( 202012 ) 2024/08/15 17:13:37 0 00 宅急便の置き配が利用可能になり、客の選択肢は広がっている(写真:ヤマト運輸)
今年の夏も連日の酷暑が続いている。街中を駆ける配達ドライバーにとっては厳しい季節だ。彼らの負担を軽減するためにも、利用者側はぜひとも再配達を避ける工夫をしたいところだ。
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ヤマト運輸では6月から宅急便の「置き配」が利用できるようになった。これまでもEC事業者向けサービス「EAZY」(ECで購入する小型荷物が中心)で置き配に対応してきた。そのほか、自宅の外でもヤマト営業所やコンビニ、宅配便ロッカー「PUDOステーション」など、さまざまな受取場所を拡大してきた。
置き配は利用者、ドライバーとも手間がかからず、着実に受け取れる方法の一つだが、なぜ今年からヤマトはサービス開始に至ったのか。
■置き配の認知は広がった
ヤマトの置き配で指定できるのは、マンションの受け付けや宅配ボックス、玄関ドア前、ガスメーターボックス、物置、車庫、自転車のかごなど。5600万人が登録する会員向けサービス「クロネコメンバーズ」で受取場所を指定する仕組みとなっている。
今年になって置き配を開始した背景には、外出が増えて対面で受け取れないケースが増えてきたことがある。アマゾンなどの他社サービスも含めて置き配に対する認知度、理解度が高まっていることもある。
コンビニや外部ロッカーの利用も増えているが、駅の反対側にあったり、大通りを渡らなければならないなど、誰もが利用しやすい場所にあるわけではない。在宅でも、育児などで手が離せない場合もある。
6月の開始以降、置き配は順調に広がっている。ヤマト運輸のサービス商品部個人輸送課長の山﨑遥氏は「件数などは公表していないが、利用は増えている」と話す。実際、セールスドライバーからも置き配は増えているとの声は多い。「仕事で夜までに帰れないからと、置き配を指定する方が多い」(ドライバー)。
ヤマトが置き配を導入したいちばんの狙いは「多くの受け取り方法の中から選択できるようにするため」(山﨑氏)。客に置き配で受け取ってほしいわけでもなく、一度で届けることを重視しているわけではないという。
とはいえ、ドライバーの負担軽減につながるかは気になるところ。荷物を受け取れなかった客の中には、再配達に罪悪感を持つ人もいる。ドライバー側も「もう少し早く来たら、届けられたかもしれない」となるケースも少なくない。今のところは置き配に対して好意的な声が多く、着実に届けやすくなった点はメリットと言えるだろう。
■導入後に浮き彫りとなった改善点
ヤマトは今後、サービスの改善を進めていく方針だ。現在、利用者からは「複数の置き場所を指定したい」といった声が寄せられている。戸建てで玄関先のボックスを指定しても、荷物が満杯だと自転車のかごに置くといった対応ができず再配達になることがある。
またオートロックのマンションで玄関前を指定した場合、基本的には在宅していなければならない。ヤマトのドライバーは「101号室の客にオートロックを開けてもらって配達した場合、102号室など別の部屋の客にそのまま(エントランスからインターホンを鳴らさず)届けてはならない」というルールがあるからだ。
とはいえ現場のドライバーは、独自に工夫して置き配を進めているようだ。「オートロックのマンションでは、在宅の方に開けてもらって入れれば、ほかの部屋は不在でも置き配できるし、管理人さんにお願いして開けてもらうこともありうる」(都内のドライバー)。
ヤマトは法人と契約し、マンションのオートロックを解除して配達する仕組みも進めているが、オートロックのマンションで置き配の利便性を高めることは、重要な課題になりそうだ。
始まったばかりのサービスゆえに、現場には悩みもある。利用者が荷物の中身をよく確認せずに置き配を指定してしまうケースも多いのだ。
今の時期は桃などのフルーツ、食品の荷物も多い。夏場の気温で荷物の中身が傷んでしまうケースもあるようだ。ある営業所スタッフは「宅配ボックス内でスイカが破裂してしまったという事案があった。ドライバーも客に連絡して確認するが、どうしても置き配と言われることがある」と対応に苦慮する。
■佐川も置き配サービスに追随
今後は置き配の周知を進めるべく、SNSやクロネコメンバーズの会員サイトなどで情報を発信していく。すでにテレビやYouTubeのCMでもアピールしている。「盗難などで不安がる方もいる。時間帯指定もして帰宅時間に合わせれば、荷物を置く時間を短くできる。具体的な利用シーンを示して、便利だと思っていただきたい」(ヤマト運輸個人輸送課の工藤洋平氏)。
近年は業界の人手不足、宅配ドライバーの苦労が注目され、政府も「物流革新に向けた政策パッケージ」で再配達削減の取り組みを掲げる。9月には佐川急便も追随し、宅配便の置き配サービスを開始する予定だ。
宅配の課題は消費者に密接にかかわる問題だ。荷物の中身には注意しつつ、各社の置き配サービスを積極的に利用していくべきだろう。
田邉 佳介 :東洋経済 記者
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