( 209626 )  2024/09/08 00:22:48  
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日本の夏は温暖化により様変わりしており、スポーツの現場では熱中症が相次いで発生している。

例えば、高校野球の練習中に重度の熱中症で倒れ、後遺症として眼振が残った男性の事例が取り上げられている。

熱中症で後遺症が残ることで運転免許が取れなくなるケースもあり、学校側に損害賠償を求める訴えも起こされている。

熱中症対策が慎重に行われる中で、高校野球の大会では暑さ基準がなく、選手や観客が熱中症疑いで倒れる事例が多発している。

暑さ指数を超えた日は屋外での活動を中止するように通達されているが、大会実施のために試合を消化しなければならないという問題も指摘されている。

(要約)

( 209628 )  2024/09/08 00:22:48  
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TBS NEWS DIG Powered by JNN 

 

温暖化で様変わりした日本の夏。スポーツの現場では今、熱中症になる人が相次いでいます。炎天下のスポーツはどうあるべきか。重い後遺症が残った男性と、対策を模索する現場を取材しました。 

 

【写真を見る】「人生が変わった」重い後遺症も…炎天下のスポーツと熱中症、高校野球“運動中止”の暑さでも「試合を消化しないと」【報道特集】 

 

■知られざる熱中症の後遺症、運転免許も“不適格”に… 

 

毎日のように使っていたグローブ。だが、この6年、身につけていない。宮城県登米市の佐藤龍生さん22歳の人生は、熱中症で倒れた日を境に大きく変わってしまった。 

 

佐藤龍生さん(22) 

「自分が熱中症になるとは全然思っていなかったことだったので。いろんな症状も重なって、助かるかわからない危ない状況でした」 

 

幼い頃から野球一筋で、中学時代はエースとして活躍。県内の強豪校に入って間もない高校1年生の夏、炎天下での練習中に、重度の熱中症で倒れた。 

 

佐藤龍生さん 

「『休憩したい』といえる状況ではなかった。『体調が悪い』といっても、コーチから『気持ちが弱い』と言われる、自分も実際そういう風に言われていたので」 

 

一命をとりとめたものの、佐藤さんには眼球が小刻みに痙攣し、無意識に目が動いてしまう「眼振」という重い後遺症が残った。 

 

佐藤龍生さん 

「例えば横を見て、そのあとすぐに正面を見ると二重になって、すぐには直らない。たまに『めまい』がすることもあるので、急になったりするので、何をやるにしても休みながら」 

 

医師の診断書には、重度の熱中症により脳の機能に障害が残ったことが記されている。運転免許を取ろうとしたが、公安委員会は目の後遺症を理由に“不適格”とした。 

 

佐藤龍生さん 

「免許は取れるのが当たり前だと思っていたので、その時は本当にショックだった」 

 

佐藤さんの父 研治さん 

「免許を取れないので行動範囲も限られてくるので、できる限り行きたいところには連れて行くし、休みが合えば一緒に行動もする。『龍生の足になろう』とお互い話していましたし、家族みんなで支えていこうと決めました」 

 

高校卒業後、就職もしたが、運転免許が取れないことで1か月後に自主退職に追い込まれた。今はアルバイトをしながら正社員の仕事を探しているが… 

 

 

佐藤龍生さん 

「地元だとどうしても、免許必須が多くなってくるので」 

 

佐藤さんは、熱中症対策を怠ったまま炎天下での練習をさせたとして、学校に損害賠償を求める訴えを起こしている。 

 

佐藤龍生さん 

「周りからは『熱中症から助かってよかったね』と言われるが、自分としては、助かったことでより苦しくなり、人生が終わるというか、何も楽しみがなくなって。そのまま助からないほうがよかったと思うことが何度もありました。本当に人生がまるっきり変わってしまった」 

 

部活動での熱中症をめぐっては、学校側に法的責任を認めた例も多い。 

 

高校のテニス部の練習中に倒れた女子生徒に重い障害が残ったケースでは、顧問の過失が認められ、兵庫県に2億3000万円の賠償が命じられた。 

 

学校現場も熱中症には細心の注意を払うようになってきた。全国大会に進む選手も輩出している、横浜市港南台第一中学の陸上部は基本、夏場の練習を早朝か夕方だけに制限している。 

 

その上で、テントをはって日陰を作り、こまめに水分を取らせている。さらに、氷水につけたスポンジを首や手足にあてて体を冷やしたり、休憩用にクーラーをきかせた教室を用意したりするなど、様々な対策を行っている。 

 

生徒 

「とても涼しくて、体力が回復する感じがする」 

 

だが、練習中の暑さ対策はできても、本番の試合ではそうはいかない。 

 

港南台第一中学 陸上部顧問 田島聡 さん 

「夏に大会をやる必要があるのかどうかということも含めて、これから考えないといけないところにきている。一番は命だと思うので、子どもたちの命に関わらないよう、上手にできたらというのが一番」 

