( 207861 ) 2024/09/02 17:14:00 1 00 コロナウイルスの影響で回転寿司店での光景が減少しているが、回転寿司は高価な寿司をリーズナブルに楽しめる象徴として不動の地位を確立している。 |
( 207863 ) 2024/09/02 17:14:01 0 00 Photo by Gettyimages
コロナウイルスの影響もあり、最近は店舗に行っても寿司がレールを回っている光景を目にすることが減ってきたが、高価な寿司をリーズナブルに楽しめる業態の象徴として、「回転寿司」は不動の地位を確立している。
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だが、世界的な「魚調達競争」の激化や国内における漁獲量の深刻な減少は、日本人の愛する回転寿司を脅かす問題となりつつある。
前編記事『世界的“SUSHIブーム”で日本人が魚を買えなくなっている…!「サーモン価格は10年で2.5倍」庶民の味方「回転寿司」に迫る危機』に引き続き、後編では日本の漁業が抱える問題を考えてみたい。
近年、日本で獲れる魚の量は激減している。漁業・養殖業の生産量は1984年にピークを記録した後、減少の一途をたどり、2021年には最盛期の1/3以下にまで落ち込んだ。
その理由として「食生活の変化により、そもそも日本人が魚を食べなくなったからでは?」と、考える方もいるだろう。
だが、実は日本の1人あたり年間魚介類消費量は80年代から90年代にかけてやや微増傾向で推移しており、ピークを迎えたのは2001年だった。つまり、80年代後半に漁獲量が減少傾向に転じた後も、魚介類の消費量は伸びていたわけで、漁獲量の減少と消費の伸び悩みを直接結びつけることはできない。
読者の中には「中国や北朝鮮の漁船が日本の海で乱獲している」という“説”を見聞きしたことがある方もいるかもしれない。たしかに、新潟県と石川県の沖合にある日本海大和堆(やまとたい)周辺では、中国や北朝鮮の漁船による違法操業が多数確認されている。2018年から2019年にかけて水産庁から退去警告を受けた外国漁船の数は、年間5000隻以上に及んだ。
とはいえ、こうした外国漁船による違法操業などが漁獲量減少の決定的な要因であるとは考えづらい。なぜなら、外国漁船の影響を受けにくいはずの太平洋沿岸でも、漁獲量は大幅に減少しているからだ。
また、「最近の気候変動が影響しているのではないか」という考え方もあるだろう。
もちろん、海の環境変化によって漁獲量が減っている魚種があることは否定できない。
しかし、仮に気候変動によって魚が獲れにくくなるのであれば世界的に漁獲量は減るはずだが、現実は異なる。世界の漁業生産量は一貫して増加傾向にあり、日本はそのなかで取り残されているのだ。
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漁獲量の低迷を招いている最大の原因とされるのが、シンプルに“魚の獲り過ぎ”であるということだ。
魚介類は天然資源である以上、乱獲が進めば資源量は急速に減り、漁獲量も減ってしまう。そのため、多くの先進国では政府が資源管理のための漁獲規制をしている。ところが、日本は最近まで規制に本腰を入れてこなかった。
漁獲規制は政治問題であるがゆえ、背景にはさまざまな問題が指摘されているが、十分に成長していない未成魚――いわば「子どもの魚」の流通を受け入れてきたマーケットの存在は大きいと考えられる。
乱獲が進めば資源量が減るため、未成魚も獲らざるを得なくなる。太平洋クロマグロ(本マグロ)を例にとると、日本では漁獲量の90%以上を未成魚が占めている(2011年~2020年の平均)。十分に成長したマグロはほとんど獲れていないのが実情だ。
当然、未成魚のマグロは脂のりも悪く、商品価値は相対的に低い。だが、そんな未成魚のマグロであってもスーパーの鮮魚売り場や回転寿司などで普通に流通し、消費者に買い求められてきた。「こどもの魚を獲るなんてけしからん」とお思いの方は多いと思うが、未成魚を求めるマーケットが確かに存在しているのだ。
なお、日本でも1997年に、主要な魚種について年間の漁獲可能量を設定する制度は創設されている。しかし、この制度の対象となっている魚種はわずか8種ほどで、実質的な規制になっていないと批判されてきた。その結果、2000年代に入ってからも日本における漁獲量は下降の一途をたどり続けた。
しっかりとした漁獲規制をかければ水産資源量が回復することは、各国で証明されている。なかでも、規制を強化し漁業の復活に成功した事例として最も有名なのが、前編で触れたノルウェーだ。
ノルウェーでは60年代以降、潤沢な漁業補助金を背景に漁船の性能が向上し、漁獲量が大きく増加した。その結果、70年代後半になると主要魚種である北海ニシンやタラなどの資源量が急速に減少したため、ノルウェー政府は漁業改革に着手。資源量の減少が著しい魚種については一時的な禁漁措置をとり、過剰な漁獲能力の向上につながる補助金も段階的に廃止した。
こうした漁業改革のなかでも特に重要な役割を果たしたとされるのが、一定期間内で漁獲可能な量を、漁船や漁業者ごとに割り振る制度の導入だ。
漁獲可能な量の上限が決まっていれば、漁業者としてはなるべく単価の高い魚を獲ることが経済的に合理性のある選択となる。そうなれば、単価の低い未成魚(子魚)などを獲ることが自然と回避され、将来的な資源量にダメージを与えずに済むことになる。
その結果、ノルウェーでは規制が強化されて以降、漁獲量はもちろんのこと、漁業生産額(漁獲高)も大きく増加した。単価の高い成魚(親魚)を狙うことにインセンティブを持たせ、水産資源の保護を目指した制度設計の効果がてきめんに現れたのだ。
世界的な魚食ブームの到来でこれまで通りの魚介類の輸入が難しくなるなか、国内漁獲量を回復させることは必要不可欠だ。そして、そのためにはノルウェーが取り組んできたような漁獲規制の強化は避けて通れない道である。
こうしたなか、2018年には日本でも、水産資源管理の見直しを盛り込んだ改正漁業法が成立した。この改正法では、ノルウェーで大きな成果を挙げた漁獲量の割り当て制度の順次導入などが決まり、これまで後手にまわってきた日本の水産資源管理にとっては大きな前進とも言える。だが、専門家からは依然として実効性のある規制の施行には至っていないとの批判も根強い。
水産資源管理はまさに政治の問題だ。世界に誇る魚食文化をもつ国として、多くの消費者がこの問題に関心をもち、政治に対して解決を求める姿勢が必要とされている。
このまま魚の乱獲を続けていけば、スーパーや回転寿司で寿司を食べられる日常は失われてしまうかもしれない。
市村 敏伸(農と食のライター)
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