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斎藤幸平さんは脱成長を提唱し、寄付や社会貢献のあり方について考えている。

富裕層の巨額な寄付は再分配すべきと主張し、富裕層の寄付文化についても批判している。

彼は、長期計画や火星移住などに熱心な富裕層の思想にも警鐘を鳴らし、社会を変えるために富裕層や企業と対立し、市民参加を促している。

さらに、個人でもできる具体的な行動や、地域主権主義に基づく政治参加の重要性を強調している。

(要約)

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斎藤幸平さん=関口聡撮影 

 

東大准教授の斎藤幸平さんはベストセラー「人新世の『資本論』」で気候変動を食い止めるため脱成長を提案、GAFAといった米企業などの資本主義を批判している。斎藤さんに、寄付や社会貢献のあり方、社会を変えるためにできることなどを聞いた。(秋山訓子=朝日新聞編集委員) 

 

【グラフで見る】世界的な大富豪が設立した財団の支援額と国家予算の比較 

 

僕は自分自身寄付もしているが、シリコンバレーに代表される富裕層の巨額な寄付については、本来は税金として徴収し、再分配すべきだと思っている。 

 

彼らは財団を作って寄付をして税控除も受ける。寄付先は財団内で決め、公共性が担保されないため、正当性の問題がある。寄付を受けるのが一部の地域や集団に偏らないよう、控除額に制限を設けて、国家が再分配をすべきだろう。 

 

富裕層の寄付文化の背景にある思想や構造も見たほうがいい。例えば「効果的利他主義」と「長期主義」。前者は寄付の効用を最大化するため、強欲な資本家のあり方を正当化。自らの富を最大化するような、徹底した減税や規制緩和も含まれる。極端になると、例えば1億人を救うために100人が犠牲になっても仕方ない、ということになりかねない。 

 

火星移住のように、一見途方もなくて実現可能性があるのかわからないが、当たればインパクトの大きい長期計画も正当化される。そうして脱炭素化のためにすぐにできるやり方が周縁化する。つまり現在の問題に取り掛からないための言い訳に使われる危険がある。もし火星移住に失敗しても、その頃には自分はこの世にいないので、責任を問われない。結果的に、自分たちの強欲な振る舞いを正当化するイデオロギーになってしまう。 

 

社会を変えるには、富裕層や企業、および政府と市民がもっと対立すべきだと思う。例えば、英国でゴッホの絵に環境活動家がトマトスープを投げつけたことがあった。そのくらいの衝撃がないと、なぜそんなことが起きたのか考えないし、価値観も転換しないと思う。でも日本ではそういうやり方は支持されないし、できないだろう。 

 

 

一方で、日本でも変化は起きている。数年前に、ジャニーズ事務所がこんなに批判されると想像できただろうか。性被害を実名で訴えたジャーナリストの伊藤詩織さんや元自衛官の五ノ井里奈さんがバッシングを受けながらも勇気を出して告発。BBCみたいな黒船がやってきて、社会の性暴力への認識が変わり、多くの人に支持されるようになったからだと思う。視点を世界に向ければ、グレタ・トゥンベリさんは気候変動対策を求めて15歳のとき、たった一人で国会の前で座り込みを始め、それが世界へ広がった。 

 

そんなに大人数じゃなくてもいい。「世の中の3.5%の人が非暴力的に行動すれば社会は変わる」という研究がある。身近でできることもある。例えば、寄付をすることで、いろいろなコミュニティーづくりに参加できる。寄付先の活動現場にも足を運んでほしい。自分のお金がどう生かされているのか、どういう結果をもたらしているのか確かめるのが理想だ。 

 

僕も現場に足を運んでいる。ホームレスへの炊き出しや「夜回り」に参加したことがあるし、米国留学時代には、貧困層への食料の提供やハリケーン「カトリーナ」の被災地復興支援活動に加わった。 

 

効果的利他主義とは違って、50万円の予算があったら20万円は飛行機代として使ってでも現地に行ってみることだ。身近な自治体への市民参加も重要。気候市民会議など、市民参加による政策作りを始めているところもある。ミュニシパリズム(地域主権主義)だ。身の回りの地に足のついた政治に市民がもっと積極的に参加していくことが大事だ。 

 

(さいとう・こうへい)東京大学大学院総合文化研究科准教授、経済思想家。1987年生まれ。米国やドイツに留学し、ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。哲学博士。「人新世の『資本論』」(2020年、集英社)はベストセラーに。 

 

朝日新聞社 

 

 

 
 

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