( 204460 )  2024/08/23 16:11:15  
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若手が会社を去る理由は4つの欲求に分類されると言われており、多くの企業が人手不足に悩んでいる中で、離職防止が重要な課題となっています。

離職の主な理由は上司や同僚との関係、成長の機会、将来への不安、やりがいの欠如などです。

これらの欲求が満たされずに離職を考えるとされ、社員の欲求を理解し満たすことで離職を減らすことが重要です。

(要約)

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「会社を去っていく若手の気持ちがわからない……」そう嘆く上司が増えていますが、離職の理由は「4つの欲求」に分類できるといいます(画像:bee/PIXTA) 

 

今、多くの企業が人手不足に悩み、人手不足が原因の倒産は過去最多を更新しています。 

そのため、離職の防止は喫緊の課題となっています。 

ただ、部下の気持ちに配慮したつもりなのに、突然部下が離職し、「部下の気持ちがわからない」「部下とどう接したらいいかわからない」といった戸惑いの声があがっています。 

そこで、経営心理士として1200件超の経営改善を行い、離職防止の指導も数多く行ってきた、一般社団法人日本経営心理士協会代表理事の藤田耕司氏の著書『離職防止の教科書――いま部下が辞めたらヤバいかも…と一度でも思ったら読む 人手不足対策の決定版』から一部を抜粋・再編集し、上司として知っておくべき人手不足、採用難の現状と会社の対応の動向についてお伝えします。 

 

【データ】みんなはどんな理由で会社を辞めているのか? 

 

■「最近の若者はわからない」と嘆く上司たち 

 

 「若い人はストレスに弱いというから仕事の負担を軽くしたら、『この会社はぬるい』と言って若手が辞めました。私はどうすればよかったんですか」 

 

 「仕事がよくできるから部下を昇進させたんです。そしたら辞めたいと言ってきたので、慌てて理由を聞いたら、『昇進したくなかったです』と言われ、そのまま辞めていきました」 

 

 人手不足の会社が多い中、離職防止は喫緊の課題となっています。 

 

 しかし、上記のように部下の気持ちに配慮したつもりなのに、突然部下に離職され、戸惑いの声があがっています。 

 

 私は経営心理士として社員の離職理由を調査し、主催する経営心理士講座では「どのようなときに離職を決意するか」というテーマでディスカッションを行い、その結果を分析しています。 

 

 その結果、多く見られた離職理由は次のとおりです。 

 

・上司や同僚との関係が良くなかった 

・自分が望むスキルや経験が得られないと思った 

 

・このままこの会社にいても成長できないと思った 

・会社や業界の将来に不安を感じた 

・仕事が面白くなかった、やりがいを感じられなかった 

・新たな挑戦をしたかった、自分の可能性を試したかった 

・人や社会の役に立っている実感を得たかった 

・給料や労働環境に不満があった 

・結婚、育児、介護など家庭の事情 

 

また、厚生労働省が発表している「令和4年雇用動向調査結果の概況」における「転職入職者が前職を辞めた理由別割合」の内容は次の通りです。 

 

 

①仕事の内容に興味を持てなかった(男性:4.5%、女性:5.9%) 

②能力・個性・資格を生かせなかった(男性:4.0%、女性:4.3%) 

③職場の人間関係が好ましくなかった(男性:8.3%、女性:10.4%) 

④会社の将来が不安だった(男性:7.1%、女性:4.4%) 

⑤給料等収入が少なかった(男性:7.6%、女性:6.8%) 

⑥労働時間、休日等の労働条件が悪かった(男性:9.1%、女性:10.8%) 

⑦結婚(男性:0.3%、女性:1.3%) 

 

⑧出産・育児(男性:0.3%、女性:1.7%) 

⑨介護・看護(男性:0.4%、女性:0.9%) 

⑩その他の個人的理由(男性:19.6%、女性:25.0%) 

⑪定年・契約期間の満了(男性:15.2%、女性:10.9%) 

⑫会社都合(男性:6.3%、女性:8.6%) 

⑬その他の理由(出向等を含む)(男性:14.7%、女性:7.0%) 

 このうち⑦~⑨、⑪~⑫は現場の問題とは関係のない離職であり、⑩と⑬は詳細が不明であるため、ここでは①~⑥を考察の対象とします。 

 

■離職の原因は「4つの欲求」に分類できる 

 

 これらの離職理由を分析してわかったのが、社員は人間が根源的に抱く4つの欲求が満たされず、そして今後も満たされないだろうと感じたときに離職を考えるということです。 

 

