( 202352 ) 2024/08/16 16:59:47 0 00 記者会見を開き、自民党総裁選への不出馬を表明する岸田首相=2024年8月14日、首相官邸
岸田文雄首相が、8月14日、9月の自民党総裁選に出馬しない考えを表明した。「新しい資本主義」や「資産運用立国」を掲げてデフレ経済からの完全脱却をめざしたものの、実現に必要な物価高を上回る賃上げは定着の途上にある。経済の専門家は次の政権にどんな政策を求めるのか。
【写真】金融市場を「バブル状態」にした「張本人」はこの人たち
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■岸田政権で株価は上昇基調だったが
岸田首相は14日の会見で、経済や安全保障などの分野で「大きな成果を上げることができた」と強調した。
岸田政権のもと、株価は上昇基調をたどってきた。首相が就任した2021年10月4日の日経平均株価の終値は2万8444円89銭で、総裁選の不出馬を表明した今年8月14日の3万6442円43銭。この間の上昇率は28.1%に達する。
8月5日には過去最大の下落幅を記録したものの、今年はバブル崩壊後になかなか上抜けなかった「史上最高値」を相次ぎ更新した。
りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフエコノミストは、「長年積み残されてきた課題を片づけた点は大きい」と評価する。
「うまくいっていないものもありますが、少額投資非課税制度(NISA)の拡充や東京証券取引所による上場企業のガバナンス(統治体制)改革を後押しするなど、非常に効いているものもある。市場のムードは大きく変わりました」
今年は第2次安倍晋三政権の発足に合わせて導入した異次元緩和からの転換も実現した。日本銀行は3月、マイナス金利政策を解除し、7月には追加利上げを決めた。
■国民の生活実感は厳しいまま
ただし、株価は値上がりしても、国民の生活実感は厳しいままとの指摘がある。賃上げ幅は物価の値上がりに十分追いついておらず、家計の財布のヒモはなかなか緩まない。
グローバル・エコノミストの斎藤満さんは「岸田政権の経済対策は一貫性がなく、ちぐはぐなものばかり」と批判する。
「きちんと財源を確保しないまま、防衛費の増額や少子化対策といった巨額の予算が必要な対策を打ち出す一方で、物価高対策と称して定額減税や、電気代やガス代の補助金の延長・再開を繰り返すなど、場当たり的な印象が強い。選挙や支持率の向上を狙った姿勢が透けて見えます」
■株価値上がりで得をするのは富裕層
特に問題なのは、「金融市場や産業界の顔色ばかりをうかがっている」点だと強調する。
「株価が値上がりして得をするのは金融資産を多く持つ富裕層が中心です。緩和策で企業の金利負担は和らぎましたが、国民の金利収入を奪ってしまった。財政の規律も緩み、特定の産業に向けたバラマキ政策も目立つ。低金利のもとで進んだ円安は輸出企業にとってメリットになりますが、輸入物価の値上がりを通じて国内の物価が上昇します。つまり、企業を潤すために国民にしわ寄せがいく構図です」
その意味で、日銀の異次元緩和策からの転換は評価できるという。
■バブル状態にした張本人たち
ただ、7月の追加利上げ後には株価が乱高下した。これを受けて、衆院財務金融委員会と参院財政金融委員会は8月23日に閉会中審査を開き、参考人として日銀の植田和男総裁の出席を要請することを決めた。
斎藤さんは続ける。
「緩和策の修正に踏み切った植田総裁は、参考人として呼ばれる筋合いはないはず。本来、呼ばれるべきは、黒田東彦前総裁なり安倍元首相なり、緩和策によって金融市場をバブル状態にした張本人たちでしょう。植田総裁を呼ぶということは、今の政権や与党が金融市場にばかり目を向けていることの表れと言っていい」
岸田氏の不出馬表明を受けて、総裁選の立候補者が取りざたされるが、混戦も予想される。斎藤さんは「新しいリーダーには、少なくても、これまでの金融市場や産業界重視の路線から脱却し、国民の生活のことを考えた経済政策を打ち出せる人が必要」と訴えている。
(AERA dot.編集部 池田正史)
池田正史
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