( 208956 )  2024/09/05 17:21:55  
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今年、中国自動車市場における新車販売が伸び悩み、値引き競争が激化している。

中国政府は補助金政策を実施し、自動車メーカーを支援しているが、自動車生産能力の過剰や価格競争が深刻化している。

特にEV市場では、低価格車種の投入や企業間の過当競争が進んでおり、生き残りが難しくなっている。

中国メーカーは海外販路を模索し、欧州勢や日本メーカーも中国市場からの撤退や経営調整を行っている。

この影響を受けて、世界の自動車産業は重要な戦略転換を迫られている。

(要約)

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photo by gettyimages 

 

今年に入って、一時、世界最大の自動車市場である中国で新車販売台数が伸び悩み、自動車メーカー各社の値引き競争が激化した。値引き競争は熾烈を極め、専門家から「中国の自動車市場はレッドオーシャン化している」との指摘も出ていた。 

 

【写真】これはヤバすぎる…!中国で「100年に一度の大洪水」のようす 

 

それに対して中国政府は産業補助金政策やクルマの買い替えにリベートを支給し、国有・国営及び一部の有力民間自動車メーカーの生産増加を支援している。ただ、中国の自動車生産能力はすでに過剰だ。わが国や中国国内メーカーにとっても生き残りが厳しい状況になっている。 

 

さらにここへ来て、EV大手の比亜迪(BYD)や大手ITでありながらEV分野に参入した小米(シャオミ)などが相次いで低価格の車種を投入し、価格競争は一段と激化している。熾烈な値下げ競争に対応することが難しくなっており、わが国をはじめとする海外の自動車メーカーは中国市場からの撤退が目立ち始めている。 

 

特に状況が厳しいのは、フォルクスワーゲンなどの欧州勢だろう。わが国の大手自動車メーカーも、中国事業のリストラを進めた。2023年、三菱自動車工業は国有自動車大手、広州汽車集団との合弁事業を解消し中国から撤退した。 

 

ただ、大手自動車メーカーが、世界最大の自動車市場である中国市場から完全に離れることは難しい。今後、世界の自動車産業界では中国、米国、欧州などの規制、通商政策などに対応し、需要者に近い場所で生産する“地産地消”の体制を、いかに効率的に運営するかが重要な戦略になるはずだ。 

 

中国市場の深刻なレッドオーシャン化は、間違いなく世界の自動車市場を揺るがせ始めている。次からはその現状を詳しくみていこう。 

 

中国自動車工業協会(CAAM)によると、2024年7月の販売台数は前年同期比5.2%減の226万2,000台だった。生産台数は同4.8%減の228万6,000台。 

 

中国の自動車市場は動力源別に大きく3つに分かれる。一つ目はエンジン車、二つ目は新エネルギー車(電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、新エネ車)、そして三つ目は低燃費車(ハイブリッド車(HV))だ。7月、自動車販売台数全体に占める新エネ車の割合は43.8%に上昇。乗用車市場では、新エネ車のシェアがエンジン車を上回った。 

 

なお、8月7日に発表された全国乗用車市場情報連合会(乗連会)の7月の暫定集計によれば、新エネ車に分類されるEVとプラグインハイブリッド車の中国販売台数は、前年同月比37%増の87万9000台と、総販売台数の50.8%を占めたようだ。 

 

現在、中国国内には年間4,000万台もの自動車を生産する能力があるとされ、それ以上の5,000万台の生産能力があるとの試算もある。2023年、中国の新車販売台数は約3,000万台だった。その内、491万台は輸出だ。 

 

生産能力は明らかに過剰であり、中国国内の自動車工場は全体で5~6割程度しか稼働していないとみる専門家もいる。世界的に自動車業界では、工場の稼働率が8割前後で損益が分岐すると考えられてきた。中国自動車業界の過剰生産の現状はかなり深刻だ。 

 

本来であれば生産を調整するのが自然だ。収益を維持するため、工場を閉鎖するなどして大胆なコストカットを進める必要もあるだろう。しかし、今のところ、中国の大手自動車メーカーの生産調整の報道は見当たらない。 

 

 

