( 210456 )  2024/09/10 16:34:02  
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軍事マニアはしばしば、正確な情報を誤解しやすい。

その理由は、愛好家気質から離れられないためであり、心地よい内容や公式発表に流されることで、誤った情報でも真実と信じ込んでしまうからだ。

F-2戦闘機についても実際は米F-16のコピーであるが、軍事マニアは日本独自の設計だと信じている。

これは軍事趣味だけでなく他の趣味分野でも同様であり、愛国心やナショナリズムが絡んで正確な情報を認められない傾向がある。

(要約)

( 210458 )  2024/09/10 16:34:02  
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F-2(画像:写真AC) 

 

 マニアはしばしば正確に間違える。現実とは真反対の形に理解することも珍しくない。元3等海佐(中級幹部)の筆者(文谷数重、軍事ライター)は以前、当媒体に「「軍事オタク」が専門家から全く相手にされない3つの理由 元海上自衛官が冷静に分析する」(2024年6月30日配信)という記事を書いた。 

 

【画像】マジ!? これが自衛官の「年収」です(計9枚) 

 

 F-2戦闘機のオリジナリティーはその好例である。米F-16のコピーだが、軍事マニアは日本の独自設計と信じて疑わない。 

 

 なぜ、マニアは正確に間違えるのか。 

 

“愛好家気質”から離れられないためだ。具体的には 

 

・心地よい内容を好み 

・公式発表に誘導され 

・趣味集団内の言動に流される 

 

それにより誤った結論でも真実と信じ込むのである。 

 

 前述の記事で書いたとおり、これは軍事趣味だけでなく、 

 

・鉄道趣味 

・自動車趣味 

・アニメ趣味 

・特撮趣味 

・アイドル趣味 

 

でも同様で、公式を正解として扱う価値観がある。例外はプロレスくらいである。 

 

F-16(画像:写真AC) 

 

 果たして、F-2は日本オリジナルの戦闘機なのだろうか。 

 

 F-2は米F-16戦闘機のコピーでしかない。デザインとエンジンは同じである。寸法や重量、性能も大同小異である。F-16のうちのC/D型とXL型ほどの違いはない。 

 

 開発もライセンス生産に近い。製造元との協定下である。製造権を購入したのと変わらない。開発支援も受けておりクリーンルーム設計からもほど遠い。 

 

 しかし、マニアはこの事実を認めようしない。 

 

「日本が独自に開発した国産戦闘機」 

 

といった身内の神話を信じ切っている。 

 

 そして、その否定に躍起である。 

 

「F-2は主翼の面積が1割大きい」 

「素材が違う」 

「風防の分割形状が異なる」 

 

だからF-16のコピーではない。そう反論する。内容としてはザ・タッチやバラモン兄弟、古くはザ・ピーナッツを見分ける方法でしかない。 

 

自動車のイメージ(画像:写真AC) 

 

 なぜ、そのような奇妙な解釈に至るのか。 

 

 第一の理由は、「心地よい内容」だからである。マニアもまたファンであり趣味対象を褒める話を聞きたがり、信じたがる特性がある。 

 

 例えば自衛隊、警察、消防のマニアは 

 

「いかに役に立っているか」 

 

の話を好む。「国民の自衛官」のような政治臭い表彰も喜んで読む。そのいずれにもいる心技体そろった愚か者が起こした事件記事や、筆者のような“非国民”の元自衛官の主張は忌避して読まない。 

 

 そこにナショナリズムが絡むとさらに食いつく。鉄道マニアは 

 

「日本の新幹線が台湾で採用された」 

 

類の記事を好む。アニメや漫画のマニアですら「欧米でクールジャパン、中国でも酷日本として評価」の話を好む。 

 

「F-2は日本のオリジナル神話」はこれである。これは事実であるが、もともと「世界水準の戦闘機」の心地よさがある。その上に「日本が独自に開発した戦闘機」と“愛国心”も刺激されるのである。 

 

 マニアの願望と一致している。だから喜んで受容し信じ込むのである。 

 

 

アイドルのイメージ(画像:写真AC) 

 

 第二の理由は、「公式発表を信じて疑わないこと」である。そのため、公式発表が正しくない場合には正確に間違えることになる。 

 

 マニアにとって「正解」とは権威筋からの発表を指す。何よりも公式発表であり、次には趣味誌等の記事である。 

 

 しかし、権威筋は必ずしも正しいとは限らない。 

 

