( 205440 ) 2024/08/26 16:07:47 1 00 日本の夏は確実に変化しており、猛暑や異常な暑さが毎年のように記録更新されている。 |
( 205442 ) 2024/08/26 16:07:47 0 00 日本の夏は確実に変化している。人々の暮らしに起きた「異変」を見てみよう(写真はイメージです) Photo:PIXTA
夕立が「ゲリラ豪雨」と表現されるようになって久しい。美しい日本語が失われたと見る向きもあるが、近年の夏の雨の激しさを表すには、こちらの方がしっくり来るから仕方ない気もする。このように、夏の風景は徐々に、確実に変化している。10年前と明らかに変わった「日本の夏」の現在地を考える。(フリーライター 武藤弘樹)
● 「夏の風情」どころではない 毎年更新されていく記録的猛暑
夏の過ごし方や夏の風物詩が変化してきている。近年の夏が異様に暑いからであり、毎年のように記録的猛暑と言われ、実際に記録を更新しながら暑さを増していっている夏である。いつの頃からか定着した「危険な暑さ」というフレーズは、熱中症などへの危機意識を高めるとともに、過去より明らかに暑くなった夏の手応えとその情緒を端的に伝えてくれている。
それにつれて人々の生活様式が変わるのも無理はない。“四季折々”という言葉があるように、日本には季節ごとにその表情があって、夏には夏の風情があるのだが、その夏の風情がこの暑さによってやや変わってきているようだ。
● 扇風機を持つ女子が続出 新手の清涼アイテムたち
まず目につきやすい変化は、涼をもたらす身の回りのアイテムだろうか。
手に持てる小型の扇風機……すなわちハンディファンの普及はめざましい。夜に広まってきたばかりの製品であるため進化が凄まじく、強い風が送れるようになったり、首にかけてハンズフリーが可能になったりしたかと思いきや、それがさらにデスクの上で自立して卓上扇風機として使用できるものまで登場している。
朝の通勤通学時に顔に風を当てている女性が多く見られるようになって、新たな夏の風物詩となりつつある。顔への送風は汗でメイクが崩れてしまうことへの対策になるそうで、男性としては「女性の皆さん、いつもお疲れさまです」という気持ちだが、涼を感じさせてくれるということで、たまに男性が使っているのも目にする。
男性がよく利用しているのを見るのは、ファンジャケットである。これは、私がよく通りかかる大規模な建設現場で働く人がほぼ男性であるためその印象を受けるのだろうが、そこで働く多くの男性がファンジャケットを着込むようになった。昨年、電車の中でやけに膨らんだジャケットを着込んでいる人を発見し、内蔵のファンが稼働していると合点してニ度驚いた記憶があるが、ファンジャケットへの違和感はあれからほとんどなくなるくらいに薄れてきているのが、個人的感想である。
外出時や行楽地で役に立つのがネッククーラーである。首に巻く形の冷感グッズであり、電動・濡らす・保冷剤を入れる・凍らせるなど様々なタイプがある。自宅で利用している人も多いであろうし、スポーツの練習時に着用する人もいる。
水筒も賢くなってきて、水分補給のタイミングを知らせてくれるアプリ連動型のスマートボトルも登場した。余談だが「スマートボトル」の語はかなり広義で用いられていて、「スマートボトル」という名の製品のほか、スピーカーやランタン機能を有するアウトドア向けのものや、空気中の水分を集めて飲料水を生み出す魔法のようなものまである。
主に女性向けアイテムとされていた日傘だったが、「男性も使ってよろしかろう」ということで、男性の日傘利用への社会の認知と理解が深まってきている。
なお、このトピックにはタブーに相当するワードがあるようで、たとえばGoogleで「メンズ日傘」などと検索する分には問題ないのだが、「日傘男子」と入れると「男 日傘 気持ち悪い」「日傘 男性 恥ずかしい」といったネガティブなサジェストワード2つが最上位に表示される。成人した、あるいはもっと年長の男性を“男子”と称することや、さらには近年の“女子”や“男子”呼びを好む風潮に対する反発から、「日傘男子」が好まれない……という一面もあるかもしれない。
● これはもはやレーザーか? 強烈な日光を避けるアクティビティ
日中の過ごし方にも変化が見られる。日中の、何か明確な意図をもたされたレーザーのごとき日光を避けるべく、夕方か夜のお出かけが再評価されているのである。
