( 206825 )  2024/08/30 17:36:39  
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日本ではここ10年で、企業利益が2倍以上、株式時価総額が3倍以上に増加したが、個人の生活はあまり改善されていないように感じられる。

武者リサーチの武者陵司氏によると、これは日本の株価と個人の生活の乖離が原因だと指摘している。

株価の急落や急騰はファンダメンタルズに基づいたものではなく、個人の生活実態が改善されていないことが背景にあるとしている。

一方、過去10年間では実質消費支出は伸びず、企業利益や株式時価総額が増加している状況が続いており、個人生活が経済成長から取り残されていることを示唆している。

しかし、名目GNIが拡大し、数量景気が顕著になる2024年後半以降には、実質GDPの成長率も上昇し、個人の生活状況が改善するとの見方が示されている。

(要約)

( 206827 )  2024/08/30 17:36:39  
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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

日本はこの10年で、企業利益は2倍以上、株式時価総額は3倍以上にも増加しました。一方、個人の生活はほとんど改善されていないように感じます。それはいったいなぜなのか、株価と日本人の生活の乖離について、株式会社武者リサーチの武者陵司氏が詳しく解説します。 

 

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[図表1]乖離する日本の名目総所得(GNI)・名目GDPと実質GDP・実質消費 出所:武者リサーチ 

 

7月31日の日銀利上げによって引き起こされた、3日間で7,600円、20%の空前の株価暴落(日経平均)は、その後7日間で6,500円、20%と急騰し、下落幅の85%が取り戻された。このV字回復は、株価下落がファンダメンタルズに基づいたものではなかったことを示唆している。 

 

だが人々が悲観に流されたのも無理からぬこと、と言えなくもない。これまで日本人の生活実態はほとんど改善されてこなかったからである。 

 

[図表1]によって実質個人消費支出を振り返ると、過去10年間では、2014年3月の消費税増税(5→8%)直前の2014年1~3月の310兆円がピークで、その後一度もそれを上回っていない。 

  

 

コロナパンデミック時2020年4~6期の272兆円から回復に転じ、直近の2024年4~6月は前期比年率4.0%と上昇したものの、依然として10年前のピークに比べ4%減の水準にある。この間、企業利益は2.2倍、株式時価総額は3.3倍、一般会計税収は1.6倍になったのであるから、いかに個人生活が取り残されてきたかがわかる。 

 

では株価や企業利益がまったくの砂上の楼閣なのかと言うと、そうではない。 

 

8月15日に発表された4~6月期GDP統計によると、日本人が稼ぐ所得総額(名目GNI)は647兆円、前年同期の630兆円比2.7%増、前々年同期の593兆円比9.1%増と鋭角的拡大か続いている。 

 

実質GDPがここ2年間550兆円でまったく成長していないなかで、なぜ名目GNIが急成長できたのか。 

 

[図表2]GDPデフレーターと前年比 出所:内閣府値武者リサーチ 

 

[図表3]Jカーブ効果 出所:武者リサーチ 

 

[図表4]政策投資銀行 大業設備投資調査 出所:武者リサーチ 

 

[図表5]主要経済指標、アベノミクス以降の推移 出所:各政府機関発表より武者リサーチまとめ 

 

第一に物価上昇により名目GDPが拡大した、第二に海外からの所得収支黒字が大きく増加したからである。企業利益も株価も税収も名目所得に連動するのであるから、それらが好調なのは道理に合っている。 

 

この好調な業績・株価と低調の実質消費との乖離は、今後どうなっていくのだろうか。武者リサーチは実質GDPと消費が成長率を高め、名目成長に追いついていくと予想する。 

 

第一の理由は2024年後半以降の日本経済は数量景気が顕著となるからである。 

 

これまでの消費低迷の一因は円安によるJカーブ効果にあった。Jカーブ効果による円安初期の価格面でのマイナス場面は2024年1~3月期で終わり、すでに数量増の乗数効果が表れる時期に入っている。円安で日本の価格競争力が強まり、工場の稼働率が高まっているのだ。 

 

また、割高になった輸入品の国内生産代替が起きている。円安はまた、インバウンドを増加させ、外国人観光客が日本の津々浦々の地方内需を刺激。安いニッポンに向かって、さまざまなチャンネルを通じて世界の需要が集中し、国内景気を活性化している。企業の国内における設備投資意欲は急激に高まっているといえよう。 

 

政策投資銀行による大企業の設備投資調査では2024年度は製造業で24.7%増、全産業で21.6%増と過去最高レベルの伸びとなっている。 

 

円安効果に加えて日本政府による合計4兆円に上る半導体支援が佳境に入り熊本、北海道、北上、広島などで投資ブームが起きていること、日本でも遅れていたEV投資が高まってきたことが推進力になっている。円安定着が確信できれば、企業はより国内投資に本腰を入れるだろう。 

 

第二にJカーブ効果の初期に打撃を受けた家計の実質所得が回復し始めた。30年ぶりの5%という大幅な賃金上昇率に加えて、インフレが沈静化している。 

 

2022年以降の国際的インフレ(エネルギー価格、およびサプライチェーンの混乱による)は完全に終焉した。また急速な円安もほぼ一巡した。GDPデフレーターは2023年1~3月に前年比5%まで上昇したが、2024年4~6月は3.0%まで低下している。 

 

物価変動の影響を除いた実質の雇用者報酬は2024年4~6月期に前年同期比0.8%増と21年7~9月期以来11四半期ぶりにプラスとなった。家計消費は力強さを高めていこう。 

 

2024年4~6月期の実質GDPは年率3.1%でG7の中で最高の伸びとなったが、日本の相対的な好調さは今後も続くだろう。 

 

武者 陵司 

 

株式会社武者リサーチ 

 

代表 

 

武者 陵司 

 

 

 
 

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