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むしろ、脱炭素などの環境変化を理由に中国政府は補助金政策を実施し、さらなる需要の限り取り込みを目指して大手企業は急速に生産体制を整備。生産能力を増強する姿勢さえ見せている。 

 

特にEVに関しては、2009年以降に中国が新エネ車の生産振興を推進した結果、多くの企業が一斉にEV生産に乗り出した。政府は脱炭素や大気汚染対策のためにEV普及支援策を実施。補助金を獲得するため、EV業界に新規参入する中国企業は大きく増えた。 

 

主な補助政策は、実勢を下回る低金利での融資、割安な価格での土地、車載用バッテリー等の提供などだ。EVシフトによって、中国自動車市場におけるエンジン車の需要は減り、エンジン車やハイブリッド車に強みを持つ海外メーカーが安定的に収益を獲得することは難しくなっている。 

 

多くの企業の新規参入で生産能力が過剰になった結果、中国の自動車市場では値下げ競争が激化している。いわゆる過当競争で生き残りが難しい“レッドオーシャン”と化しているのだ。企業が限られたパイ(需要)をめぐり、ライバル企業と血みどろの争いを繰り広げている状況が思い浮かぶ。 

 

現在、中国EVメーカーの中でも新興企業を取り巻く競争環境は厳しい。ここ数年間、EV分野で400程度の中国企業が破たんしたとの報道もあるほどだ。2023年、中国のEV市場で本当の意味で収益を確保できたのは、BYD、米テスラ、埃安(アイオン)、五菱(ウーリン)くらいだったようだ。足許では、大手IT企業であるシャオミもEV生産の参入し、急速に販売を伸ばしているという。中国の自動車市場は、今後一段と厳しさを増すだろう。 

 

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一方、こうした状況から逃れようと、中国自動車メーカーは海外に販路を求めている。エンジン車に関しては、主にロシアへの輸出が増加した。ウクライナ紛争が始まった直後、主要先進国の企業はロシアからの撤退、事業停止を表明した。米欧などの経済制裁も重なり、ロシアの自動車と関連部品の生産は減少したが、中国のエンジン車がロシアの需要を満たしている。 

 

また、とりわけ中国のEVメーカーは、アジア、南米など新興国への進出を狙っている。過剰生産分を輸出して収益を得ることに加え、米国や欧州委員会が中国製EVに課した関税を回避するために直接投資を行う中国EVメーカーもある。その背景には、中国国内の個人消費の停滞や国有・国営企業を重視する、中国政府の“国進民退”政策を回避する意図もあるだろう。 

 

中国メーカーの低価格攻勢によって、欧州では自動車メーカーの苦境が浮き彫りになっている。独フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMW、ステランティス、仏ルノーは、中国でのEV、エンジン車の需要減少と人件費等のコスト増加で、収益が減少傾向だ。中国で、人員削減を行う米欧の大手気動車メーカーも増加傾向にある。 

 

9月2日には、こうした欧州勢の苦境を象徴するようなニュースも流れてきた。欧州最大メーカーであるフォルクスワーゲンが複数のドイツ工場の閉鎖を検討していると、海外主要メディアが報じたのだ。2001年には中国で50%超のシェアを誇っていた同社だったが、昨今は低価格の中国EVに押され、2023年には14%にまで低下。コスト削減のため、歴史ある国内工場にも切り込まなければならないほどに追い込まれている。 

 

4月、国家発展改革委員会(発改委)は、中国国内のEV市場で価格競争がさらに激化する見通しを示した。それにも関わらず、中国第一汽車集団、東風汽車集団、重慶長安汽車の国有3大自動車メーカーのEV生産能力を引き上げる方針だ。 

 

では、中国市場を重視してきた日本の自動車メーカーの行く末はどうなるのか。 

 

つづく記事『中国はもう無理かも…“補助金ジャブジャブEV”に苦戦を強いられたトヨタ、日産、ホンダが狙う「次なるドル箱市場」』では、日本メーカーに与える負の影響と今後予想されるシナリオを解説する。 

 

真壁 昭夫(多摩大学特別招聘教授) 

 

 

 
 

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