 政府や業界からしてそうである。ウソはあまりつかないが、いつも本当のことをいっているわけでもない。防衛ムラや電力ムラは、そうやってだまそうとする傾向がある。 

 

 趣味誌には 

 

「広告や取材先の影響」 

 

もある。TOTOの広告があればINAXの製品は持ち上げない。日本たばこ産業(JT)の取材協力があればタバコの害に触れてはならない。 

 

 ただ、マニアはそれに気づかない。権威を信用しきっている上、内容を批判的に読み解けないからである。 

 

 だから正確にだまされるのである。 

 

 実際のところ、F-2への言及はポジショントークにあふれている。 

 

 当時の防衛庁は国内開発を強調せざるを得ない。F-16コピーを認めると「それならF-16を買え」となる。だから「新素材を採用し日本の要求に合わせてゼロベースから設計した」と強調したのである。 

 

 防衛産業も独自性を強調しなければならない立場である。F-2採用は防衛産業保護のためでしかない。しかもF-16の「車輪の再発明」である。それに3500億円を投じた。製造単価もF-16の2倍以上となった。その事実は認めるわけにはいかない。 

 

 趣味誌も本当のことはいわない。広告主、取材元に泥を塗る上、愛読者の願望にもそぐわない。だから、いかにF-16とは違うか、F-16よりも強いかを力説する。記者も真摯(しんし)に読者に事実を伝えることは、 

 

「大人げないことであり」 

「大事なお客さんを切る行為である」 

 

そう心得るものも珍しくない。 

 

 これはH-3ロケットも同じである。その実態は宇宙開発詐欺でしかない。ファルコン9にはじまる再利用型の登場で経済性は打ち上げ前に消滅している。しかし、政府は成長産業の重点事業といい、産業サイドは世界に伍(ご)するロケットといい、科学技術の記事では世界に誇る技術とヨイショしている。そしてマニアは正確にだまされるのである。 

 

 

鉄道のイメージ(画像:写真AC) 

 

 第三の理由は、「自分で判断しないこと」である。マニアは判断を他人任せ、特に趣味集団における評価に委ねている。 

 

「みんながどのようにいっているか」 

 

に流されてしまう。 

 

 これも「F-2は日本のオリジナル」が膾炙(かいしゃ。広くいわれていること)した理由である。まず第一、第二の効果で軍事マニアが受け入れる。そうなると「みんなもそういっているから正しい」と信じてしまうのである。 

 

 集団への没入ゆえに異論も拒絶する。悪化すると反論も自分の信念が揺らぐので直視できなくなる。反論がウェブ記事なら「PVを稼がせない」と合理化して読まずに一蹴する。このあたりは 

 

「鉄道マニア」 

 

も同じである。趣味集団の価値観に染まりきっている。 

 

“過激派”は世間との調節もできなくなっている。線路内立入や大光量のフラッシュといった鉄道安全への挑戦や、公衆面前での“罵声大会”に疑問を抱かない。 

 

 それでいて出てくる写真はみんな同じである。だからか、収差に至るまでの出来を持ち出して競っている。ピクセル規模でも「ちょっとピンボケ」は門前払いにする。(ロバート・)キャパが撮っても失敗作の扱いである。 

 

P-8(画像:写真AC) 

 

 当事者はこのマニア連をどう見ているのか。 

 

 現場は「公式発表を素直に信じるものだな」と見ている。意図ある公式発表にも正確にミスリードされるからである。 

 

 当事者だから組織方針の誤りもよく見えており、だますことにも批判的である。 

 

 実際に国産機について自衛隊員に「よかったところはなんですか」と筆者が聞くと 

 

「国産なんかしなければよかった」 

 

と答える。これは国産哨戒機P-1の話である。 

 

「石破防衛相のいうとおりP-8にすればよかった」 

 

ともいっていた。 

 

「担当も『今のうちにP-8を買わないと将来が』と危機感を持っている」 

 

との話も別に聞いている。 

 

 だが、マニアは心地よくない話は信じない。筆者が聞いた「P-1のうち飛行可能な『ステイタスA』は半分もない」や、さらに踏み込んだ清谷信一さんの「可動機は三割」の話は受容できない。F-16コピーの事実提示と同様に 

 

「ボクの大好きな国産機が失敗作なわけがない」 

 

と拒絶するのである。 

 

文谷数重(軍事ライター) 

 

 

 
 

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