( 202665 )  2024/08/17 16:47:06  
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8月16日、日経平均株価は3万8000円台を回復した。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏は、日本の利上げとアメリカのマクロ指標悪化による景気後退懸念が大暴落の要因であるとし、暴落前の水準にほぼ戻ったと述べた。

将来の株式市場の動向について、緊張が続く総裁選や米国大統領選挙、地政学リスクを指摘した。

ユルマズ氏は、長期的には日本株の上昇を予測し、外部要因(米中対立)や内部要因(企業の経営効率改善)を挙げた。

エミン氏は、中長期的には半導体・医薬・防衛・通信・環境関連のセクターに注目し、中小型株は投資期間があれば検討する価値があると述べた。

(要約)

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8月16日、日経平均株価は3万8000円台を回復した(写真:共同通信社) 

 

 8月初旬に大暴落した日経平均株価は、8月16日の終値で3万8000円台を回復しました。国内では岸田首相が自民党総裁選不出馬を表明、米国では大統領選でハリス氏とトランプ氏の激戦が予想されているなか、今後の株式市場はどう動くのか。エコノミストでグローバルストラテジストのエミン・ユルマズ氏に今後の見通しを聞きました。 

 

【グラフ】日経平均株価は8月に入ってからの下落分をほぼ取り戻した 

 

 (河端 里咲:フリーランス記者) 

 

 ※インタビューは8月13日 

 

 ――8月初旬に日経平均株価は大暴落しましたが、足元の動きをどう見ていますか。 

 

 エミン・ユルマズ氏:今回の大暴落は、日本の利上げとアメリカのマクロ指標悪化に伴う景気後退懸念がきっかけでした。それに伴いアメリカの利下げ期待が高まったことで、円売りポジションが急速に巻き戻され相場がパニックになったことが背景にあります。 

 

 ただ8月13日時点の上昇で暴落前の水準にほぼ回復しており、一旦落ち着いてきたと見ています。 

 

 ――日経平均株価は7月中旬に4万2000円の大台に乗る史上最高値を記録していました。再び高値に向かって上昇していくのでしょうか。 

 

 エミン氏:そう簡単に4万2000円台に行くとは思いません。今回のような(価格変動の大きい)ボラティリティイベントが起きると、3万5000円~3万8000円あたりを推移する頭が重い展開が続くと見ています。 

 

 そして秋に向かって相場は荒れてきて、秋以降また大きな調整があると見ています。ただ来年の2月頃には底打ちして、そこからまた上昇していく展開になるのではないかと思います。 

 

 ――秋に向かい相場が荒れる要因は。 

 

■ 秋に再び相場が荒れる理由とは 

 

 エミン氏:日本の総裁選やアメリカの大統領選挙、それに加えて地政学リスクがたくさんあります。 

 

 ウクライナはロシア国土への越境攻撃を始めたほか、イスラエルとパレスチナの動向にも全く改善がなく、緊迫した状況が続いています。今回の一時的なパニック相場は終わりましたが、秋以降また一波乱があると見ています。 

 

 ――かねて「日経平均株価が2025年に5万円、2050年には30万円」とおっしゃっていましたが、中長期での見通しは変わりませんか。 

 

 エミン氏:今回の大暴落を受けても、私の中長期の見通しは変わりません。遅くとも2026年前半に日経平均は「5万円」に到達すると思います。 

 

 ――中長期で日本株が上昇すると予測する背景を教えてください。 

 

 エミン氏:日本株が上昇する要因は、外部要因と内部要因の2つあります。 

 

 1つ目の外部要因について。私たちは今、米中新冷戦という冷戦の時代に入っています。これは日本に追い風となる地政学の状況です。 

 

 アメリカ経済と中国経済がデカップリング(経済分断)する中で、日本にサプライチェーンが戻ってくると見ています。特に半導体といったハイテクセクターは日本に集まってくるでしょう。それに伴い中国から逃げたグローバル資本が直接投資、株式投資の両面で日本に集まってくると思います。 

 

 ――内部要因はなんでしょうか?  

 

 

■ 日本株がこれから上昇する内部要因とは?  

