( 202165 )  2024/08/16 02:05:51  
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日本を震源地とする株価の大暴落が落ち着きつつある。

株価下落は為替市場の変動から金融市場全体に影響し、金融政策や生活にも大きな影響を与える。

過去のプラザ合意やバブル経済からも金融市場の変動が生活に及ぼす影響が浮かび上がる。

アルゴリズム売買も今回の暴落の原因とされるが、市場の混乱は経済全体に波及する可能性もあり、金融危機は連鎖し増幅することも考慮すべき。

金融市場の暴落が経済に与える影響も大きく、個人投資家の資産減少など、経済全体に影響を及ぼす要因もある。

(要約)

( 202167 )  2024/08/16 02:05:52  
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(撮影:今井康一) 

 

 日本を震源地とする株価大暴落が、やや落ち着きを取り戻しつつある。日銀による利上げがサプライズになったことに加えて、8月2日深夜に発表されたアメリカの雇用統計が経済の先行きに懸念材料となり、ドル円の為替市場は大きく円高に振れて、8月5日の日本株は大きく下落した。日経平均株価は、1987年のブラックマンデーを超える史上第1位の下落幅となってしまった。 

 

【一覧で見る】2024年8月5日の日経平均株価の大暴落、下落率は歴代何位だった? 

 

 株式市場の大暴落は、それを誘発した為替相場の大きな変動だけにとどまらず、金価格や暗号資産といった他の金融マーケットの動きにも大きく関係した。株価暴落の影響の大きさを改めて認識した人も多かったのではないだろうか。そこで考えてみたいのが、金融市場、とりわけ株式市場の大暴落がどんな影響をもたらすのか、我々の生活にどんな影響を与えるのか考えてみたい。 

 

■金融政策の影響がもたらす経済の歪み?  

 

 為替市場が大きく変動をすることによって、株価や金利が大きく動くことは、これまでの歴史でも明らかだ。 

 

 たとえば、日本などの蔵相5カ国が疲弊していたアメリカ経済を救済する目的で意図的にドル安に誘致した、1985年の「プラザ合意」では、それまで「1ドル=250円」程度だったのが、一気に「1ドル=120円」程度にまで円高が進行した。逆に言えばドルが暴落したわけだが、日本ではその影響として1980年代後半の「バブル経済」となって現れ、日本経済は大きな混乱をきたした。 

 

 急激な円高によって輸出産業が大きな打撃を受け、日本は未曽有の不況に陥るだろうと判断した日銀や大蔵省(当時)が、金利を大きく引き下げて放置したために、株価や不動産価格が急激に上昇。日本は経験したことのないバブル景気を迎えてしまった。 

 

 日本のバブルはドルの暴落によって生まれた、といっても過言ではないだろう。その後、バブル崩壊によって日本は30年以上も苦しむことになったわけだが、金融マーケットの大きな変動は、その国の金融政策や我々の生活にも大きな影響を与えることがわかる。 

 

 

 今回の株価大暴落でも、原因の一端が日銀の植田総裁の「金利は継続してあげていく」といった発言によるものであると指摘されているが、今回の株価大暴落の原因となり、日本の金利引き上げが今後遅れてしまい、再びすさまじいバブル経済を招くような事態も考えられる。日銀が、今後も政府やマーケット関係者、マスコミの影響を受けずに、データに基づいた適正な政策判断をすることを祈るばかりだ。 

 

■アルゴリズムや高頻度売買による大暴落?  

 

 そもそも今回の大暴落の原因は、円キャリートレードの解消による円高が引き金になったという説もあるが、現在の相場はいわゆるコンピューターによるアルゴリズム売買や高頻度売買(ハイフリークエンシー・トレード)と呼ばれる超高速の自動売買プログラムが、その引き金を引いた可能性がある。 

 

 人間による売買に比べて、コンピューターによる高速売買は市場のボラティリティー(変動幅)を「増幅」させる傾向が高い。わずかな材料でも、プログラムが売買材料と判断した段階で大きな変動をもたらしてしまうわけだ。そういう意味では、今回の株価大暴落は大きな転換点となる材料が見当たらないにもかかわらず、大きく市場が動いた。アルゴリズムや高頻度売買が価格変動を増幅させたと考えるのが自然だろう。 

 

 1987年10月19日に起きた「ブラックマンデー」のような、瞬間的なものだと考えたほうがいいのかもしれない。とは言え、これだけ株価が大きく動くと様々な影響が出る。市場価格の過度な変動は、必ずどこかに歪みをもたらし、後になって表面化してくる。 

 

 とはいえ、その影響が事前にわかれば混乱はないわけで、市場変動の歪みがどこに表れるかは注視していくしかない。具体的には、「金融市場自体の変化」と「市場以外の経済全体に与える影響」に分けて考えたほうがいいかもしれない。まずは、金融市場内部にもたらすさまざまな影響について考えてみよう。 

