( 205915 )  2024/08/28 00:11:55  
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コロナ後の物価高は教育費の負担などに影響を与え、貧困家庭や子供たちに重い状況をもたらしている。

公益財団法人「あすのば」の調査によると、物価高などの影響で困窮家庭の子供たちが増加し、特に教育費の負担が大きな問題となっている。

相対的貧困に陥る世帯が増加する中、子供たちが朝食や入浴などの基本的な生活を送ることすら困難になっている現状が浮かび上がっている。

物価高に加え、教育費の増加が影響している家庭もあり、特にシングルマザーの家庭では子供たちの学習塾費を支払うことが難しい状況にある。

(要約)

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コロナ明けの物価高は教育費の負担などに重くのしかかる(写真:KUMI/イメージマート) 

 

今年6月、子どもの貧困対策“改正法”が成立した。子どもの貧困対策に取り組む民間団体が実施した昨年末の調査によると、「食費と光熱費の高騰」という物価高が困窮家庭を直撃したことが明らかに。貧困状態に陥ったのは「3年以内」との回答が36.4%を占めた。また「塾や習いごとを諦めた経験がある」が68.6%と、教育や体験の格差が広がる実態も見えた。完全失業率は2.5%前後と雇用動向は悪くないが、困窮家庭の子どもを取り巻く環境は依然として厳しい。その実情を取材した。(文・写真:ジャーナリスト・古川雅子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部) 

 

公益財団法人「あすのば」代表理事の小河光治さん 

 

「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が成立したのは2013年。今年6月に改正法が成立し、法律名が改称されて「こどもの貧困の解消」という文言が明記された。 

 

厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、子どもの貧困率は2018年の14.0%から2021年には11.5%と改善している。それでも、今回の法改正の共同提言を行った5団体の一つである公益財団法人「あすのば」代表理事の小河光治さんは、楽観しているわけではない。 

 

「今回の法改正でようやくスタートラインに立ったところ。むしろ困窮世帯の子どもたちを取り巻く環境は、後退しているのが現状なんです」 

 

根拠として示したのが直近の調査結果だ。それは、物価高の影響が顕著になった2023年11月から12月にかけて実施された「あすのば全国調査」だ。 

 

同調査は、あすのばからの給付金を受給した生活保護受給世帯・住民税非課税世帯などの子ども・若者と保護者約6000人が回答した。昨年まで続いたコロナ禍による親の「失業・休業などで減収」が53.0%。物価・光熱費の高騰により「家計がさらに苦しくなった」が85.4%で、貧困状態に陥ったのは「3年以内」との回答が36.4%を占めた。特に「食費と光熱費の高騰」、つまり物価高が困窮家庭を直撃したことが見て取れる。 

 

生活状況を見ると、朝食を「毎日食べる」小学生が63.4%、中学生が50.5%と小学生の約3分の1、中学生の約2分の1が朝食を毎日食べておらず、給食がなくなる長期休みに昼食を「毎日食べる」と回答した中学生は54.7%と約2分の1にとどまる。入浴頻度でも「週4日以下」の小学生が13.8%、そのうち「週1~2日、ほとんど入らない」が5.7%に上る。 

 

アンケートの個別回答には、こんな声もあった。 

 

「お風呂は1週間に1回お湯を替えている。おなかが空いてもご飯がないときがある。お母さんはほとんど夜ご飯を食べていない」(北海道、中学2年、女性) 

 

生活が切迫している様子がアンケートから浮かび上がってくる。 

 

子ども自身はどんなところに苦しさを感じているのか。7月中旬、あすのばのアンケートにも協力してくれた高校1年生の男子生徒に話を聞いてみた。 

 

 

高校生の野球用具代は価格が上がっている(写真:アフロ) 

 

「最近部活はやめて、キックボクシング教室に週1回通っています。道具代がかからないんですよ」 

 

そう近況を語るのは、東京在住の陽稀さん(16・仮名)だ。 

 

両親は8年前に離婚。現在、母親と小学3年生の妹の3人で暮らす。昨年まで事務職のパートタイムで働いていた母親の月収は15万円以下。「所得税非課税世帯」に該当する。妹がまだ小さいため、母親は9時から16時までの時間内で非正規の仕事を続けてきた。母親は生活を切り詰め、2人が大学に行くための貯蓄にも回している。 

 

高1の陽稀さんが校外活動に選んだのは比較的出費の少ないスポーツ。母親へ負担をかけないためだ(写真:maruco/イメージマート) 

 

陽稀さんの悩みは「諦める経験の多さ」だ。 

 

中学生の時には野球部に所属。チームのポジション替えがあり、他の部員は専用のグローブに買い替えていたが、陽稀さんは母親にグローブの新調を言い出せなかったという。 

 

「やっぱ母に言うと頑張って買ってくれちゃうと思うから。母に負担をかけたくなかった」 

 

グローブは軟式野球の内野手用で数万円。総務省の調査では、大人用のグローブ(中級品)の全国平均価格は9年前に比べて5000円近く上昇した。牛革や輸送費の上昇が影響した。また遠征費なども高くなり、さまざまな活動経費がかかり続けるため、高校では野球部に入るのを諦めた。 

