( 211421 )  2024/09/13 17:09:43  
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小泉進次郎氏の自民党総裁選出馬会見での「失礼質問」と、進次郎氏の返答から見える「低迷日本の縮図」について解説されている。

資本主義の最前線で活躍してきた田内学氏からのコメントもあり、お金を増やすことよりも、お金をどのような社会に投資するかが重要であり、自己完結主義を超えたチームワークが日本社会に必要だと指摘されている。

(要約)

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小泉進次郎氏の自民党総裁選出馬会見で飛び出た「失礼質問」と、進次郎氏の返答から見えてくる「低迷日本の縮図」とは?(写真:尾形文繁) 

 

経済の教養が学べる小説『きみのお金は誰のため──ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』著者である田内学氏は元ゴールドマン・サックスのトレーダー。資本主義の最前線で16年間戦ってきた田内氏はこう語る。 

 

【写真】経済教養小説『きみのお金は誰のため』には、「勉強になった!」「ラストで泣いた」など、多くの読者の声が寄せられている。 

 

「みんながどんなにがんばっても、全員がお金持ちになることはできません。でも、みんなでがんばれば、全員が幸せになれる社会を作ることはできる。大切なのは、お金を増やすことではなく、そのお金をどこに流してどんな社会を作るかなんです」 

 

今回は、9月6日に行われた小泉進次郎氏の自民党総裁選出馬会見で飛び出た「失礼質問」と、進次郎氏の返答から見えてくる「低迷日本の縮図」を解説してもらう。 

 

■「弱点を補ってくれる仲間を作る」の重要性 

 

 先日、小泉進次郎氏の自民党総裁選への出馬会見で、フリーの記者が投げかけた質問が大きな話題になった。 

 

 「小泉さんが首相になって、G7に出席されたら知的レベルの低さで恥をかくのではないか。みなさん心配しております」 

 

 この挑発的な質問に対し、小泉氏は冷静かつ見事な切り返しを見せた。 

 

 「足りないところを補ってくれる最高のチームを作ります」と、自分の弱点を認めながら、具体的な対応策を示したのだ。 

 

 この回答には賞賛が集まったが、それ以上に「自分ができなければ誰かに頼ってもいいのだ」というメッセージに、ほっとした人も多かったのではないだろうか。 

 

 日本人は、「自分1人で頑張らなければならない」「弱みを見せてはいけない」という考えに縛られがちだ。 

 

 日本では失敗が許されない空気が流れている。 

 

 だからこそ、記者の質問のように「恥をかくのではないか」と常に心配し、その記者自身も質問に失敗して、SNSという世間から許してもらえない。 

 

 この完璧主義的で重苦しい空気が、社会全体の停滞を招いているのではないだろうか。 

 

 日本にはアメリカのGAFAのような新興企業が生まれていない。優秀で勤勉な日本人が多くいるにもかかわらず、アメリカのGAFAのような新興企業が生まれてこないのも、失敗を恐れてリスクを取れない社会の風潮が一因だ。 

 

 

 どれだけ「貯蓄から投資へ」とお金が回っても、新たな挑戦をする人がいなければ、イノベーションは起こらない。 

 

■凸と凹の噛み合い 

 

 この「失敗を許さない空気」は、個人の生き方や働き方にも深刻な影響を及ぼしている。ビジネスパーソンは、英語は話せないといけないし、エクセルやチャットGPTも使いこなせないといけない。プレゼンやコミュニケーション能力の向上が求められる。 

 

 しかし、小泉氏が語ったように、足りないところを補い合うことができれば、もっと気楽に仕事ができるだろう。 

 

 社会学者の宮台真司氏も「凸と凹の噛み合い」の重要性を説いている。 

 

 英語ができなくても英語ができる人を頼り、体力がなければ体力のある人を頼る。すべてを1人で完璧にこなそうとするのはコストが高すぎる。だからこそ、お互いの得意な部分を活かし合うことで、集団全体の生産性を高めるのが賢い生存戦略だ。感覚的な話ではなく、数理的に考えてあたりまえの話なのだ。 

