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神戸市は「リノベーション神戸」プロジェクトを通じて街の再生を進め、西神中央駅周辺や須磨パティオなどの再開発が進行中だ。

しかし、人口減少や若者の流出など様々な課題がある中、神戸市は郊外の再生を図りタワーマンション建設を抑制する方針を打ち出している。

リノベーション神戸の成果はまだ明確ではなく、神戸市の挑戦が成功するかどうかは未知数である。

(要約)

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西神中央駅で出発を待つ神戸市営地下鉄の列車(画像:高田泰) 

 

 神戸市が駅前などを手直しし、街の魅力向上を目指す「リノベーション神戸」が形を見せてきた。人口減少に歯止めがかかる気配がないなか、“神戸ブランド”復権はできるのか。百貨店のそごう西神店が撤退した駅前のビルは、個性豊かな店舗が並ぶショッピングセンター「エキソアレ西神中央」に。隣の商業施設「プレンティ西神中央」もリニューアルで館内を一新した。西神ニュータウンの玄関に当たる神戸市営地下鉄西神中央駅(西区)周辺は、ここ数年で少しずつ変化が見える。 

 

【画像】「え…!」 これが生まれ変わった「エキソアレ西神中央」! 画像で見る 

 

 駅の近くには西区役所が移転してきた。それに続いて図書館と西神中央ホールで構成される市の「なでしこ芸術文化センター」や子育て広場「こべっこあそびひろば」も開館している。8月上旬の平日、遊具を備えた子育て広場は、午前中から親子連れでにぎわっていた。 

 

 駅の西側では最近供給実績がないファミリー向け民間賃貸マンションが建設中だ。市未来都市推進課は 

 

「リノベーション神戸が呼び水になって民間投資が進むことを期待していた」 

 

と歓迎している。 

 

 西神ニュータウンは西区と一部須磨区にまたがって市が整備した。住宅団地と産業団地を持つ複合機能団地で、住宅団地は1982(昭和57)年に北の西神中央、1985年に南の神戸研究学園都市、1993(平成5)年に中間の西神南が街開きした。 

 

 開発規模は3団地併せて約1350ha(東京ドーム289個分)。3団地を貫く形で市営地下鉄西神・山手線が走り、終点の西神中央駅から市中心部の三宮駅(中央区)までを約30分で結ぶ。市は今後、広さ約9万平方メートルの市営地下鉄西神車庫用地のうち、約5haを再開発する計画だ。 

 

神戸市の人口推移(画像:神戸市のデータを基にMerkmal編集部で作成) 

 

 リノベーション神戸が始動したのは2019年。市は1995(平成7)年の阪神・淡路大震災で壊滅的な損害を受け、 

 

「1兆3000億円」 

 

を超す市債を発行して復興を急いできた。市債の償還が重い負担となり、街づくりなどに十分な予算を割けずにいたが、復興にようやくめどが立ったことが事業着手のきっかけだ。 

 

 復興を進める間に首都圏や大阪市だけでなく、 

 

・子育て施策を充実させた兵庫県明石市などに人口が流出した 

・異国情緒を売りにした観光が低迷する 

 

など、かつて関西の若者を魅了した“神戸ブランド”に陰りが見えることも背景にある。 

 

 

リニューアル中の須磨パティオ(画像:高田泰) 

 

 市は駅前の再整備などで定住人口を増やす拠点駅に西神中央駅のほか、 

 

・名谷(みょうだに)駅(市営地下鉄西神・山手線、須磨区) 

・山陽垂水駅(山陽電鉄本線、垂水区) 

・鈴蘭台駅(神戸電鉄有馬(ありま)線、北区) 

 

などを挙げた。拠点駅周辺を人口減少がさらに進む将来、市中心部と鉄道で結んだコンパクトシティの郊外拠点とする意味も込めている。 

 

 須磨ニュータウンの玄関口となる名谷駅前では、ショッピングモール「須磨パティオ」が第2弾のリニューアル中。2025年春にグランドオープンを予定している。山陽垂水駅前ではバスターミナルとロータリーが整備された。 

 

山陽垂水駅前に整備されたバスターミナル(画像:高田泰) 

 

 だが、現実は厳しい――。 

 

 神戸市の推計人口は2015年に福岡市、2019年に川崎市に抜かれ、20政令指定都市のうち7位に後退したうえ、2023年に150万人を割った。2050年の人口は国の推計で123万人余、市の推計で 

 

「116万人余」 

 

と予測されている。 

 

 特に減少が著しいのが郊外。西神ニュータウンは2020年の国勢調査で9万人台にとどまり、計画人口の11万6000人に及ばない。人口自体は横ばいだが、65歳以上が全人口に占める割合が限界集落間近の 

 

「42%」 

 

に達した団地もある。西区全体だと2024年7月現在の推計人口が約23万人で、リノベーション神戸が始まった2019年より約1万人減った。住民でつくる西神ニュータウン研究会の橋本彰代表世話人は 

 

「西神ニュータウンの人口が横ばいなのは、西神南でマンション建設が進んだため。それ以外の地域は減少傾向が続く。住民の高齢化は古い戸建て団地で深刻さを増している」 

 

と頭を痛めている。 

 

 この傾向は須磨ニュータウンや鈴蘭台ニュータウンも変わらない。子育て世帯などが市外へ流出し、高齢化が進みつつある点も同じだ。高齢化が進む郊外と開発が続く市中心部の格差も顕著になってきた。 

 

西神中央駅近くで建設中の民間マンション(画像:高田泰) 

 

 多くの政令市が利便性の高い都心部に 

 

「タワーマンション」 

 

を誘致して人口を増やしている。大阪市の人口増加は北区や西区、中央区に相次いで建設されたタワマン効果が大きい。首都圏の駅前再開発では低層階に商業施設を入れたタワマンが定番になりつつある。 

 

 しかし、神戸市は2020年、市中心部のタワマン抑制に向けた土地利用規制の関連条例を施行し、三宮地区で新たな住宅建設を原則禁止とした。郊外を再生して人を集めるためで、久元喜造市長は2024年5月の記者会見で 

 

「タワマンが市中心部に建設されると、都市のスポンジ化(都市規模は変わらないのに、人口減少で使われていない空間が徐々に増え、都市内の密度が低下していくこと)などの問題が深刻化する懸念がある」 

 

とあらためて否定的な見解を示している。 

 

 だが、東京都や大阪府もニュータウンの再生に苦労している。タワマンは入居があればすぐに人口増加となるが、街のリニューアルが効果を発揮するには時間がかかる。人口統計を見る限り、リノベーション神戸の効果はまだ出ていない。 

 

 かつて地方から関西へ出てきた若者は 

 

・京都の大学で学び 

・大阪の企業に就職したあと 

・神戸にマイホームを建てる 

 

のが夢だった。しかし、時代は大きく変わり、若者の思いが変化している。“神戸ブランド”があったことさえ知らない若者も少なくない。郊外の再生という難事業にあえて着手した神戸市の選択は吉と出るか、凶と出るのか。 

 

高田泰(フリージャーナリスト) 

 

 

 
 

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