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中国のEV市場は激戦区で、政府の支援により多くの企業がEV生産に参入している。

これにより、国内外のメーカーが競争激化し、日本の自動車メーカーにも影響が及んでいる。

EVやPHVの低価格化により需要が変化し、中国企業がシェアを伸ばしている。

日本メーカーも中国での事業再編や人員削減を行っており、中国の牽引する自動車業界の厳しさに直面している。

それに対し、日本企業は効率的な供給網や全方位的な戦略を模索しており、日米欧の提携やインド市場の重要性も増している。

(要約)

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photo by gettyimages 

 

現在、中国のEV市場はレッドオーシャン化している。政府が新エネルギー車の生産振興策を推進した結果、EV生産に乗り出す中国企業が激増。補助金などの支援でEVの低価格化を実現した企業が続々現れ、国内外のメーカーが限られたパイを奪い合う、熾烈な争いに発展している。 

 

【写真】これはヤバすぎる…!中国で「100年に一度の大洪水」のようす 

 

前回記事『血みどろの「EV地獄」と化す中国…《“補助金ジャブジャブ”政策で400社が破綻》世界大手フォルクスワーゲンもついに「白旗」を上げた…!』では、そんな中国国内の現状を解説している。 

 

本記事では、日本の自動車メーカーへの負の影響と今後予想されるシナリオを解説する。 

 

photo by gettyimages 

 

中国自動車市場のレッドオーシャン化は、わが国の自動車メーカーにも無視できない打撃を与えた。2024年1~6月期、中国における国内大手自動車メーカー3社(トヨタ、日産、ホンダ)の販売台数は前年同期比10.8%減だった。 

 

これまで、トヨタなどのハイブリッド車は、航続距離の長さと環境性能の両面が評価され、中国でも人気を博していた。しかし、EVやPHVの価格低下によって、多くの需要はBYDなどに向かった。上海に大規模な工場でEVを生産する、米テスラですらも低価格競争で業績は悪化している。 

 

それに伴い、中国でリストラを実施する日本の自動車メーカーは増えた。今のところ、完全撤退を表明したのは三菱自動車だけだが、昨年、トヨタは中国で人員を削減した。2024年6月、日産も江蘇省常州市の工場を閉鎖。ゴーン時代に中国事業を重視した日産にとって、中国工場の閉鎖は初だ。 

 

ホンダは中国事業で希望退職者を募り、武漢など一部工場を閉鎖・休止するようだ。中国の生産能力は19%程度削減される模様である。2022年、ホンダは脱エンジンを目指す一環で、武漢でのEV生産能力の拡充を発表した。生産能力の削減を余儀なくされたところに、中国自動車業界の厳しさが表れているといえるだろう。なお、マツダも中国の販売網を再編し、店舗や販路を一本化している。 

 

中国自動車メーカーの海外進出によって、グローバルな生産体制を修正する日本企業もある。スズキは、タイでの四輪車生産撤退を発表した。同国を始めとする東南アジア新興国地域は、わが国の自動車企業が進出して高シェアを獲得した市場だった。 

 

ところが、中国のEVメーカーの輸出と直接投資の増加、産業政策面でEVを重視する現地政府の意向もあり、中国勢が日本車メーカーからシェアを奪っている。スバルもタイからの撤退を表明した。完成車メーカーの再編に伴い、中国などで生産能力を削減するわが国の自動車部品メーカーも増える可能性は高い。 

 

そうはいっても中国は世界最大の新車販売市場だ。景気の長期停滞、経済政策、政治などのリスクは上昇傾向と考えられるが、日米独などの自動車メーカーが中国から完全撤退することは難しいだろう。 

 

 

対応策の一つとして、日米欧などの自動車企業は状況や政策に応じた、効率的な供給網を構築し、需要者の近くで供給する体制を目指すとみられる。今後、自動車の“地産地消”の動きは加速する可能性がある。 

 

それに伴い、EVシフトに特化した戦略よりも、むしろリスクを分散する“全方位型戦略”の重要性が高まりそうだ。トヨタは、エンジンと電動車、自動運転などのソフトウェア開発を一体で進め、需要に対応しようとしている。 

 

トヨタ以外の自動車メーカーの戦略を見ると、中国勢のEVに対抗するためにエンジン車から電動車へのシフトを重視する企業は多い。こうした企業は短期間に全方位型の戦略に回帰することは難しいかもしれない。 

 

環境変化に対する選択肢の一つとして、EVシフトを重視した自動車メーカーが、他社との戦略的提携を交わす可能性もあるだろう。日産自動車とホンダの提携は一例だ。国内の自動車メーカーはトヨタとスバル、スズキ、マツダが提携するグループと、日産とホンダなど大きく2つに再編されるかもしれない。 

 

米国や欧州のメーカーがその陣営に参画し、国境を越えた業界再編が進む可能性もある。 

 

インドのタージ・マハル/photo by gettyimages 

 

中国以外では、米国、インド市場の重要性が高まるだろう。中国経済の低迷にも関わらず、近年の世界経済はそれなりの落ち着きを保っている。 

 

その支えになったのは、個人消費を中心とする米国経済の底堅さだ。米国で自動車を生産し、個人消費を取り込もうとする内外の自動車メーカーは増加する可能性が高い。それに対して、今後、米国政府は国内の雇用機会創出をめざし、国内生産を増やすようわが国の自動車メーカーなどに要求するだろう。 

 

中国からの生産拠点のシフト(企業の脱中国)や人口増加を背景に、今後、インドの経済成長率は高水準を維持するとみられる。国民の所得の増加に伴い、エンジン車、電動車の需要は増加するはずだ。インド政府は工業化を推進するため自動車などの国内生産を重視している(メイク・イン・インディア政策)。 

 

中国自動車市場のレッドオーシャン化、米欧などの対中関税、主要国の産業政策などに対応するため、世界の主要自動車メーカーは迅速に戦力を修正することが求められるだろう。 

 

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【つづきを読む】『中国企業がついに「星野リゾートトマム」を売り払うハメに…中国全土がいまだ苦しみ続ける不動産バブル崩壊の「ヤバい後遺症」』では、いまだ不動産バブル崩壊の傷跡が癒えない中国の現状について解説しています。 

 

真壁 昭夫(多摩大学特別招聘教授) 

 

 

 
 

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