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阪神タイガースのファーム施設が兵庫県内で新しく作られることに関する記事。

タイガースは2025年に移転し、新しい施設はメインスタジアムなどを備えた大規模なボールパークとして整備される。

阪急阪神HDも業績が好調であり、新施設は環境に配慮した運営が行われる。

ファンからの支持も高まり、施設は収益源として活用される考え。

プロ野球球団ではファーム施設を収益化する取り組みが増えており、施設工事は熊谷組が担当。

各社の熱い思いが込められた新施設に期待が高まっている。

(要約)

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(記者撮影) 

 

 「タイガースは儲かっているからなあ。お金のあるうちに移転しようと思たんやろうなあ」 

 

【写真で見る】ボールパークの全体像や工事内覧会の様子。参加者に好評だった「タイガース仕様」のヘルットも 

 

 そうつぶやいたのは関西私鉄グループのベテラン社員。「移転」するのはプロ野球球団・阪神タイガースが兵庫県内に構えるファーム(2軍)施設だ。現在は西宮市鳴尾浜にある施設を、2025年3月に尼崎市小田南公園へ移す。 

 

 ファームの本拠地として、メインスタジアムだけでなく、練習用の小さなグラウンドや室内練習場、選手寮・クラブハウスを新設する。加えて、市民球場や市民がくつろげる公園も一体的に整備することにより、「ボールパーク化」する。総工費は145億円に上る。 

 

【写真】ボールパークの全体像や工事の内覧会の様子。参加者に好評だったタイガース仕様のヘルメットも 

 タイガースは新施設を「ゼロ・カーボン・ベースボールパーク」として打ち出す。太陽光発電・蓄電池の導入や廃棄物発電の活用による脱炭素化、ペットボトル・プラスチックカップの回収・リサイクル、そして雨水・井水の活用など環境に配慮した運営を行う。 

 

■チーム同様に阪急阪神HDも業績好調 

 

 一般的に、1軍球場に比べて地味になりがちなファームの施設を環境配慮型の巨大ボールパークとして運営することは珍しい。それを実現できるのは、タイガースが全国区の人気球団というだけではなく、1軍の成績が足元で好調なことが挙げられる。 

 

 昨年は岡田彰布氏が15年ぶりに監督就任。復帰1年目にしていきなり38年ぶりの日本一に輝いた。今年のペナントレースも徐々に調子を上げ、現在は首位争いの一角を占めている。 

 

 チームが好調なこともあり、もともと熱狂的と言われるファンの応援姿勢もヒートアップしている。「甲子園球場でのタイガース戦チケットを予約するのは、今はなかなか難しい」(冒頭の関西私鉄グループ社員)。 

 

 タイガースの親会社である阪急阪神ホールディングス(HD)の業績も好調だ。チームの成績は阪神電車の乗客数や、阪神電鉄の運営する甲子園球場の入場者数などに大きな影響を与える。阪急阪神HDの業績をも左右する。 

 

 

 2023年度の営業利益は、前年度比18%増の1056億円という数字をたたき出した。球場の周辺などで販売される選手・応援関連のグッズも、「足元の売れ行きは当初の想定以上」(阪急阪神HDの広報IR担当者)という。 

 

 2024年度も、現時点ではタイガースの優勝特需がないとの前提ながら、前年度と同水準の営業利益を見込む。 

 

 現在、タイガースは甲子園球場の銀傘をアルプススタンドまで拡張する計画も公表している(2028年3月完成予定)。「儲かっているから、1軍や2軍の球場を整備・拡張する」という関西私鉄グループ関係者の指摘は、うなずける側面がある。 

 

 新ファーム施設は、従来の施設から大幅に機能がアップする。メインスタジアムは鳴尾浜球場の7倍以上となる3600席を設置。球場の広さ、向いている方向は甲子園球場とまったく同じにする。グラウンドも外野には天然芝を張り、内野には黒土を盛る。この仕様も甲子園球場と同じだ。 

 

■甲子園球場が2個入る大きさ 

 

 室内練習場にいたっては、甲子園球場に隣接する1軍選手が使用するものよりも1.5倍の大きさとなる。選手寮・クラブハウスには、トレーニング施設や流水プールのあるリハビリ施設も配置する。 

 

 1つひとつの施設が巨大化、グレードアップするわけだ。その大きさは、阪神タイガース球場施設工事所の遠藤孝治工事所長(熊谷組)によると、「ボールパーク全体では甲子園球場が2個入るほど」になる。 