 

 2つ目の内部要因は、日本企業の経営効率の改善です。ここ10年、日本企業のガバナンスや経営構造が大きく改善されています。政府や東証による働きかけに加え、経営層の世代交代も背景にあります。グローバル視点を持って、ガバナンスや利益率を重視した日本の企業が増えています。 

 

 これまで日本企業は株主を大事にしていませんでしたが、ここにきて株主主義的なスタンスに変わってきています。新NISAの導入もあり国民に投資ブームが起きているほか、(積極的に会社に提言する投資家である)アクティビスト投資家も増えています。 

 

 東証によるPBR(株価純資産倍率)1倍割れを是正しようとする働きかけも効果があり、増配や自社株買いをしようとする日本企業は増えています。海外からも日本株は人気です。 

 

 ただ、まだまだ道半ば。日本企業のROE(自己資本利益率)はまだ1桁台で、2桁台の欧米並みの数字になるまでにはだいぶ時間がかかります。 

 

 ここ10年でPBRや利益率、株主還元などを含めた経営改善ができている企業は全体の2~3割程度だと見ています。ということはまだまだ最大で4倍ぐらいの改善できるアップサイドが残っているということです。 

 

 この2つの要因から日本株は中長期で上昇サイクルに入っていくと思います。 

 

 ――特に注目しているセクターは。 

 

■ 中長期で上昇する5つのセクター、半導体、医薬、そして… 

 

 エミン氏:10~20年の中長期での投資が生きてくるようなメガテーマとなる代表セクターが、やはり半導体です。半導体は21世紀の石油といわれるほど重要です。ただ今すぐ上昇していくかというと、足元はかなり割高なのでリスキーな部類に入るので注意が必要です。 

 

 次に医薬です。コロナパンデミックでも注目されましたが、グローバル化した世界では今後もパンデミックが必ず起きます。人間の寿命も伸びており、医薬は極めて重要なセクターの1つです。 

 

 3つ目は防衛です。ウクライナや中東など地政学リスクは常にあり、安全保障は重要になります。狭い意味での安全保障だけでなく、「食の安全保障」、「貿易の安全保障」、「サイバーセキュリティ」などに関しても、全て防衛関連と捉えることができると思います。 

 

 4つ目は通信です。AI(人工知能)が広がり、世界がデジタル化していく中で、通信規格や通信インフラといった関連セクターの存在感は高まっていくと見ています。 

 

 5つ目は環境関連です。これは今勢いがありませんが、引き続きオルタナティブエネルギー関連、ESG関連は注目されると思います。 

 

 一方、短期目線では、今期や来期に増収・増益率が高いところに注目した方が良いでしょう。前期から今期にかけて大きく改善するのが化学セクター、今期から来期にかけて大きく改善するのが自動車といった輸送用機器だと見ています。 

 

 ――中長期で日本株は伸びていくとおっしゃっていますが、不安要素を挙げるとしたら?  

 

 エミン氏:地政学リスクですね。先ほどお話しした通り、基本的にアメリカと中国が冷戦状態であるうちは日本にとって問題ありません。むしろアドバンテージです。しかし、本当の戦争になれば日本が前線になってしまい、まずいです。 

 

 ――日本の中小型株はどう見ていますか。 

 

 

■ 中小型株は2~3年待てるのであればアリ 

 

 エミン氏:日経平均株価などに比べるとパフォーマンスは悪いです。2021年と比べて日経平均株価が大きく伸びている一方、中小型株は下がっています。ただこれは日本に限らず、アメリカも中小型株がなかなか上がりません。今は流動性を重視した相場で中小型株は非常に上がりにくいです。 

 

 ただ4~5年に1回程度中古型株の大相場はきます。2~3年待てるのであれば、今は安いので買って持っておいても良いかもしれませんね。 

 

 ――為替について、一時1ドル=160円を超えた頃と比べると円高に進んでいますが、このまま円高方向に進んでいきますか。 

 

 エミン氏:このままどんどん円高が進むとは思っていません。相当なことがない限り、1ドル=140円を割ることはないと見ています。 

 

 ただこれはアメリカの利下げ次第です。日本はこれ以上利下げしないと宣言したようなものなので、次はアメリカがどれだけ利下げをするかというメッセージを受け止めなければいけません。 

 

エミン・ユルマズ/河端 里咲 

 

 

 
 

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