( 204465 )  2024/08/23 16:16:10  
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神戸市が2020年から行っている「タワマン規制」について、市長は「高層タワーマンションは持続可能ではない。

数十年すると廃虚化する可能性がある」と主張しているが、実際にはタワマンが廃墟になるリスクは低いと考えられる。

むしろ資産価値が上がる傾向がある。

タワマンは震災時のリスクを考慮して免振構造や予備電源を備え、資産価値を維持するために積極的に修繕を行う。

また、神戸市のタワマン規制は都市インフラのパンク問題を避ける為に有効な政策であり、他の大都市圏でも同様の規制が必要とされる可能性がある。

このように、タワマンは将来的にも需要が持続し、資産価値が上昇していくと予測されている。

(要約)

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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 神戸市が2020年から実施している「タワマン規制」が話題です。神戸市の久元喜造市長によれば、「高層タワーマンションは持続可能ではない。数十年すると廃虚化する可能性がある」ということですが、本当にそうでしょうか?実は、タワマンが廃墟化する危険性は少ないでしょう。それどころか、「むしろ資産価値が上がる」のです。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博) 

 

● 「数十年すると廃虚化する可能性」 神戸市のタワマン規制は全国に広がるか? 

 

 神戸市の「タワマン規制」がX(旧ツイッター)のトレンドワードに入りました。話題になったきっかけは8月21日に放送されたテレビ朝日系列のワイドショー『羽鳥慎一モーニングショー』でこの問題を巡って神戸市の久元喜造市長と玉川徹さんが激論を繰り広げたことでした。 

 

 神戸市内には74棟のタワーマンションがありますが、2020年から条例で三宮、元町など神戸市の中心エリアでタワマンの新規建設を制限することになりました。 

 

 久元市長によれば、「高層タワーマンションは持続可能ではない。数十年すると廃虚化する可能性がある」ということですが、このタワマン規制、全国に広がる可能性はあるのでしょうか? 

 

● 中心部にタワマンが1棟建つと 1000戸分の住民が一気に流入することも 

 

 まずは問題の背景を解説したいと思います。神戸市は高度成長期には大阪のベッドタウンとして発展したのですが、近年では人口減少が顕著になり、近い将来には今よりもさらに2割人口が減るという予測があります。 

 

 神戸市郊外のニュータウンは高齢化が進み、一部の住民が引っ越していくことで街のスポンジ化が起きています。人が減ることで商業施設が減り、医療機関も減り、バスの本数が減り、結果としてさらなる人口減少が起きるという悪いサイクルが発生しているのです。 

 

 このような人口流出先のひとつが、利便のいい市の中心部のタワマンです。神戸市全体では人口が減少する中で、一部のエリアに偏った形で人口増が起きます。 

 

 タワマンがひとつできると、場合によっては1000戸もの新たな住民が一気にそのエリアに流入します。短期的には学校の教室が足りなくなるといった問題が起きますし、長期的には大地震の際の避難所の不足といった問題にも直面するということです。 

 

 それで神戸市としては市の中心エリアでこれ以上のタワマンの新規建設は規制することに決めたというのが今回の経緯です。 

 

 この問題、これから全国に同じように広がる可能性はあるのでしょうか?そしてタワマンは本当に廃虚化するのでしょうか?3つの切り口からタワマンの未来を予測してみたいと思います。 

 

 

● 予測1 タワマンが廃虚化する危険性は少ない 

 

 最初にタワマンオーナーや、タワマンの購入を検討している方に安心していただきたいのですが、神戸市長が懸念しているような形でのタワマンの廃虚化リスクはおそらく低いと考えられます。 

 

 ここは番組でも激論になった箇所ではあるのですが、久元市長がリスクの根拠として挙げたのは多くの分譲型タワマンで修繕積立金が販売時に低く抑えられていることです。 

 

 タワマンは通常のマンションよりも設備にお金がかかる関係で、その快適な生活を維持するためにはそれだけ多くの修繕積立金が必要になります。 

 

 ところが積立金の金額を上げるためにはマンションの総会での決議が必要になる。将来的にはオーナーが高齢化してお金が足りない状況になる懸念もあります。ここがうまくいかないことで、修繕ができないタワマンが出てくるのではないかという予測です。 

 

 この点については私自身も経済評論家としても詳しいのと同時に、タワマンのオーナーとしても知識があるので解説させていただきます。結論としては、むしろ状況は逆です。 

 

 タワマンが建設され始めた当初は、市長が懸念するようなタワマンが実際にありました。ただその後、デベロッパーにもオーナー側でも理解が進んだため、現実には多くのタワマンの理事会で修繕積立金の値上げが議論され、適正に値上げが実行されているというのが最新の事情です。 

 

 これは通常のマンションと違うタワマンの特徴が背景にあります。ひとことで言うと保有しても資産価値が通常のマンションほど下がらない、場合によってはむしろ上がっていくというトレンドが明確になってきたのです。 

 

● 震災時の断水・停電は織り込み済み 1週間分の備蓄は常識 

 

 タワマンの多くが利便性のいい都市の中心部に集中しています。これは高齢化した富裕層にとって生活の利便が高いのです。なにしろバリアフリーで最新の設備が完備されていますし、立地的にも買い物に困らない。仮に元のオーナーがいなくなってもすぐに別の買い手が現れます。 