動物園といえば「日が出ている間に行くもの」として揺るぎない存在だったが、令和は一味違う。ナイトズーやナイトサファリと称される、夜の動物園が人気を集めているらしい。そこでは夜行性の動物の生態が観察できるほか、夜ならではのライトアップがきれいだったり、バスで暗闇に分け入ってナイトスコープを使って動物を観察するツアーの冒険感満載だったりで、暑さを避ける以上の楽しみが提供されている。
また、夜に登山やハイキングをする「ナイトハイク」なるものも、ここ数年で急に注目されているアウトドアである。夜間の山中を歩くため危険が増し、注意すべきポイントはいくつかあるが、準備と対策、そして心構えをしっかりしておけば安全に楽しめるものとなるらしい。暗闇のハイキングがもたらす非日常に加え、山頂から見える夜景は格別だそうで、日の出・日の入りのトワイライトタイム(空が紫のグラデーションになる、最も美しいとされる時間帯)を山頂から鑑賞できるよう、開始時間を調整することもある。
ナイトハイクには雪山を歩くものもあるくらいなので、夏に限った行楽ではないのだが、「暑さを避けるため」としてのナイトハイクが推奨されることもあり、夏のアクティビティとして注目されつつもある。
● 暑すぎるのも考え物? 海水浴客が減少する背景
夏のアクティビティの代表格である海水浴はというと、これは酷暑が主要因ではないものの、減少傾向にあるらしい。全国の海水浴場は大幅に減っていて、1990年1379カ所から、2024年には970カ所となっている。また、海水浴約数は2007年で約2000万人→近年は500万人を割り込むそうである。
【参考】朝日新聞DIGITAL 海水浴客、20年足らずで4分の1に ビーチは3割減 https://www.asahi.com/articles/ASS8G1GPHS8GUTIL00FM.html
海水浴客の減少には少子高齢化や、近年のアクティビティの多様化が関係しているであろう。海水浴場の閉鎖はというと、利用客の減少に加えて他に運営が難しくなる要因がいくつか挙げられる。高齢化による海水浴場を運営する組合の人手不足や、悪いマナーの利用客に悩まされ続けた結果、海水浴場開設に地域の理解が得られなかったケースなどである。
一方で、映えるスポットや現代ウケするレジャー、地域との連携を強めて繁盛している海水浴場もある。流行っているところとそうでないところ、二極化が進んだと言えよう。
海水浴場に足を運んでいる利用者にも変化はあって、ラッシュガード(水に濡れていい、上半身に着る・羽織る服)がたいへん普及している。着ているのは特にパパ・ママ、カップル、年長者、思春期前の子どもなどであり、思春期後からは着るか着ないかの選択肢が各々に委ねられる。
なお筆者がよく行くファミリー向け屋内プールでは、ほぼ全ての保護者がラッシュガードを着用している(上半身裸のお父さんはわりといる)から、海や屋内プールという垣根を超えてラッシュガードの出現はもともと肌を見せたがる感覚が薄い日本人にとって渡りに船だったのだな……という普及の背景を推測させる。海に行く場合は特に、着用すれば日焼け対策も同時に行えるので一層重宝がられているのであろう。
● 虫もバテる酷暑 自然界に見え始めた異常
暑すぎるために虫の活動も低調になっているようで、全国的に「蚊が例年より少ない」と感じる人が増えている。なんでも気温が35度を超えると蚊の活動は低下するらしく、そのまま大人しくなってほしいと思うが、暑さが落ち着く秋から活発になる可能性があるので注意すべし、とのことである。
専門家によればこの猛暑は、たとえば「今年だけ」といったスポット的な例外としてではなく、今後も続くことが懸念されている。地球温暖化に伴う海面水温の上昇は日本近海で特に顕著で、それが日本列島にこの酷暑をもたらしているらしい。
【参考】Science Portal 「海洋熱波」が「最も暑い夏」をもたらしたと気象庁など分析 今夏も危険な高温続くと予測 https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20240726_g01/
気温が上昇するにつれて毎年少しずつ変わっていく夏の風景に、私たちも少しずつ慣れていくのだろうと思われる。これまでの風物詩が失われるのは物寂しいが、新しい風物詩が誕生していく様子を見守っていきたい。
武藤弘樹
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