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メディアで「美しい」日本人像が取り上げられる一方で、実際の日本人像とはかけ離れたものがある。

明治大学の小笠原泰教授は、日本企業と個人のグローバル適応について述べ、日本人像について客観的に迫ることの重要性を語っている。

日本人は古き良き伝統や文化を重んじているとされるが、実際には異なる側面も存在する。

日本では伝統イベントよりも海外のイベントが広まっており、商業主義も影響しているかもしれない。

インスタ映えを求める「ヌン活」なども日本人の特性を表している。

日本人は新奇性に食いつきやすく、節操がない傾向があるが、それが彼らの本質とされている。

(要約)

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Photo by GettyImages 

 

メディアで取り上げられている“美しい”日本人像と実際の日本人との間には相当な隔たりがある。その驚きの理由を日本企業と個人のグローバル適応を専門とする明治大学教授・小笠原泰氏が語った。 

 

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美談的な言説としての日本人像ばかりがメディアで取り上げられることが多い。しかし、実際のところはどうなのか?グローバル社会で生き残れる最新の日本人になるための方法が書かれた新書『日本人3.0』では、その実像に鋭く迫っている。 

 

日本人は実は文化も伝統も大事にしていない…/Photo by gettyimages 

 

これからの時代に生き残れる「『最新』の日本人=日本人3.0」に脱皮するにあたって、まずはそもそも日本人とはどんな生き物なのかを知って自覚しておく必要があるので、その解説を心地良い「オモテ」ではなく、ざらつく「ウラ」の視点で語ります。 

 

私が率直に思うに、メディアで取り上げられる美談的な言説としての日本人像と実際の日本人の間には相当な乖離があります。 

 

日本には古き良き文化と伝統があり、日本人はそれを重んじているかのような記事や政治家の発言を見聞きしますが、本当でしょうか? 

 

もし“伝統”を重んじるなら、お正月やお盆という伝統行事や風物詩がなぜ力を失い、クリスマスやバレンタイン、ハロウィンなどといった伝統とは無関係なイベントが隆盛になるのでしょうか。「商業主義」という見方もありそうですが、正月だって同じことでしょう。 

 

要は、成功しているかいないかの違いでしょう。昨今のおせちは、中華風やフレンチ風など様々なバージョンが出回っています。「おせち」というフォーマットを残して、おせちの中身は伝統的なものから変容してしまいましたからね。 

 

実際、日本の伝統文化と言われる能や文楽をどのくらいの人が見ているでしょうか。 

 

たとえば茶道はどうでしょう。これまでの人生で一回でも、茶会に参加した人はどのくらいいるのでしょうか。俳句や短歌をたしなむ人はどのくらいいるのでしょうか。お仕事がらみでもないかぎり、着物を日常的に着る人は少ないですよね。卒業式の女性の袴姿は伝統でしょうか。 

 

シェイクスピアに発するイギリスの伝統といえる演劇ですが、オックスフォード大学においても演劇はとても重要ですし、夏になると野外ステージで劇を上演するなど、演劇はイギリスの日常の一部だと感じます。 

 

ヨーロッパ諸国におけるクラシック音楽も同様で、バイオリンなどの楽器も日本のような「情操教育」という名の“とりあえず舐めるお稽古”、つまりうわべの習い事ではなく、子供たちにとっては“当然のたしなみ”という印象です。 

 

フランスでは、バレエやダンスも同様で、親は子供がクラシック音楽やバレエに触れるのは当然と思っています。フランスでは、5月1日に愛する人々やお世話になった人々にスズランを贈ります。これは宮廷に由来する行事ですが、一般の人にも広く知られるようになったのは19世紀末ごろからといわれています。 

 

いまでは栽培したスズランが主のようですが、摘んできた野生のスズランを街角で売っている人が子供も含めてかなりいます。日本では死語かもしれませんが、まさに“風物詩”そのものです。市場規模は約1億ユーロといわれています。 

 

 

海外では伝統をしっかり守りぬく傾向が強い/Photo by gettyimages 

 

戦後の日本社会は、とくにバブル景気を契機として、「新しいものの摂取とその栄枯盛衰の連続」です。別の言い方をすると「猫も杓子も参加するブームという名の消費と使い捨ての連続」とも形容できます。 

 

生食パンではないですが、オワコンとなったブームは山ほどありますよね。長蛇の列で有名になったクリスピー・クリーム・ドーナツもそうでしょう。短いものでは、イタリア菓子のマリトッツォでしょうか。 

 

最近は複数の味のバラエティをつけたフランスのカヌレでしょうか。まさに「焼き畑的思考」とでもいえそうです。 

 