 

 そのようなタワマンのオーナーにとって最も重要なことは資産価値を落とさないことです。 

 

 富裕層からみれば積立金をケチってタワマンの資産価値が下がるのは愚かな投資行為です。実際のタワマンのオーナーはそのことをよく理解しているので、通常のマンションの理事会以上に、この手の議論は賛成多数になりやすいのです。 

 

 タワマンの場合、震災のリスクがいつも議論されますが、実はそのリスクもオーナーや住民には織り込み済みの場合が多いです。そもそも建設の最初から免振構造で設計されているので、タワーが倒壊するリスクはほとんどなく、実際の大地震のときはゆっくり長く揺れながら震災のエネルギーを打ち消していきます。 

 

 とはいえ震災時のタワマンでは、断水と停電は覚悟する必要があります。ただしそもそもタワマンに住む場合はそれを見越して1週間は籠城できるように水や非常食を準備するというのが常識になっています。 

 

 予備電源の自家発電施設もありますので、これまで経験したような大地震であればエレベーターが動かないのは最大で3日程度でしょう。タワマンのオーナーからみると震災リスクについては世間の方が過剰に懸念しているように思えます。 

 

 

● 予測2 神戸市のようなタワマン建設規制は状況によっては有効 

 

 では、なぜ神戸市はタワマン規制を実施しているのでしょうか。これは実はある状況下においては有効な政策だと考えられます。そこで問題になることは、神戸市長が提起したニュータウンのスポンジ化現象ではなく、むしろタワマンが密集することによる都市インフラのパンク問題です。 

 

 神戸市でもタワマンが密集したことにより市立こうべ小学校で児童数が3年で1.8倍に増え、校舎のキャパシティを超え、児童が仮設教室で授業を受ける状況に陥っているといいます。 

 

 まあそれを言い出したら私のように人口が増えていた時代に小学校に通っていた世代は、自分もプレハブの仮設教室で学習した世代なので、それ自体は乗り越えられる問題だとも思います。ただ現状でめいっぱいということなので、神戸市の中心部での建設は打ち止めにして、これ以上は増やさないという判断は、自治体としてはありだと思います。 

 

 都市計画というものはバランスが必要です。タワマンがひとつたつとそこに2000人以上の人口が増加します。そのことで公共交通機関の交通量がパンクすることも考えられます。 

 

 実際、東京でタワーマンションが多く建っている大江戸線の勝どき駅はパンク状態な時間帯があります。朝のラッシュ時に、湾岸エリアのオフィスに出勤する人と、同じエリアのタワマンから都心へ出勤するひとたちが交錯して、たいへんな人混みを生んでいます。 

 

 ですから増えすぎた状態で、都市インフラがそれを吸収できないようであれば、エリアを限定してタワマンのこれ以上の増加を抑えることは政策としては正しい判断です。これが今、神戸市で起きていることの本質だと考えられます。 

 

 だとすると実は、このような規制は全国に広がるのではなく、むしろ是々非々で大都市圏のさまざまなエリア単位で、一時的に同様の規制を導入すべきだという議論が、東京、大阪、神奈川などでも起きるのだろうと予測できるのです。 

 

 

● 予測3 タワマンの価値はむしろこれから上がっていく 

 

 ここまでの整理からわかることはタワマンはむしろ時流に合致しているということです。 

 

 高度成長期で都市部の人口が増えた時代は、郊外につぎつぎとニュータウンが建設され、そこに「夢の一戸建て」を実現した若いカップルがつぎつぎと移住してきたものです。 

 

 ところがその世代が高齢者の年齢に達すると、郊外の戸建てはどうしても生活には向いていません。遠くまで買い物に出るのも徐々に苦痛になりますし、戸建ての2階に上がるのも大変で、「生活は1階で2階は物置」といったスタイルが定着します。 

 

 そのようなエリアで、金銭的に余裕がある富裕層の高齢者がタワマンに買い替えて都心部に移住するというのは理にかなった経済行動です。 

 

 都市計画的にもタワマンは理になっています。人口が国全体で減少し、自治体の予算も限られる中では、都市のコンパクトシティ化は自治体が目指すべき方向です。そしてタワマンはそのコンパクトシティ構想をまさに体現する存在です。 

 

 ここで気を付けるべきことは、とはいえタワマンは普通の建造物よりも高コストだということです。ですからいくらコンパクトシティだからといって、人口の少ない地方都市にタワマンがつぎつぎと建つという状況にはなりにくいのです。 

 

 むしろタワマンの高コストが吸収できる地価の高いエリアにタワマンは集中しています。地価が高ければ高コストでもリセールバリューが生まれます。次のオーナーに高く売れるのであれば、高くても購入するオーナーが現れます。 

 

 この構造があるために結果として全国のタワマンの棟数は東京479棟、大阪273棟、神奈川144棟といった具合に大都市圏に集中するのです。 

 

 神戸市の中心部にタワマンが集中してしまったのも、この経済原則が関係しています。ただこの議論を通じて考えると、将来的にはこんな新しい政策を考えてみてもいいかもしれません。 

 

 

 
 

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