 

 

 ①金融危機は連鎖する 

 

 株価が大きく下落してもすぐに戻ってしまえば、影響は少ないだろうと思いがちだが、金融市場はそんな単純なものではない。たとえば、オプション取引や先物取引といった「差金決済」の投資家が大きな影響を受ける。FX口座で為替の売買をしている人も、今回の急激な円高で、円売りに賭けていた投資家の中には、強制的に取引を終了させられる「ロスカット」を経験した人もいるはずだ。 

 

 ロスカットされれば、その場で損失が確定されるため、損失の補填に追われることになる。株式市場でも、個人投資家が好むグロース市場などは「信用取引」の追証に追われた人も少なくなかったはずだ。変動幅が異常に大きくなった場合には、大きな損失を出す投資家もいるということだ。 

 

 とりわけ、今回のような大きな変動幅では、ヘッジファンドなどの機関投資家が大きなダメージを受けたはずだ。経営破綻につながる大きな損失を出す可能性もある。リーマンショックのきっかけも、アメリカ大手の投資銀行「ベアスターンズ」の子会社だったヘッジファンドの破綻が前兆となって現れた。特定のヘッジファンドが、やがて市場全体の危機に連鎖することがある。 

 

■他の金融マーケットの価格にも影響 

 

 さらに注目したいのは、特定のマーケットの大暴落は他の市場にも波及するということだ。今回の日本株の大暴落では、仮にこのまま短期間で終了したとしても、明らかに他の金融マーケットの価格にも影響を及ぼした。株価暴落の原因の1つとなった為替市場はともかく、株式市場が下がると他の金融マーケットの価格もつられて下落するという図式となった。 

 

 たとえば、金相場やプラチナ相場といったコモディティ価格も下落し、さらに景気が低迷し需要が減るだろうとの見込みから原油価格までもが大きく下落。ビットコインなどの暗号資産も大きく乱高下。唯一、債券相場は金利が下がるということで影響は受けなかった。 

 

 1997年のアジア通貨危機でもタイバーツや韓国のウォンが暴落し、影響される形で翌年、ロシアのルーブルが暴落し、通貨危機に発展している。最終的に、アメリカの最先端のヘッジファンドだった「LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)」の経営破綻につながり、中央銀行である「FRB(連邦準備制度理事会)」が、ヘッジファンドを救済する事態に陥っている。 

 

 

 ②金融危機は増幅する 

 

 そして、もう1つ忘れてならないのは、市場の混乱は危機を増幅させるということだ。今回の日経平均株価の暴落も、本来であれば日本銀行の植田総裁の金利引き上げ発言だけだったはずだが、その後、発表されたアメリカの雇用統計の悪化が、景気悪化懸念につながり、アメリカの金利は大きく下落する、という連想となり、金利引き上げの日本との金利差は大きく縮小し、円が想定外に買われてしまった。円高の進行が日本経済の輸出産業の業績悪化を招くとの予想から、日経平均株価は史上最悪の暴落を招いてしまった。 

 

 おそらく、日銀の利上げと雇用統計発表の間隔がもっとあいていれば、こんな形にはならなかったはずだし、仮に株価が下落しても、ここまで大きなものにはならなかったかもしれない。そういう意味でも、市場暴落などの危機は増幅される、と考えていいだろう。 

 

 8月5日の大暴落以降、翌日には史上最大の上げ幅になるなど、なんとなく今回の危機は終わったという楽観ムードも漂っている。しかし、さらなる株価下落が連鎖して、増幅されて襲ってくる可能性はまだなくなっていない。 

 

■金融相場の暴落は、経済全体に影響する?  

 

 一方、株式市場の暴落は金融市場だけではなく、経済全体にも大きな影響をもたらすことを忘れてはならない。1929年のアメリカ大恐慌では、第2次世界大戦が終わるまでアメリカの景気を回復できなかった。株式市場は、資本主義経済にとってそれだけ大きな意味を持っていると考えるべきだ。具体的には次のような影響が考えられる。 

 

 ①個人投資家の資産が減少し、個人消費に影響が出る 

 

 アメリカの個人投資家ほどではないが、日本でも株価暴落の影響を受ける。自分自身の資産が減少することで、消費行動に陰りが出てくるかもしれない。ただ、日本の場合は、今回の大暴落によって超円安に歯止めがかかった面があり、輸入物価が落ち着くためにインフレが一服し、消費行動はやや回復するかもしれない。とはいえ、高額商品の売れ行きには大きな影響が出る恐れがある。 

 

 ②金融政策が修正されて歪められる可能性がある 

 

 冒頭でも述べたが、金融市場の大きな変動は、政府の金融政策などの変更をもたらす可能性が出てくる。日銀は2回目の利上げを発表した途端に株価が大暴落したこともあり、今後利上げを打ち出しづらくなってくる。 

 

 

 
 

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