その一方で、日本の伝統行事や風物詩を深掘りするよりは新奇性を求めて定着したイベントもあります。クリスマスに始まり、バレンタインデー、ホワイトデー、最近はハロウィンでしょう。 

 

そこそこ定着しつつあるのは、10月という時期に関係のない「オクトーバーフェスト」でしょう。これは毎年秋にドイツ・ミュンヘンで開催される、200年以上の歴史を持つ世界最大のビールの祭りです。さすが節操のない日本人です。 

 

ドイツでは伝統を守るので、オクトーバーフェストはミュンヘンで9月の中旬から10月の頭までの開催ですし、ミュンヘン以外ではオクトーバーフェストという名称は使わず、シュトゥットガルトではカンシュタッター・フォルクスフェスト、ブレーメンでは、ブレーマー・フライマルクトと呼ばれています。 

 

ここ最近のイベント的な流行は、「ヌン活」でしょう。「ヌン活」は、2022年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」にノミネートされています。 

 

「ヌン活」とは「アフタヌーンティー活動」を略した言葉ですが、なんかとても軽いです。悪い意味ではないですが、言葉にこだわりのない、何でも短縮して、原形をとどめない(たとえば、ガクチカ=学生時代に力をいれたこと)。この軽薄さも、日本人の本質かもしれません。 

 

アフタヌーンティーとは、イギリスでの紅茶ブームを背景に、ヴィクトリア朝時代の世紀中ごろに英国貴族夫人の間で発祥した午後4時ごろに紅茶とクランペットという形式で始まった喫茶習慣です。その後、当時の中産階級、いまの日本でいえば中流ではなく「上級国民」の間に広がっていきます。 

 

いま、日本人がアフタヌーンティーと思っている、ホテルのラウンジへ行き、三段スタンドを前に紅茶とたしなむという正統な英国式スタイルは、20世紀になってからのものです。 

 

私は1990年代初めにイギリスに数年住んでいましたが、アフタヌーンティーといえば、ロンドンのフォートナム&メイソン(18世紀初めの創業の老舗百貨店)でしょう。 

 

面白いことに、当時バブル景気もあり、お客さんの多くは日本人でした。 

 

そもそも一般的なイギリス人は、フォートナム&メイソンを知らないと思います。多くのイギリス人にとって、午後のティーブレイク(a cup of teaと言いながらコーヒーを飲みます)はありますが、それは小休憩で日本人の考えるアフタヌーンティーではないのです。 

 

 

日本人は何にでもすぐ食いつきやすく飽きやすい…/Photo by gettyimages 

 

さて、インスタ映えを背景に令和の日本で大流行している日本独自の変形を遂げた「ヌン活」とは具体的には、ホテルやカフェなどで提供されるアフタヌーンティーサービスを楽しむ活動のことを指し、まるで英国の貴族になったかのような非日常的な気分を手軽に味わえることから、とくに若い女性を中心に人気を集めているようです。 

 

ふつうの人が実態をまったく知らないはずの“英国貴族”のような気分になれるのも、「みんな同じ」という一億総中流意識の正の側面でしょう。つまり現代日本人は、よくも悪くも階級意識を持っていないのです。伝統的に階級意識の強いイギリスでは、ありえないことです。 

 

最近は、「ヌン活」にはまる人は、若い女性層以外にも広がっているようです。 

 

年配の女性や子供、若い男性やシニア男性、加えてペットの犬までも楽しめるように場所やメニューも趣向を凝らしています。いかにも節操のない日本らしく、中華料理店でもインド料理店でも、どこもかしこもアフタヌーンティーメニューを揃えています。これぞ節操なく新奇性を外部から取り込み、換骨奪胎してイベント化する日本人の真骨頂です。 

 

さて次は何でしょうか。 

 

11月のサンクス・ギビングデーか、4月のイースターか。はたまた3月のセント・パトリックデーのあたりでしょうか。これはアイルランドの守護聖人のお祭りなので、ギネスビールを飲むようです。 

 

サッカーやラグビーのワールドカップの盛り上がりを見ていて思いますが、ルールを知らなくても、その場にいて楽しく盛り上がって、終わると、「じゃあ、4年後に」でいいんです。要は、イベントの中身ではなく、イベントそのものへの“参加”が重要なのでしょう。 

 

ジャン・ボードリヤールのいう「終わることのない記号消費」(イベントの中身の鑑賞ではなく、イベント参加が意味する記号)の最先端を行くのが、一般的な日本人なのです。まさに、イベント・アニマルです。「節操がなく飽きやすいイベント好き」が日本人の本質といっていいでしょう。 

 

【続きはこちら】リスクなくして決して生き残れない…「これからの日本人」に必要なたった1つのこと 

 

小笠原 泰(明治大学国際日本学部教授) 

 

 

 
 

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