( 210181 )  2024/09/09 17:04:58  
00

ネットフリックスが主催したホットドッグ早食い対決が米国ラスベガスで行われ、小林尊とジョーイ・チェスナットが対決してチェスナットが優勝した。

この対決は小林が引退を表明し、米国の動画配信サービス企業が実施した。

ネットフリックスはこれまでにスポーツ中継やライブ配信に積極的で、将来的にはメジャースポーツの放映権を獲得することも視野に入れている。

CEOはライブ番組を通じて多様な視聴者を引き付ける意義を強調しており、同社の成長戦略の一環となっている。

(要約)

( 210183 )  2024/09/09 17:04:58  
00

米国時間9月2日にラスベガスで催されたホットドッグ早食い対決(写真=ネットフリックス) 

 

 山のように積まれたホットドッグが瞬く間に減っていく――。米国で夏の終わりにあたるレーバーデー(労働者の日、9月2日)の祝日、ラスベガスの競技場に詰めかけた観衆の視線はステージ上で早食い競争に挑む2人の男性に注がれていた。日本が生んだフードファイターの小林尊(46歳)と、米国人の好敵手であるジョーイ・チェスナット(40歳)だ。 

 

【関連画像】ホットドッグ早食い対決に臨んだ小林尊(写真=ネットフリックス) 

 

 2000年代、2人はニューヨークのホットドッグ早食い大会で頂上を競い合った。それぞれの事情で同大会から離れたため、直接対決するのは15年ぶりだ。制限時間の10分間で食べたホットドッグは小林が66個、チェスナットが83個。チェスナットが大差で勝つ結果となったが、この対決を「最後の戦い」と位置付けていた小林も自身の記録を塗り替えた。 

 

 「(早食い競争が)スポーツとして広がり、いつか大きな舞台でボクシングのような戦いができるようになって、そこに自分が立ちたいという夢があった」。試合に先立ち、小林は報道陣の取材にこう語っていた。「実現できたのは幸せなこと」。対戦後にインスタグラムに投稿した引退宣言で見せた表情は、晴れ晴れとしていた。 

 

 実は、この対決を企画・主催したのは米動画配信サービス大手のネットフリックスだ。両選手との交渉やルールの策定といった興行全体を取りまとめると同時に、対戦の様子を特別番組『Chestnut vs. Kobayashi : 究極のホットバトル』として会員向けにライブ配信(生配信)した。 

 

 ネットフリックスといえば、最近では『地面師たち』のヒットの印象を持つ人が多いだろう。豊川悦司や綾野剛をはじめとする実力派俳優の起用、過激な描写、日本の地上波放送を大きく上回る制作費といった話題が頻繁に報じられている。13年に配信した『ハウス・オブ・カード 野望の階段』から積み上げてきた自社でのドラマ制作のノウハウが、世界で2億7765万人に上る会員を引き付けているのは間違いない。 

 

 それと比べると、今回のホットドッグ早食い対決のようなライブイベントの配信は歴史が浅い。23年3月、米国の芸人によるスタンダップコメディー『クリス・ロックの勝手に激オコ』をメリーランド州の劇場から生中継したのが始まりだ。 

 

 一方で、足元の動きは激しい。この1年半ほどの間に、米映画賞の1つであるSAG賞やプロゴルファーとF1ドライバーが組んで競う『The Netflix Cup』などをライブで流した。11月にはボクシング界のレジェンドであるマイク・タイソンと、有名ユーチューバーのジェイク・ポールの対戦も配信を計画する。さらに米プロレス団体ワールド・レスリング・エンターテインメント(WWE)と10年間で50億ドル(約7300億円)の契約を結び、25年から主力番組『Raw(ロウ)』を生中継する権利を手にした。 

 

 

 ネットフリックスのような動画配信サービスは視聴する時間や場所、端末を問わない柔軟性を武器に成長した経緯があり、ライブ配信への傾倒は奇妙に見えるかもしれない。だが、テッド・サランドス共同最高経営責任者(CEO)は「居間のテレビの前に皆が集まって同じ番組を一緒に見る行為には、魔法のような素晴らしさがある」と説明する。娯楽の選択肢が増えて人々の好みが分散していく中で、一度に大きな注目と熱狂を生み出せる「貴重な機会」としてライブ番組を捉えているのだ。 

 

 ライブ番組の「王様」と言えば、米プロフットボールNFLのようなメジャースポーツだろう。米娯楽業界誌バラエティーの分析によると、23年に視聴者数の多かった米テレビ番組(注:配信番組は含まない)トップ100のうち56はスポーツ番組だった。約1億1500万人が視聴した「スーパーボウル」を筆頭にNFLの試合が大半を占めており、ネットフリックスも24年のクリスマスに催されるNFLの2試合を配信する契約を結んでいる。 

 

 とはいえ、固定ファンの視聴と広告収入を見込みやすいメジャースポーツの放映権を得るのは容易ではない。英調査会社スポーツビジネスによると、世界のスポーツ放映権の合計額は23年に約560億ドルとなり、前年比2.4%増えた。米アマゾン・ドット・コムや米アップルといった巨大テクノロジー企業の参入でマネーゲームの様相が強まっており、「メジャースポーツのシーズン全体を配信して利益を出すのは非常に難しい」とサランドス氏は言う。 

 

 そこで新たな鉱脈として探っているのが、ホットドッグ早食い対決のような発掘・企画型のスポーツイベントや、以前からネットフリックスが注力してきたドキュメンタリー作品との相乗効果を狙える催しのライブ配信だ。同社でスポーツ番組制作を統括するバイスプレジデントのゲイブ・スピッツァー氏は日経ビジネスなどとの取材で「コアなスポーツファンだけでなく、新しいファンを引き付けることを常に目指している」と強調した。 

 

 小林とチェスナットによる対決では、両氏を取り上げた米ESPNのドキュメンタリー『30 for 30: The Good, The Bad, The Hungry』の制作に携わった人材がネットフリックスの社内にいたことが企画のきっかけになったという。2人の選手に接触してそれぞれの考えを聞きながら、1年以上かけて折衝を重ねることで実現にこぎ着けた。 

 

 リストラや再編が続く米メディア業界では現状、ネットフリックスは「勝ち組」と見られている。大手各社の配信ビジネスの損益の合算値を上回る額の利益を1社で稼いでいるためだ。だが、ここ2年ほどの成長は広告付きプランの導入やアカウントの使い回しに対する取り締まりの成果が大きい。 

 

 こうした施策が一巡した後も事業を伸ばし続けるには多様な番組が欠かせず、ライブ配信はその突破口として期待を集めている。スピッツァー氏は「(取り組みは)始まったばかりで、歩いたり、走ったりする前の赤ん坊がハイハイしているような状態だ」と慎重さを見せつつ、「我々には試行錯誤する力がある」と自信ものぞかせた。 

 

 『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の配信から10年余りたった今、日本でもネットフリックスのドラマが日常的に話題に上るようになり、テレビ局などとの間での人材移動も増えてきた。スピッツァー氏は「米国だけでなく、世界中の人々を興奮させるものは何かと考えている」と明かす。じわりと広がり始めた同社のライブ配信が『地面師たち』のように日本に刺激を与える日も、遠くはないかもしれない。 

 

佐藤 浩実 

 

 

 
 

IMAGE