( 210333 ) 2024/09/10 02:21:30 0 00 (写真はイメージ/gettyimages)
やっぱり家が高すぎて――。単身者にとっての状況もまた厳しい。高騰する住宅価格に悩む現代人を追う連載の5回目は、単身者が家を買うという選択肢と知っておくべきことについて。
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■都内6千万円強を44歳で購入
都内で会社員として働くC子さん(46)は、2年前、杉並区に中古マンションを購入した。2LDKで55平米、築5年の築浅マンションで、価格は6千万円強。
それまでは家賃15万円の渋谷区の賃貸マンションに1人で暮らしていた。物件は気に入っていたが、40歳を過ぎて、このまま家賃を払い続けながら賃貸に住むことに不安を覚えるようになったことが大きかった。
36歳で恋人と別れてから、パートナーはいない。大学入学とともに1人暮らしを始めたから、実家で家族と暮らした期間より1人で暮らす期間のほうがはるかに長い。
「良い出会いがあれば、結婚するのもあり」とは思っているが、誰に気をつかうこともない一人暮らしの自由も身に染みついている。「別にこのまま独身でいるのも悪くない」と思う。
■老後のためにもそろそろ家を
40代になってから、ぼんやりと「60歳まであと20年なんだ」と考えるようになった。20歳からの20年を考えると、時が過ぎるのはあっという間だ。「老後のためにもそろそろ家は買ったほうがいいかもしれない」と考えるのは、自然な流れだった。
社会人になってずっと都心に暮らしてきたし、通勤の便もあるから、なるべく都心近くで暮らしたい。コロナ禍も挟み、内見を繰り返すようになって2~3年。購入したマンションは、価格と立地が何とか折り合いのついた物件だった。近くに大学があり、もし今後、状況が変わって引っ越しを考えたときもそれなりに需要があると考えた。
「1人でマンションを買うのは勇気も必要だったけれど、これからの時代は単身者がもっと増えると聞くし、いざというときには売ったり貸したりできるかな、と。終の住み家になるかはわからないけれど、住まいを買うことで老後の不安は少し減ったと思っています」(C子さん)
C子さんは定年まで働き方を変えずに今の仕事を続けるつもりだ。
■単身世帯は増加
世帯の単独化が加速している。2050年には、全世帯に占める一人暮らしの割合が44.3%に達する見通しだ(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」)。同推計によれば、9年後の2033年には、全世帯の平均人数が初めて2人を割り込むと見られる。
■シングル世帯が19パーセント
リクルートの調査(2023年首都圏新築マンション契約者動向調査)によれば、契約世帯主は「シングル世帯」が19%と、2001年以降で最も高い割合となった。購入理由(3つまでの限定回答)は「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」がシングル男性45.8%、シングル女性40.9%でともにトップ。「老後の安心のため」との回答も多い。
単身者はどんなマンションを買っているのだろうか。
■1千万円前後の年収で6~7千万円を検討
「単身者のほうが、物件の資産価値を考える傾向が強い。女性の方も多いですよ」
こう話すのは、これまで多くの人の住宅購入における相談を受けてきた、ファイナンシャルプランナーの有田美津子さん。有田さんのところに相談に来る単身者は、年代は30代後半、6千万~7千万円の物件を検討している人が多い。年収は1千万円前後の会社員がボリュームゾーンだという。
単身世帯が増えているわけだから、単身者向けの不動産市場も広がりを見せているかと思いきや、意外にも「そこまで広がっていない」と話すのは、不動産調査会社・東京カンテイの井出武さんだ。
「税制面でのメリットも40平米以上というラインが引かれているので、それ以下の面積の不動産はマーケットとして大きくなりづらい。単身者も2人で十分住めるぐらいの広さの物件を購入することが多い印象です」
■「少し広め」で変化に備え