 

 アップルを創業したスティーブ・ジョブズも、「人に助けを求めることが成功の基盤だ」と語っている。 

 

 最近、金融経済教育に力を入れる学校が増えている。私も高校などで講演する機会があるが、その際には「今日は、お金よりも仲間のほうが大事なことを証明します」と語りかけている。 

 

 これは道徳の話ではない。お金という道具の意味を理解すれば当たり前の話なのだ。 

 

■「お金という道具」の役割 

 

 お金が存在しなかった時代、人々は村の中で協力し合いながら生活していた。お金が発明されると、村の人に直接頼らずとも、支払いによって必要なものを手に入れられるようになった。 

 

 しかし、それはお金が物に変わるということではない。お金を支払うことで、まったく知らない人の協力を得られるようになったのだ。お金とは、協力し合う仲間を増やすためのシステムなのだ。 

 

 では、「仲間を増やすためには、お金を増やせばいいじゃないか」と思うかもしれないが、これはまったく反対だ。 

 

 「お金を増やしたい」という目標を掲げても、誰もあなたに協力しようなんて思わない。あなたがお金を増やすことは他の人にとってまったくどうでもいいことだからだ。 

 

 

 協力してくれる人がいないから孤立化がすすみ、自分1人でいろいろ頑張らなきゃいけないと考えるようになる。さらに、頼るものはお金しかないから、お金を増やすことを考えて協力者が現れないという悪循環に陥っていく。 

 

 それよりも、人を楽しませるとかみんなの不便を解決するとか、他の人の幸せが含まれる目標を見つければ、仲間はたくさん増えて、いろいろなことが実現しやすくなると学生向けに話している。 

 

 社会全体では、そもそもお金を増やすことができない。最近、利上げが行われて、金利によって全体のお金が増えると信じている人もいるのだが、そこには大きな誤解がある。 

 

 拙著『きみのお金は誰のため』では、お金と社会の仕組みを説明しているが、お金を奪い合うことよりも、未来を共有することの重要性を経済的な視点から説明している。 

 

七海はまだ眉間にしわを寄せていた。 

「お金の移動はわかります。ですけど、金利の分だけ、お金は増えるのではないでしょうか。日本は低金利ですが、預金していれば利息がつきますよね」 

ボスは「いや」と一度首を横に振ってから説明を始めた。 

「利息もまたお金の移動なんや。利息ってのは、銀行がもうけたお金を、預金者に払っているだけや。空中からパッと出てくるわけやない。金利の分だけお金が増えると思うのは、よくある誤解や」 

 

(中略) 

「そういう話やない。値切って安く買おうとするのも、客に高く売りつけることだけ考えるのも、お金の奪い合いや。共有できることは他にある。少なくともおばちゃんは、君がおいしくどら焼きを食べる未来を共有してくれていると思うで」 

優斗はテーブルに1つだけ残ったどら焼きを見つめながら、その言葉の意味を考えた。 

家族や近所の人たち、部活の仲間だって、未来の幸せや目的を共有している。たしかに、お金は奪い合うことになる。だけど、共有する未来をいっしょに思い描ければ、協力することはできそうだ。 

 

 

『きみのお金は誰のため』116ページより 

 

■日本全体で「足りないところ補い合う」意識 

 

 小泉氏は、「足りないところを補ってくれる最高のチームを作る」と言っていたが、これはチーム日本としても同じことが言えるだろう。 

 

 国の中にも仲間意識があれば、新しいチャレンジをする人や会社を叩こうとする人も減るだろうし、仮に失敗したとしても、それはチーム日本として、次の挑戦に活かせるはずだ。 

 

 その仲間意識を持つためにも、共有する日本の未来を描いてくれるリーダーが必要とされているのではないだろうか。 

 

 そして、私たち1人ひとりも、周りとの協力を意識したほうが、気楽に暮らしていけると思うのだ。 

 

田内 学 :お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家 

 

 

 
 

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