( 210156 )  2024/09/09 16:33:36  
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人気が衰えることのないタワーマンションに、需要が高いにもかかわらず神戸市の中心部では、新たな建設を規制する条例が可決された。

このタワーマンションの未来について、2000年に神戸市に法人を設立した長岡理知氏が説明している。

タワーマンションは50年後、100年後の未来を想像してみる必要がある。

タワーマンションは建築物で、いずれは解体される。

寿命は約100年と言われ、100年後の解体費用は非常に高額であることが問題だ。

神戸市はタワーマンションの建設を規制する条例を可決した理由には、都市計画上の懸念が挙げられる。

管理体制の健全さが資産価値を維持するために不可欠であることも述べられている。

(要約)

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(※画像はイメージです/PIXTA) 

 

人気衰えぬタワーマンション。需要が高いにもかかわらず、神戸市の中心部では、あえて新たな建設を規制する条例が可決されました。「廃棄物を作るに等しい」という神戸市長・久本喜造氏の強い言葉が話題を呼んでいます。本記事ではSさんの事例とともに、タワーマンションの未来について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。 

 

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いまなにかと話題のタワーマンションですが、50年後、100年後の姿を想像したことがあるでしょうか。 

 

タワーマンションとは一般的に、「地上20階以上、高さ60m以上」の高層マンションの通称です。東京カンテイによる2024年1月のプレスリリースによると、タワーマンションは全国で1,515棟存在するとされています。このうち最も多いのは東京都の479棟、次に大阪府の273棟、神奈川県の144棟という順番で、大都市圏に集中していることがわかります。 

  

 

大都市圏のタワーマンションは立地のよさが最大の特徴です。眺望がよく駅に極めて近い都心の立地に建てられているのは多くの人がご存じのとおりかと思います。東京都心であれば価格は軽く1億円を超え、2億円、3億円に迫る物件もめずらしくはありません。 

 

そんな多くの人の羨望と嫉妬を集めるタワーマンションですが、50年後、100年後にも資産価値を保ち、定期的な大規模修繕が支障なく行われる……。それが理想であっても、現実は少し厳しいかもしれません。 

 

タワーマンションも建築物である以上、いずれ解体されるときがやってきます。タワーマンションの「寿命」はどのくらいでしょうか。国土交通省「中古住宅流通促進・活用に関する研究会報告書」によると、RC造(鉄筋コンクリート造)の建物の物理的寿命は117年と推定されています。適切な修繕計画が実行されていれば、100年程度の寿命を確保できるはずです。 

 

しかし100年といえばわずか3世代分の期間でしかありません。100年後に残されたタワーマンションの解体は誰が行うのでしょうか。現在の法律では区分所有者が費用を負担するものとされています。タワーマンションではない板状型マンションであれば、解体費用は一戸あたり500万円程度とされています。一方でタワーマンションは超高層建築物であるため、費用がかさむのは容易に想像できます。もし、板状型マンションの倍の費用がかかるとしたら、一戸(一世帯)あたり1,000万円の費用を準備しなければならないということになります。 

 

木造の戸建て住宅であれば、解体費は坪当たり5万円~7万円程度が目安です。延べ床面積30坪の建物であれば、解体費は150万円~210万円ということになります。このほかにも地中杭の撤去費用も掛かるため、総額250万円~310万円程度となるでしょう。もちろん高額であることには違いありませんが、個人で負担するには現実的な金額に思えます。 

 

これに対して、タワーマンションの場合は比較にならないほどの費用負担を迫られるということになります。いま新築のタワーマンションを購入する人達ではなく、孫の世代に先送りしてしまう負担なのです。タワーマンションを購入する人は、通常のマンションや戸建て住宅よりもより緻密な「出口戦略」を立案しておく必要があります。 

 

日本で最も古いタワーマンションは、東京都港区にある1971年竣工の物件です。ビンテージマンションともいわれ、築後50年を超えていますが、健全な管理によっていまも瀟洒(しょうしゃ)な佇まいと、驚くほど高額な価格を維持できています。もちろん抜群の立地のよさも理由としてあります。東京都の現在も続く人口増加も関係しているでしょう。 

 

タワーマンションに限らず、マンションが建物の寿命を長く伸ばし、資産価値を維持するためには、管理体制の健全さが欠かせません。健全な管理組合の運営によって区分所有者の合意形成がスムーズになり、適切な修繕計画が実行されるのです。マンションの管理体制は、十分な修繕積立金が確保できているかにかかっています。修繕積立金が不足してしまえば、とたんに管理組合は機能不全に陥り、区分所有者の合意を取り付けようとしても上手くいくことはありません。 

