟でした」と謝罪しているが、「男性を蔑視したからには当然だ」「男女が逆であったら炎上必至なのに、なぜ許されると思ったのか」というようにSNSユーザーからのバッシングは絶えない。ではなぜ、ここまで燃え上がっているのか。 

 

 

■主語を「男性」と大きくしたのが最大の問題 

 

 体臭や口臭といった人体由来のものから、香水や柔軟剤のような人工的なものまで、あらゆるニオイによって迷惑を被る「スメルハラスメント(略称スメハラ)」は、ここ数年で一気に知名度を得た。 

 

 マスク着用が前提だった数年間を終え、「鼻」が開放感を得た昨今、なおのこと嗅覚に対する意識は敏感になっている。汗っかきな筆者も、周囲を不快にさせていないか、日々気にしている。 

 

 そうした背景から、このX投稿を見たとき、まず筆者は「少し言い回しにトゲはあるけど、こういう意見もあるよな」と感じた。しかし、主語を「男性」と大きくしたことには、懸念を覚えた。「この2文字があることで、大炎上してしまうだろう」と感じたのだ。 

 

 男性に対する冷やかしは、これまで「イジり」の一環として見なされがちだったが、ここ数年で一気に反応が厳しくなった。つい先日も、しまむら系列のベビー用品店「バースデイ」が、「パパは全然面倒みてくれない」などと前面に書かれた衣料品を販売して炎上し、販売中止に追い込まれた。 

 

関連記事:しまむら「パパ貶す服で大炎上」への強烈な違和感 「パパなら皮肉ってもいい」風潮は未だに存在?  

 

 これまで「男性なら下げてもいい」といった風潮があったこと自体に、個人的には違和感を覚えるのだが、いずれにせよ急激に、社会的なセンサーは敏感になっている。その背景には、これまで「女性蔑視」ばかりが問題視され、「男性蔑視」が軽視されていたと感じる人々の潜在的違和感が、多少なりともあるだろう。 

 

 そこへ来て、川口さんの場合は、以前よりXでジェンダーギャップについて、たびたび触れていた。とくに2022年8月23日の「北海道は政治、経済、教育においてジェンダーギャップ指数が全国最下位とのこと。。北海道の女性は逞しく強いと思ってたけど実際のリーダーは男性ばかり」といった投稿が注目されている。ジェンダー問題に興味を持ちつつ、今回の投稿をしたことにより、「合わせ技」で炎が燃えさかった。 

 

■契約解除は、会社としては仕方がない?  

 

 

 SNS上では、所属事務所の対応について、「契約解除はやり過ぎではないか」との指摘が見られる。筆者も当初はそう感じていたが、芸能事務所がブランディング商売であることや、ビジネス研修でマナーを教える立場だと考えると、妥当な判断だと感じる。 

 

 実際にVOICEの契約解消報告では、「言葉は誰かを傷つけるためにあるものではなく、勇気づけたり愛を語るためにあるものと考えており、言葉を扱う仕事に携わる者としてはあってはならず、大変心苦しく考えております」と語られていた。 

 

 こうした企業理念は、経営上の柱となる。事務所の考え方と異なる発言を放置していたとなれば、会社もしくは他の所属タレントにも、火の粉が降りかかる恐れがある。同社にとって「言葉」は最大の商売道具だ。そこでの不祥事となれば、「一発アウト」もやむなしだと感じてしまう。 

 

 今回の事案は、アナウンサーに対する「世間の認識」を再確認する出来事だった。筆者は常日頃から、アナウンサーが個性を出すことに違和感を持つ視聴者が、一定数いると感じていた。そこには「淡々と時代を伝えること」が、その使命だとの考え方がある。 

 

 とくに放送局に所属する、いわゆる「局アナ」は、パッケージングされた自社番組以外で、「自分の色」を出すことと相性が悪い。この間も、体調不良で休養中の局アナが、パリ五輪を観戦してバッシングを浴びた。 

 

 インスタグラムの投稿で「会社に報告している」と書き添えていたにもかかわらず、炎上してしまった理由には、やはり「アナウンサーは淡々と原稿を読め」といった先入観があるのではないか。 

 

 こういった視線は、アナウンサーのみならず、私も含めたメディア業界全体に対して向けられている。新聞記者のSNSが失言で炎上するのも、基本的には似たような構図だ。世間はファクト(事実)を伝えてほしいのに、一部の記者はそこに個人のエモーション(感情)を混ぜ込んで発信したくなる。 

 

 

 両者をうまく見分けられる受け手は「知りたいのはそれじゃない」と断じることができるが、違いを認識できない人は、記者の感情ベースで書かれた文面も「事実の一環」だと捉えてしまう。そうして記者個人の発言が「社論」や「社風」だと感じられ、結果的に媒体社の企業体質まで問われることになってしまう。 

 

■「わざわざ言う必要があるのか」という皮肉な過去投稿 

 

 とはいえ、「アナウンサーや記者は個性を殺せ」と言っているのではない。それが持ち味になる場所で発揮すればいいのだ。 

 

 たとえばエース級の局アナは、自社制作の看板番組内で、個性を発揮していることが多い。ただ、それは個人ではなく、集団戦である。スタッフとの共同作業で、まさに「社風」をつくっていく。その観点に立つと、このところ人気アナが役員待遇に昇格する理由もよくわかる気がする。 

 

 あらゆる発言には、それに適した場がある。そして場合によっては、「言わないこと」も重要だ。ことメディアにおいては、ファクトが伝えられないのは問題だが、エモーションは必須条件ではない。 

 

 「『この発言で傷つく人はいないだろうか』という想像力を持ちながらも、自分の発言に責任を持てる(言葉を選べる)社会的な人間でありたい。思うことや感じることは自由でも、それをここでわざわざ言う必要があるのか、にはいつだって慎重になりたいなあ」 

 

 これは、とある人物によるSNS投稿だ。感じたことを、わざわざ言葉にする必要があるか。VOICEの発表文とも重なるような、言葉を重んじる人ゆえの至言に思えるが、この文面を投稿したのは、2021年10月3日の川口ゆりさんだった。 

 

 時が変われば、場所が変われば、考えも変わっていく。「約3年前の発言に責任を持てているか」と問われれば、筆者も変節している可能性がある。しかしながら、アーカイブが積み上げられていくSNS社会においては、いつ過去発言が掘り起こされてもおかしくない。 

 

 その時々の発言のみならず、「未来の誰かを傷つけないか」「未来の自分が裏切らないか」にまで配慮することが、今を生き抜く上では重要なスキルなのだろう。 

 

■その他の画像 

 

城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー 

 

 

 
 

IMAGE