 欲求の分類でいえば、エイブラハム・マズローの「欲求段階説」が有名ですが、アメリカの心理学者クレイトン・アルダファーは、欲求段階説を現場でより活用しやすくするため、それをさらに発展させた「ERG理論」を提唱しました。 

 

 ERG理論では、人間は「生存欲求」「関係欲求」「成長欲求」という3つの根源的な欲求を抱くとしています。 

 

 生存欲求とは、食べ物や安全な環境を求め、安心・安全に生きていきたいという欲求です。ビジネスにおいては給料や労働環境が関係します。 

 

 関係欲求とは、良好な人間関係を築き、人から認められたいという欲求です。 

 

 成長欲求とは、苦手を克服し、創造的、生産的でありたい、自らの可能性や才能を発揮していきたいという欲求です。 

 

 

 経営改善の現場では、シンプルなもののほうが活用しやすいため、私は欲求段階説ではなく、ERG理論を用いています。 

 

■欲求は「私欲」と「公欲」に分けられる 

 

 また、人間の欲求は「私欲」と「公欲」に分けられます。 

 

 私欲とは自分がいい思いをしたいという欲求です。ERG理論の生存欲求、関係欲求、成長欲求は、いずれも私欲に含まれます。 

 

 一方、公欲とは人に喜んでもらいたい、人や社会の役に立ちたいという欲求です。 

 

 離職の原因について調べてわかったのが、この「生存欲求」「関係欲求」「成長欲求」「公欲」のいずれかが満たされないことが離職の原因となっているということです。 

 

 先に私が列挙した離職理由も「結婚、育児、介護など家庭の事情」を除き、この4つの欲求に関連するものです。それを当てはめると次のようになります。 

 

・上司や同僚との関係が良くなかった(関係欲求) 

・自分が望むスキルや経験が得られないと思った(成長欲求) 

・このままこの会社にいても成長できないと思った(成長欲求) 

・会社や業界の将来に不安を感じた(生存欲求、成長欲求) 

・仕事が面白くなかった、やりがいを感じられなかった(成長欲求、公欲) 

 

・新たな挑戦をしたかった、自分の可能性を試したかった(成長欲求) 

・人や社会の役に立っている実感を得たかった(公欲) 

・給料や労働環境に不満があった(生存欲求) 

 

 また、厚生労働省が発表している退職理由もこの4つの欲求のいずれかが満たされないことによるものであり、それを当てはめると次のとおりとなります。 

 

①仕事の内容に興味を持てなかった(関係欲求、成長欲求、公欲) 

②能力・個性・資格を生かせなかった(成長欲求) 

 

③職場の人間関係が好ましくなかった(関係欲求) 

④会社の将来が不安だった(生存欲求、成長欲求) 

⑤給料等収入が少なかった(生存欲求) 

⑥労働時間、休日等の労働条件が悪かった(生存欲求) 

 

■「若者は…」とレッテルを貼らず、部下をよく見る 

 

 冒頭の「若い人はストレスに弱いというから仕事の負担を軽くしたら、『この会社はぬるい』と言って若手が辞めました。私はどうすればよかったんですか」という事例に関していえば、バリバリ仕事をこなして早く成長したいという社員に対して、そのために十分な量の仕事を与えず、成長欲求を満たす関わりができていなかったことが離職の原因と考えられます。 

 

 

 また、「仕事がよくできるから部下を昇進させたんです。そしたら辞めたいと言ってきたので、慌てて理由を聞いたら、『昇進したくなかったです』と言われ、そのまま辞めていきました」という事例に関して言うと、昇進して管理職になると残業や休日出勤が増えることがあります。 

 

 そうなると、健全な環境で働きたいという生存欲求が満たされにくくなります。 

 

 周囲から認められたいという関係欲求を満たすことや、昇進して新たな成長の機会を得たいという成長欲求を満たすことより、残業や休日出勤は避けたいという生存欲求を満たすことの方を重視する人にとっては、昇進は離職の原因となります。 

 

 このように、どの欲求が満たされないと離職に直結するのかは、その人の価値観や置かれている状況によって異なります。 

 

 そのため、社員の価値観や状況を理解し、より強い欲求を把握し、それを満たすことで、部下の離職の可能性を大きく減らすことが可能なのです。 

 

藤田 耕司 :経営心理士、税理士、心理カウンセラー 

 

 

 
 

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