 

建物の老朽化とともに資産価値が下がり、それに伴って売却を進める所有者が増加したらどうなるでしょうか。かつての輝いていたマンションは一気に限界集落と化し、「廃棄物」へと変貌していくことも決して大げさとは言い切れません。そしてタワーマンションだけではなく、それらが多く集まる街も壊れていく……。 

  

 

そこに強い危機感を持っている自治体があります。神戸市です。 

 

 

2021年に神戸市では「タワーマンション禁止令」ともいえる条例が可決されました。これは2022年7月から、 

  

 

・JR三ノ宮駅周辺においてマンションが建設できなくなる 

・その周辺部分も、住宅部分の容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)が最大400%までに制限される(敷地面積1,000m2以上の場合) 

 

 

 という厳しい内容です。つまり神戸市中央区の一部で建てることができるマンションは、10階程度の中規模のものが上限になるということです。 

 

なぜ自治体がここまで強い条例に踏み切ったのでしょうか。それには、次のような都市計画上の懸念が挙げられます。 

 

・人口バランスのゆがみ(郊外ニュータウンの空き家化) 

・防災上の問題 

・学校などインフラ整備の逼迫 

・一時的な人口増に対するインフラの無駄な投資 

・タワマンの廃棄物化の懸念 

 

神戸市は政令指定都市であるにもかかわらず、人口は減少しています。2023年には人口150万人を切り、政令指定都市のなかでは京都市とともに人口の順位を落としています。それにもかかわらず、神戸市中央区だけはこの25年間で3割以上も増加しているのです。人口が増加している地域においては、災害時の避難所の確保が難しいこと、学校などのインフラ整備が間に合わず仮校舎を利用せざるをえないなどの問題が起き始めています。しかし、子供が増えるのも一時的であるため、いずれインフラ投資も無駄となります。 

 

そして多くの人の印象に残ったのが「タワーマンションの廃棄物化」という言葉です。いますぐではないものの、人口減少に加え老朽化して管理体制が機能不全に陥れば、いずれ神戸市のど真ん中に廃棄物が誕生するというのです。 

 

これに反対する人の意見は次のようなものが見られます。 

  

 

・タワーマンションができると、人口が流入するので資産価値が上がる 

・タワーマンションができると、高所得者が集まり税収が上がる  

 

短期的には間違いではありませんが、問題の本質はそこではないでしょう。神戸市としては資産価値や税収ではなく、将来に向けて街として生き残るための都市計画が本質のはずです。あえて資産価値のことを論じるとすれば、人口が減少する街においては、タワーマンションといえども資産価値は急激に下がっていくと考えるほうが自然です。タワーマンションの資産価値(=高値で売買できるほどの価値)は人口が増加していることが前提だからです。 

 

そもそも、最近次々と新築されているタワーマンションは、大都市のど真ん中に通勤する人が、職場に近接した大都市に住めるという「立地」が最大の魅力です。街に人口が増え続けることで資産価値が維持されるのです。 

 

では神戸市はどうかというと、大阪市という大都市の通勤圏です。職場が存在し多くの人が仕事に通い、かつ人口が増え続けている大阪市のタワーマンションの資産価値は上がり続けますが、神戸市は難しいのではないかと思います。「郊外の高級住宅地」と「タワーマンション」は、どちらも高所得者や資産家が住まうものですが、本質的にはまったく異なる成り立ちです。タワーマンションは大都市のど真ん中に存在してはじめて期待される役割を果たすのです。 

 

また、神戸市の中心部に住宅(タワーマンション)が増えてしまうと、都市機能は住宅地としてのサイズに落ち着いてしまいます。そのサイズも人口減によってさらに矮小化していきます。そして街が壊れてしまうとタワーマンションの資産価値も下がっていくと想像できるのです。 

 

遠い将来に残されているのは、高齢者と低所得者が住民の圧倒的多数を占める廃墟のようなマンションでしょう。神戸市が心配するとおり、最後には解体もできない巨大な廃棄物となるかもしれないのです。「廃棄物」という言葉は過激かもしれませんが、都市計画の視点からも、不動産の資産価値の視点からも神戸市の条例は的確であるといえるかもしれません。 

 

では、この条例は個人のライフプランにどのような気づきを与えてくれるでしょうか。マイホームを購入するときのひとつの視点を、事例を紹介しながら説明していきます。 

 

 

<事例> 

 

Sさん 40歳  

 

会社員 年収920万円 

 

独身 

 

