( 203105 )  2024/08/19 01:20:13  
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東京都港区では、少子高齢化が進んでいるなかで、大企業を中心にシニア世代の活用が広がっている。

例えば、役職定年制度の廃止や定年退職の年齢引き上げなどが行われており、シニア社員の経験や知識の活用が試みられている。

中小企業でも、技術を持つシニア世代の活用が進んでいるが、高人件費や働く側の人生設計変更などの課題もある。

各企業では、シニア社員の雇用形態の柔軟化や役職定年の廃止、再雇用の導入など、様々な取り組みが行われている。

将来的には人口減少と人手不足問題が続く中、企業とシニア社員が協力して対応する必要がある。

(要約)

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混雑する中で通勤する人たち。企業ではシニア世代の活用が広がっている=東京都港区 

 

少子高齢化が進み、2070(令和52)年には15~64歳の生産年齢人口が約52%まで低下する見込みとなる中、大企業を中心にシニア世代を活用する動きが広がっている。一定の年齢に到達すると管理職などの役職から外す「役職定年制度」の廃止や、定年退職の年齢引き上げが目立つ。年齢を重ねても働く意欲を持つ人は多く、企業にも経験豊富なシニアの登用はメリットがあるが、人件費高騰や働く側の人生設計変更などの課題もある。 

 

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■250人が管理職を継続 

 

大和ハウス工業は、社員が60歳になると管理職から外して給与を減額する役職定年制度を令和4年4月に廃止した。現在は約250人が管理職を継続している。 

 

「人手不足を補うことが第一。企業の存続は人にかかっており、先輩社員に応援してもらいたい」。制度廃止について同社の芳井敬一社長はこう語る。経験や知識、高度な専門資格を持つシニア社員の流出を抑止し、転職市場のキャリア採用で競争力を強化するなどの狙いがあるという。 

 

厚生労働省によると、国内の人口は2020年の1億2615万人から、70年には8700万人まで減少。65歳以上の人口割合は20年の28・6%から一貫して上昇し、70年には38・7%に達する。生産年齢人口の割合は、1990年代前半に70%まで迫ったが、その後は低下傾向となり、2070年には52・1%まで下がるとみられる。 

 

高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保を企業に義務付ける。定年を法律上の最低年齢の60歳としているケースが多く、その場合は新たに雇用契約する「再雇用」や、そのまま働く「勤務延長」などが採用される。令和3年には改正法が施行され、70歳までの就業機会の確保も努力義務となっている。 

 

大和ハウスと同様の動きは広がっており、NECとダイキン工業は、いずれも56歳としていた役職定年制度を廃止している。大阪ガスも、社員の定年を現在の60歳から65歳まで段階的に引き上げることに伴い、役職定年を7年度から廃止する。 

 

定年延長に関しては、三井住友銀行が2年に、定年年齢を60歳から65歳まで延長。「プライベートや副業との両立を視野」(同社)に、週3日勤務を前提とする柔軟な雇用形態を導入した。明治安田生命保険は、内勤職の定年を70歳に引き上げる方針だ。 

 

 

■定時に出勤できない人も 

 

リクルートが昨年、全国の60~74歳の6千人を対象にした調査では、7割超が「70代以上まで働きたい」と回答。働く理由(複数回答)は「生計の維持」が最多の41・9%で、「健康維持」(38・0%)、「小遣い確保」(34・7%)、「社会とのつながりを得る」(32・5%)と続いた。 

 

会社員の〝生涯現役〟の傾向が強まれば、人生設計にも影響がありそうだ。例えば、住宅ローンは比較的若いころに借り入れて返済していき、最終的に残額を退職金で支払うといったイメージだった。大手銀行の担当者は「今後、年齢が比較的高い人でも住宅ローンを利用する動きが強まるかもしれない」と話す。 

 

一方、意欲はあっても若い社員と同じようには働けないケースも珍しくない。再雇用などで65歳以上の正社員がいる飲食チェーンの管理職は「高齢になるほど、体力的に毎日、定時に出勤できないという人が出てくる。シニア社員は労働時間に応じた給与体系にしている」と実情を明かす。 

 

■中小では定年にこだわらない雇用形態も 

 

シニア社員の活用について、中小企業には大企業と異なる事情がある。若者の確保が困難な場合もあり、高い技術を持つシニア世代の活用に積極的なケースが多い。このため中小では定年にこだわらない雇用形態を採用する企業も珍しくない。 

 

大阪商工会議所が7月に中小企業を対象に初めて実施した調査では、約6割が定年の延長などの対応は行わないと回答した。大商人材開発部の小林幸治部長は「中小企業は慢性的に人手不足であり、大企業のように明確に定年制度を設けていない場合もある。健康なうちは年齢にあまり関係なく働いてほしいと考える経営者もいる」とその背景を説明する。 

 

調査は大阪府内に拠点を置く企業を対象に「自社での高齢社員の活用についての対応」を尋ね、中小企業44社から回答を得た(複数回答)。26社(59%)が「変更なし」と回答。「定年の延長」は12社(27%)、「再雇用年齢の引き上げ」は9社(20%)、「役職定年の延長・廃止」は3社(7%)だった。 

 

 

ただ、中小企業側から高齢者への求人がある職種は管理や警備などであり、体力的な問題から需要と供給が合わないミスマッチも起きているという。 

 

人件費の増大という経営における問題もある。生活雑貨の平安伸銅工業(大阪市西区)は60歳定年で希望者は全員再雇用し、65歳までパートタイム契約、それ以降は相談により対応としている。現在は定年延長制度の導入予定はないといい、竹内香予子社長は「高齢社員をそれまでと同条件で雇用し続けることは経営上のリスクになると考えた」と明かす。(井上浩平) 

 

■メリットも理解し対応を 東京商工リサーチ関西支社調査部・瀧川雄一郎氏 

 

役職定年制度を廃止したり定年を延長(廃止)したりする企業が増えている背景には、人手不足や優秀な人材の確保が難しくなっていることがある。企業がシニア人材を活用するメリットとして、人手が確保できることのほかに、採用や育成にかかるコストを削減できることが挙げられる。 

 

一方でデメリットもあり、賃金の高い社員を雇い続けることになるため、人件費が高騰していく。組織自体の高齢化が進むことにもなり、時代の流れに沿った柔軟な対応が難しくなるケースが想定される。組織体制の新陳代謝が鈍化することで、若手社員のモチベーションが低下する懸念もある。 

 

1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は、令和5年に1・20と過去最低を更新する一方、平均寿命は延びている。今後、少子高齢化が抑制されることは考え難く、人手不足問題の解決は容易ではない。 

 

7年4月から65歳までの雇用確保が義務化される。企業とシニア社員は、新制度のメリットとデメリットをよく理解して対応する必要がある。 

 

 

 
 

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