 

「野球の全国大会に出場した同級生が大舞台で活躍している姿をテレビで見て、やっぱりすごいな、かっこいいなと思った。うらやましいという気持ちは、正直ありますね」 

 

物価高と「児童扶養手当」の減額が重なり、母親は昨年から正社員の事務職に就いた。時短勤務から始めたが、生活費に余裕はなく、近々フルタイムに切り替えようと検討しているところだという。 

 

「母は勤務後、妹の学童に18時にお迎えに行く。帰宅後は夜中の2時ごろまでかけて炊事・洗濯・片付けを一気にこなす。最近、母は全身にじんましんが出ていて、疲れきっている。でも、生活がよくなるなら、母がフルタイムで働くのは賛成です。僕が妹のお迎えや家での手伝いを増やせばいいのかな」 

 

 

(図版制作:Yahoo!ニュース オリジナル 特集) 

 

国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、2022年の給与所得者の平均給与は458万円。正社員だけで言えば、523万円だ。だが、厚労省の「2021年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、「パート・アルバイト等」のシングルマザーの75%が就労年収200万円未満の世帯だという。一般的にこの世帯は「相対的貧困」の層と言われる。「相対的貧困」とは、生きるか死ぬかといったレベルではないものの、「同じ国・地域の人とくらべて収入・資産が少なく、生活も厳しく不安定な状態」であることを言う。 

 

物価高で食費の負担は重くなっている(写真:アフロ) 

 

厚労省「国民生活基礎調査」によると、「相対的貧困」に該当する世帯の手取り収入(世帯可処分所得)の目安は、母親と子ども2人の3人世帯ならば220万円未満(2021年時点)。世帯の人数により金額に幅はあるが、月収換算で約18万円未満というのが相対的貧困の目安だ。前出の陽稀さんの家庭もそうした相対的貧困に属する家庭の一つと言える。 

 

そうした家庭にとって近年重くのしかかっているのが物価高だ。総務省の「家計調査」に基づき、みずほリサーチ&テクノロジーズが行った試算では、食料品や光熱費などの支出割合が高い低所得世帯(年収300万円未満)の場合、1年分の家計の負担増は2022年度に6万9475円、2023年度が6万1230円、2024年度は5万529円に上ると見られている(いずれも前年度比)。この3年間はずっと家計負担が増えていることになる。食事や入浴の回数を減らして日々節約をしている家庭にとっては打撃が大きい。 

 

文部科学省の「子供の学習費調査」によると、子どもの教育にかける出費のピークが公立校の場合は中3だとわかる。各家庭が公立の中3の子に出費する学習塾費の平均は年間38万9861円(2021年度)。他の学年よりも突出して高かった。 

 

だが、相対的貧困に該当し、生活費に余裕がないシングルマザーの家庭では、この学習塾費を出すところに難しさがある。 

 

 

中学生がいる家庭の多くにとって、高校受験のための塾費用の負担は重い(写真:アフロ) 

 

中国地方に住む女性、菜々子さん(37・仮名)には3人の子がいる。現在高3と高2の女子と中1の男子。菜々子さんは10年前に離婚して以来、「子どもが小さいうちは、なるべくそばにいるもの」と考え、おもに事務のパートタイムで働いてきた。派遣のアルバイトと掛け持ちしていた時期もある。平均の就労年収は130万円強、支給される児童扶養手当は3人分で月額6万2700円。自治体から支払われる各種手当を入れて手取り年収は200万円前後だという。 

3人の子どもは育ち盛りで食欲は「マックス」。食費の増加も家計を圧迫するが、この数年重くなってきているのが教育費だ。 

 

子どもの食事を制限しないため、母親が食事を控えがちという調査結果もある(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート) 

 

長女が中3だった3年前、高校受験のため市内最安値の塾を探し、月2万円を塾代に出した。当時、元夫からの養育費はゼロ。児童扶養手当も受給できる年限が過ぎて、減額されていた。それでも、夏休みから高校入試までの半年間、他の出費を切り詰めても塾代は払い続けた。高校受験の時期は「田舎でも塾通いが当たり前」なのだと菜々子さんは言う。 

 

「長女と次女は当初は無料の学習支援を利用していました。でも、公民館で週1回だけ。私自身が中卒なので勉強は教えられないし、働いていて教える時間もない。無料の学習支援だけでは高校進学は難しいと思いました」 

 

菜々子さんの家では3年前から塾費用を出し始め、徐々に光熱費の支払いが滞り、毎月督促状が届き始めた。次女の高校受験も続いた。この時期、調停手続きにより元夫からの養育費を月額3万円受け取れるようになったが、その多くが次女の塾代に消えた。しかもその頃から、米、加工食品、菓子などの食材費が高騰。食材は複数のフードバンクから提供してもらうようにした。成長期の子どもたち3人で食材があっという間に減ってしまうためだ。菜々子さんは言う。 

 

「昨年末のクリスマスは出前のピザを取ろうとも言えないほど困窮していました。仕方なく298円のチルドのピザを2枚買って、子どもたちで分けた。でも子どもから『食べたら』って差し出されたので、私も1ピース食べました」 

 

 

 
 

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