( 205005 )  2024/08/25 01:55:08  
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欧米系証券会社で株式本部長を経験し、米国IT企業代表も務めるABC Trader氏は、8月の株価急落に驚く一方、日本の株式市場が影響を受けた経緯や植田総裁の利上げ決定に関してコメントしている。

米国の失業率上昇と円キャリートレードによる動きが暴落の一因と考えられた。

ABC Trader氏は、日銀の利上げが経済指標の弱さから考えても適切ではなかったと指摘し、植田総裁が意見転換したことに失望を表している。

また、円安についても議論し、日本の経済や政策の今後についての懸念を示している。

(要約)

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(c) Adobe Stock 

 

 欧米系証券会社で株式本部長を経験し、現在は米国IT企業代表の顔も持つ億トレのABC Trader氏。みんかぶプレミアム「一人勝ち投資術」第4回では、利上げ決定の背景にある“政治”と“日銀”の関係やいまの相場の捉え方、危険な銘柄・暴落時に自身が買い増した銘柄について伺った。 

 

 8月上旬の急激な下げには正直、私も驚きました。この展開を予想していたストラテジストやアナリストはほとんどいなかったと思います。知り合いのファンドマネージャーも動揺していましたね。まさに「植田ショック」です。 

 

 今回の米国株と日本株の暴落は、CTAとグローバルマクロ系ヘッジファンドが仕掛けたと言われています。米国の失業率上昇の発表に合わせて、ハードランディング懸念が出たところに、円キャリートレードで買っていた米国株が暴落し、円キャリートレードを解消し、円高が進んだ、さらに植田総裁発言で円高に拍車がかかり、日本株が暴落しました。 

 

 私としては、7月末の金融政策決定会合では「日銀は利上げを表明しない」可能性が高いとすら思っていました。だって経済指標が弱いですから。国内総生産(GDP)も個人消費も弱い。このような状況の中で、本来は利上げするべきではありませんでした。 

 

 また仮に利上げを表明するとしても、それが「1回だけの利上げ」であればそこまで問題はありませんでした。7月末時点で、市場は“1回”の利上げをすでに織り込んでいました。むしろ利上げの決定を表明することで材料出尽くしとなり、株価は上がる可能性も高いと考えていた。実際、場中に利上げが発表された7月31日は、大引けでは株高になっています。 

 

 ただ読めなかったのが、「さらなる追加利上げ」への言及でした。 

 

 もともと日銀の植田和男総裁は、ハト派の立場を鮮明にしていました。それがここに来て、急にタカ派に転身してしまった。これは“政治に屈してしまった”とみるのが自然でしょう。岸田文雄、茂木敏充、河野太郎といった利上げを推奨する政治家からの圧力に、とうとう負けてしまったのです。植田総裁の信念に基づく利上げであればまだよかったのですが、信念を曲げたうえにそれが失策だったため、マーケットからの失望も非常に大きいと言えます。 

 

 

 円安への対応の側面としては、そもそも9月には米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに踏み切ったでしょうから、あと2カ月ほど待っていれば必然的に円高が進んだはずです。その2か月を待てなかったのは自民党の総裁選があるからでしょう。9月20日とも言われている総裁選の前に、岸田首相が「ドル売り介入と利上げに踏み切ることでインフレを鎮静化し、さらに経済正常化への道筋を付けた」という実績をつくっておきたかったのです。 

 

 しかし皮肉なことに、岸田首相は、8月14日に総裁選不出馬を表明しました。ここ最近の市場軽視の経済・金融運営をヘッジファンドに突かれ、市場は混乱しました。そしてついにはご自身が退場することになってしまいました。 

 

 投資家だけでなく政府や日銀も、ここまでの事態に陥るとは想定していなかったと思います。「日本の経済はもっと強いはずだ」という過信が彼らにはありました。結局政治家も学者もプライマリーバランスしか見ておらず、「どうすれば税収を上げられるか」しか考えていないから、マーケットの怖さをわかっていないんです。 

 

 利上げに際しては、日銀の9人の政策委員のうち、植田総裁ら7人が追加利上げに賛成したものの、2人が反対したと発表されました。反対の理由としては「賃金上昇の浸透による経済状況の改善をデータに基づいてより慎重に見極める必要がある」などと発言したことが報じられましたが、まさに正しい指摘です。 

 

 日銀は市場との対話も十分ではなかったですよね。海外であれば、これだけの混乱を引き起こしてしまった中央銀行のトップは、その座を追われてもおかしくありません。 

 

 元内閣参事官で経済学者の高橋洋一さんは、「円安になると日本経済の成長率は高まる」と主張されています。自国通貨安は古今東西で「近隣窮乏策」と言われているとのことですが、その主張の正しさは、株価が証明しましたよね。 

 

 もちろん誰しもにとって「円安が良い」と言っているわけではありません。ただ広い視野で見れば、法人税収も年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の収益も円安によって大きなプラスとなりましたよね。一定の円安は、国力につながるのです。 

 

 実際、鈴木俊一財務相はこの急激な株価下落や円高の進行について「高い緊張感を持って注視する」と発言しました。この発言からも、日本は「1ドル150円程度のレートが好ましい」と考えていたと推察することができます。追加利上げの発表でその水準に持っていきたかったのでしょうが、為替はそんなに簡単にコントロールできるものではありません。 

 

 7月末までは、「日経平均株価は年内に5万円台に到達する」といったシナリオが語られることもありました。順当に行けば、その実現も決して夢ではなかったと思います。しかし今回、そんなシナリオも崩れてしまいました。 

 

 もしこのまま円高が進めば、“デフレに逆戻り”という最悪のシナリオも考えられます。円高になれば、輸出で稼ぐ大企業の利益は単純に目減りします。輸出企業はドルのレートを150円程度に設定している企業も多いですから、たとえいま好決算を出していたとしても、来期はどうなるかわかりません。 

 

 そうなると、大手企業は実質賃金を上げられなくなります。まして中小企業は上げられません。デフレ脱却宣言が遠のいたことは確実です。想定していなかったマーケットの反応を見て、日銀としてもすぐに追加利上げ観測の打ち消しの必要性に迫られました。そうして内田真一副総裁が火消しに走ったというわけです。このような状況の中で、日銀がさらに金利を上げられるとはとても思えません。 

 

ABCTrader 

 

 

 
 

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