 

■高校野球には試合中止の暑さ基準“なし” 

 

特に問題となるのは夏場に集中している大会だ。 

 

ことしも猛暑の中で行われた夏の甲子園。今回から新たな暑さ対策として、日中を避けて試合を午前と夕方に行う『2部制』を導入するなどしたが、試合中に足がつり、倒れ込む選手が続出。こうした熱中症疑いの選手は大会を通じて56人に上った。観客らの熱中症疑いは282人だった。 

 

 

真夏の炎天下、熱中症のリスクはどれほどのものなのか。 

 

熱中症の専門家で医師でもある中京大学の松本孝朗教授が、高校野球の地方大会の中で最も参加校が多い、愛知大会で調査を行った。 

 

試合が行われる9つの球場のうち、3つに暑さ指数=WBGTを測定する機器を設置した。 

 

中京大学 松本孝朗 教授 

「スタンドのある大きな球場は、すり鉢状になっていて、熱がこもるリスクがある」 

 

暑さ指数は気温や湿度などから熱中症のリスクを数値化したもので、「28」を超えると熱中症になる人が急増する。 

 

「31」以上は命に関わるリスクが高まるとして、日本スポーツ協会は、「運動の原則中止」を呼びかけている。 

 

日本サッカー協会はこの指針に基づき、2024年から暑さ指数が「31」を超えたら、ためらわず試合を中止するよう注意喚起を行っている。また、日本テニス協会は国際基準にあわせて暑さ指数「32.2」以上を中止の基準にしている。 

 

一方、高校野球は違う。中止する暑さの基準がないのだ。 

 

私たちが松本教授と調べた結果、6月下旬から7月にかけて3つの球場で行われた76試合のうち、68%の52試合が「運動は原則中止」とされる暑さ指数「31」を超えていたことが分かった。 

 

中には、試合中の暑さ指数が「34」~「37」で推移し、球場内の最高気温が45.6℃に達した試合もあった。 

 

選手 

「最初グラウンドに入ったときにサウナにいるような。外よりもだいぶ密閉された暑さ、蒸し暑いというか、言葉では表せないぐらい暑かったです」 

 

試合でたまった疲れが抜けず、その後の練習で熱中症になった生徒も。 

 

選手 

「足をつったり、体のけいれんがあったので、初めて(熱中症に)なったので大変怖かった」 

 

日進高校野球部顧問 森啓介 教諭 

「実際、高校野球の現場ではなかなか(熱中症になったと)言い出しにくい。言ったら『弱い』と思われてしまうとか、そういうメンタルに子どもたちはなってしまうので、大人が気をつけなきゃなという風には思います」 

 

 

■“運動中止”の暑さでも…高野連「試合を消化していかないといけない」 

 

「運動は原則中止」とされる暑さ指数をさらに上回る「33」以上の状態も、4割以上にあたる34試合で確認された。 

 

愛知県教育委員会は2024年から、すべての県立高校に対し、暑さ指数「33」を超えた場合はすぐに屋外での部活や体育の授業を打ち切るよう通知を出している。 

 

この状況を高野連はどう受け止めているのか。 

 

――暑さ指数「31」とか「33」を超えている試合がみられたが? 

 

愛知県高校野球連盟 鶴田賀宣 理事長 

「WBGT(暑さ指数)が『33』を超えるというのは、運動中止しなきゃいけない数字なのかもしれない。ただ、大会運営の中では試合を消化していかないといけないので、休憩を複数回入れながら、生徒の様子を十分にこちらが観察しておかないといけない」 

 

2024年からベンチにスポットクーラーを配置したり、体調の悪そうな選手をチェックして個別にスポーツドリンクを配ったりと、念入りな熱中症対策をしながら運営にあたっている。 

 

それでも愛知大会では選手や応援の生徒、保護者などあわせて64人が熱中症になり、うち11人が救急搬送された。 

 

松本教授は4年前にも同じ球場で調査を行っている。 

記録的な猛暑だった2020年ですら、7月に暑さ指数が「31」を超えた日は、7日間のみ。しかし2024年は、28日間も「31」を上回った。 

 

中京大学 松本孝朗 教授 

「このまま気温が上がり続けると、学校の体育の授業すら、屋外では中止せざるを得ないような暑い環境になってしまう」 

 

■勝敗が“じゃんけん”で決まる試合も…暑さ対策を徹底した野球大会 

 

実際に暑さ対策を徹底すると、運営にどんな支障が出るのだろうか。 

 

8月上旬に鳥取県で行われた小学生の野球の全国大会。日中の暑い時間を避け試合時間を朝(午前8時半~)と夕方(午後4時~)の2部制に。 

 

さらに試合開始前と各回ごとにグラウンドの暑さ指数を測定し、運動は原則中止とされる「31」を超えた場合は試合を行わないことにした。 

 

 

 
 

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