 

 ボールパークは、早くもファンから注目を集めている。 

 

 8月6日に行われた工事の内覧会(日本建設業連合会が主催する親子向けイベント「けんせつ探検隊」として実施)は、抽選で選ばれた30名の親子が出席。ほぼ全員がタイガースファンだ。内覧会の受付開始時間にはすでに7割近くの親子が会場入りするほどの熱の入りようだった。 

 

 「おもしろーい」「広いなあ」。メインスタジアムなどの工事の様子を見て回った子どもたちからは、ときおり歓声が上がった。 

 

 内覧後の質疑応答では、「工事費用はいくらぐらい?」「工事現場で気を遣っていることは何?」といった質問を工事関係者に矢継ぎ早に投げかけた。中には、「ゼロカーボンって何のこと?」「どうやってゼロにするの?」と、関係者が回答に戸惑うような本質的な質問も出た。 

 

 タイガースがファーム施設をグレードアップする背景には、ボールパークを収益源のひとつにしたいとの思惑がある。阪神阪急HDの広報IR担当者は率直に語る。「(新球場は)もちろん収益化を意識している」。 

 

 

■ファーム施設を「コンテンツ」に 

 

 プロ野球球団では今や、ファーム施設をコンテンツとして収益化しているケースが多い。 

 

 福岡ソフトバンクホークスは、2016年にファームの本拠地を「HAWKSベースボールパーク筑後」(福岡県筑後市)に移した。ボールパーク内には2つの球場に室内練習場や寮・クラブハウスを備える。オフィシャルグッズストアや飲食店もある。 

 

 メインスタジアムは約3000席。ファームの公式戦で入場料(内野指定席1400円など)を徴収しているにもかかわらず、多くの熱心なファンが詰めかけている。 

 

 一方、タイガースの現在の鳴尾浜球場は500席ほどしかない狭い球場で、入場料は基本的に無料だ。1994年の竣工で、設備の老朽化も目立っていた。最寄り駅から徒歩で20分ほどかかるなどアクセスも不便だった。 

 

 その点、新ボールパークは最寄りの阪神電鉄大物駅から徒歩5分ほどの好立地。移転と同時に、入場料の有料化を企図する。 

 

 「お客様にきちんとしたサービスを提供できるような施設にしていかなければならない」(阪急阪神HDの広報IR担当者)としており、メインスタジアムには物販・飲食店も整備されそうだ。そこで得た収益は、選手の練習環境を維持・再整備する費用に充当する算段だ。 

 

■プロ球団の施設の受注がかなった熊谷組 

 

 新ボールパークの工事を請け負ったのは老舗ゼネコンの熊谷組だ。スポーツ施設では、陸上やラグビー場、そして地方の市民球場で実績があるだけで、プロ野球球団の施設を請け負うのは初のケースとなる。 

 

 「12球団しかないプロ野球球団が球場を建て替えることは少なく、めぐりあえない(受注の機会がない)もの。(今回は)なかなかないチャンス」と、熊谷組の遠藤工事所長は特別な工事であることを強調する。 

 

 もともと、熊谷組は球技への思い入れが深い社員が多かった。1990年代前半にバスケットボール部や野球部は休部となったが、バスケ部は実業団リーグの名門だった。野球部には元プロ野球選手のパンチ佐藤氏が在籍していたことや、都市対抗野球で優勝した実績があることでも知られる。 

 

 実は、新ボールパークの受注を最終承認した櫻野泰則会長(当時社長)は、京都大学の野球部の出身。熊谷組には一般社員として入社したが、野球部に入って投手を名乗り出たほどの野球好きだ(ただ練習中に全力で投げていたところ、キャッチャーから「そろそろウオーミングアップは終わりな」と言われ高い壁を感じた、とのエピソードがある)。 

 

 櫻野会長は「東京ドームの看板に、熊谷組の広告を出したい。出せないかな」と周囲につぶやいていたこともある。球場施設の受注への思いは強く、もともと阪急阪神HDとは鉄道関連工事などで取引があることもあり、今回の受注につながったようだ。 

 

 新ファーム施設のメインスタジアムには、甲子園球場と同じく、海からの「浜風」が吹き付けるという。タイガース球団や阪急阪神HD、そして熊谷組といった各社の熱い想いを乗せた新ボールパーク。ファンに愛される施設となるか。 

 

梅咲 恵司 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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