先のリクルートの調査によれば、全世帯の平均専有面積64.7平米に対して、シングル男性は52.9平米、シングル女性は48.7平米と、単身者でも比較的広めの物件を購入している人が多い。LIFULL HOME'S総研副所長の中山登志朗さんも、「1人だから狭い物件を買うというわけではなく、1人で住むには少し広めの、50~60平米の物件を選ぶ傾向」だと話す。
思いがけず結婚したり、実家に戻る必要が出たりするなど、物件購入後のライフプランに起こりうる「変化」への備え、という意味もある。
40平米の1LDKの場合、結婚して2人住まいになっても問題はないかもしれないが、子どもが生まれれば住み続けるのは難しくなってくる。
冒頭のC子さんが55平米の物件を選んだのは、それに加えて、売却を視野に入れた資産性の高さも考慮したからだ。
■住宅ローン減税やすまい給付金の対象
広めの物件であれば、住宅ローン減税やすまい給付金の対象になるというメリットも大きい。住宅ローン減税やすまい給付金の対象は、2020年度までは一律に「床面積50平米以上」の住宅だったが、2021年度の税制改正以降は条件つきで「40平米以上」に緩和されている。
ただし、ここでいう「40平米以上」とは、マンションのパンフレットなどにある専有面積のことではない。登記簿面積のことで、マンションの場合、「壁の内側(内法)」から測った面積のことになる。そのため、専有面積が41平米でも登記簿面積は39平米といったケースもあり、その場合にはローン減税を利用できない。
■13年間で最大455万円控除
ローン減税額は、年末ローン残高の0.7%となるため、初年度の借入残高が3千万円ならその年度は21万円の減税になる。その後はローン残高の減少によって徐々に減税額は減るが、新築住宅の場合、控除期間は13年間あるため、13年間で最大455万円ほどの控除になる。
登記簿面積40平米以上のマイホームは、20平米台、30平米台の物件に比べると価格は高いが、その分、ローン減税の適用を受けられる場合があるため、増加する負担分もある程度はカバーできる。
■万が一働けなくなったら
単身者がローンを組む際の注意点もある。まず、病気やけがなど、万が一仕事が続けられなくなったときのことも考慮しておきたい。有田さんは言う。
「40歳以上で預貯金が十分ない場合、借りすぎると老後破綻の恐れもあります。あまり預貯金を持たずに頭金なしのフルローンを組もうとする人もいますが、何かが起こってから急いで売却しようとすれば、高値で売れず担保割れにつながる恐れもある。預貯金があれば、ローンでの破綻は防げるので、ローンの支払いとともに貯める癖をつけることが必要です」
■賃貸はリスクを老後に先送り
老後を考え、現役のうちに住まいを購入したいと考える単身者も多いだろう。住宅ローンに詳しい公認会計士の千日太郎さんは、「賃貸なら賃貸の、持ち家なら持ち家を前提としたリスクがある」と指摘する。
賃貸は「リスクを老後に先送りする選択」と千日さん。定年退職後は毎月の給料がなくなり、年金と貯蓄が生命線になる。「賃貸」暮らしを続けた場合、定年後の収入が大幅に減る状況下で定額の家賃を払い続けなければならない。
「このリスクを和らげるのが、老後資金のための貯蓄です。賃貸に住み続けるということは、老後にリスクをとり、生涯賃金を定年後に多く配分していく戦略をとることになります。預貯金はインフレ環境下で目減りするため、株式のほか不動産などの現物資産でも資産形成していく必要があります。ただし、現物資産にも元本割れのリスクがあります」(千日さん)
■持ち家はリスクを現役時代に前倒し
対して、持ち家は「リスクを現役時代に前倒しする選択」(千日さん)。その後の状況が大きく変わる可能性もあるなか、融通の利かない多額の住宅ローンを背負う。ただし、定年後は維持費(管理費、修繕積立金、固定資産税)だけで住居を維持することができる。
「持ち家は現役時代にリスクをとり、生涯賃金を現役時代により多く配分する戦略になります」(千日さん)
どちらが正しいということではなく、大切なのは個々の状況や価値観に合わせた選択ができるかどうかだ。
若い単身者が不動産投資を始める例も広がっている。次回では、広がりを見せるワンルームマンション投資のリスクと注意について、専門家の声を元に解説する。
松岡かすみ
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