貯蓄額 5,700万円 

 

Sさんはある政令指定都市に住む会社員です。大手メーカーに勤務し年収は920万円と十分なのですが、結婚には興味がありません。一度婚活アプリをやってみましたが、Sさんと同世代の女性は一様に「年収」や「貯蓄額」「勤務先」などお金のことで男性を判断しているように見えてしまい、誰とも出会わず辞めてしまいました。きっとこのまま独身なのだろうと思っています。 

 

Sさんは地元の優秀な公立高校を卒業し、実家から通える地元の国立大に進学しました。そして地元に本社のある現在の勤務先に就職したのです。大きな都市に住むとはいえ、地元から出たことがないことがコンプレックスでもあります。 

 

最近、Sさんは持ち家を買おうかと考え始めました。現在は、職場から車で25分かかる場所にワンルームマンションを借りています。趣味のシュノーケリングの道具など持ち物が増えすぎて手狭になっているのです。バイクも持っているのですが、保管も雑にならざるをえず盗難の恐れもあります。 

 

そこで目についたのはJRの駅前にあるタワーマンションです。3LDKで申し分ない広さのうえに、一階にあるバイク専用の駐車場は綺麗でまるで高級ショールームのようです。外国製の高級バイクも多く停められていて、Sさんには非常に安心感があります。職場までは車で15分ほど。いまよりは少しだけ近くなります。 

 

価格は新築で8,000万円超です。Sさんは貯蓄から自己資金として3,000万円を出し、5,900万円の住宅ローンを借りようかと考えています。65歳の定年退職まで25年間で返済するとしたら、毎月の返済額は21万円ほど。現在の賃貸マンションの家賃は月14万円なので7万円の支出増ですが、ボーナス時の支払いを多くすれば月ごとの支出は抑えられるはずです。 

 

それにタワーマンションは資産価値が高く、売るときも高いと聞いたため、定年退職と同時に売却すれば老後資金にもなるだろう。沖縄あたりに移住してシュノーケリングに没頭する毎日も悪くないな……そう考えたのです。 

 

果たしてそれが正しい選択なのか、なにか抜け落ちている知識はないのか、ファイナンシャルプランナーに相談してみることにしました。 

 

 

FPがSさんの将来の収支を計算してみると、定年退職まで現在の会社で勤務するとしたら、無理のない住宅購入計画だという答えでした。しかしひとつ懸念があると言います。 

 

「定年退職後にマンションを売るという計画ですが、東京都心のタワーマンションと同列に考えていませんか?」とFP。 

 

Sさんの住む政令指定都市は現在は人口が増えていますが、10年先、20年先は激減する予測が立てられています。Sさんも60代となると同時に住民の高齢化も進み、マンション価格も急激に下がるかもしれません。修繕積立金も将来果たして足りるのかどうかは不明です。タワーマンションの大規模修繕は工法やノウハウが確立されてなく、いくらかかるのかは現時点では不明なのです。 

 

大規模修繕の前に売却しようと考えている区分所有者も少なくなくありません。築浅の美味しいところだけを味わって次の住まい方へと移行するのです。東京の都心にあり、管理体制が機能していればビンテージマンションとして資産価値を維持できるかもしれませんが、人口減の地方都市では難しいでしょう。タワーマンションの乱立によって街が壊れつつある場合はなおさらです。 

 

「なるほど」とSさん「自動車でたとえると、20年前の高級輸入車が中古市場で値崩れをし、高校を卒業したばかりの子がろくな整備をしないで乗り回すことと似ていますね」。 

 

「そうです。それを見て、新車時から丁寧に乗ってきたオーナーも手放してしまいますね。とてもよく似ています」FPは続けます。 

 

「もし売却せず定年退職後も所有し続けたとしたらどうなるでしょうか。Sさんは未婚独身ですから相続する子供さんがいません。相続はどなたに行くでしょうか」 

 

「おそらく弟の子供、姪か甥になると思います」 

 

「どちらにお住まいですか?」 

 

「東京の世田谷区です」 

 

新幹線でなければ行けない遠い街にあるタワーマンション、しかも資産価値が崩れてしまった物件を相続してしまうと姪、甥には大変な負担となってしまいます。貸したとしても家賃を高く設定することはできず、税金などの負担も重くなります。さらにその子供の世代、Sさんの孫の世代では解体に直面します。人口が増えている街であれば建て替えによって容積率の特例を受け、さらに戸数を増やして住民負担を減らすスキームも現実的です。しかし人口が減る街であればそれも厳しいと思います。 

 

 

 
 

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